《験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の果を見せつける-》戦爭史
「よし、今回は歴史だな。特に近年の歴史についての話にはなるが、どこまで知ってる?」
日本とは違い近隣諸國との爭いが絶えない我が王國は、直近の戦爭の歴史も多い。
しかし、互いに手は出すが相手が守りを固めたら深追いはしないという張狀態を長年キープしているので小さな小競り合いが各所で起こっているのだ。
「あまり、習わないと思いますよ。ほら、戦爭っていうのは過激ですから。私たちも王族・貴族とはいえ子供ですから。戦爭を學ぶとなるとなまぐさいといいますか」
「という裏事を知ってるお前は何なんだ」
お前は大人なのか子供なのか。
どういう立ち位置なんだウィル。
「まぁ、そうだろうな。だが、ここからはそうはいかない。良くも悪くも、お前らは將來國の將來を背負う立場の者たちだ。矢面に立たされると言い換えてもいい。その時になって前回の諍いの理由を知りませんじゃ、話にならないからな」
歴史を學ぶのは何のためか。
その歴史から教訓を得てそれを次に活かすためである。
とするならば日本における日本史や世界史の科目は全くと言っていいほど役に立っていないと言っていい。
なぜなら、ほとんどの者が丸暗記で理解にまでは及んでいないのだから。
しかし、何千年もある地球の歴史上のことをすべて理解して覚えることなんてそれこそ不可能である。
だから、絶対にこれだけは踏み外してはいけないということを覚える。
それが、日本で言うところの「平和學習」だと俺は思う。
「直近の戦爭はいつだ? ティム」
「2年前の帝國との戦爭です。相手が帝國だったという事もあり、戦いは熾烈を極めたと記憶しています」
ティムははきはきと答えてくれるから當てやすい。
先生としては全員に満遍なく発表させるべきなのだろうが、どうしてもスムーズに話を進めたい時にはこうしてしまうな。
「その通り。知っての通り、帝國は王國と並ぶくらいの大國だ。それゆえに互いに対抗意識は強く、今までも何度も戦爭を起こしている」
今も言った通り、王國と帝國はこの大陸で1,2を爭う大國だ。
その政治の違いや、領土の問題などで頻繁に牽制しあっているが、戦爭と呼べるものにまで発展したのは凡そ20年ぶりだ。
「王國の死者はどのくらいだった? エウレア」
「……3萬人」
「そうだな。たった2年しか続いていないということを加味すると、相當に激しかったことがわかる」
日本の歴史で言えば、日清戦爭程の規模だろうか。
しかし、日清戦爭には勝者と敗者が存在していたのに対し、これには存在しない。
痛み分けという形になり、ただ國力を落としただけであったのだ。
「で、國として初の學徒員もあった。これは國の決議によって決められたことだから詳細は知らんが、やっぱり戦力不足が大きかったみたいだな」
こういう時に真っ先に矢面に出るべきなのは貴族である。
その為に特権を利用し、いい教育をけ、いい生活をしているのだから。
しかし、20年も戦爭がなかったことによって軍としての張が薄れてしまっていたようだ。
というのも、かなりの割合の貴族が従軍を拒否したのだ。
もちろん、拒否したからと言って出來るものではないのだが、この場合は前線での戦闘への參加を拒否したという意味になる。
それによって戦力が不足し、學園からも優秀な者を前線に送らざるを得なかった。
これが問題なのは言ってしまえばただの人數合わせや捨て駒としての員ではなく、戦力として員されたという事である。
つまり、次代を擔う戦力を先んじて利用するしかない程だったという事なのである。
王様にもこれには絶句し、戦爭が一旦片付いたのちに軍部の再編が行われたのだが、それはまた別のお話しである。
「で、この話が何を教えてくれるかと言うとだ。お前らも5年後くらいには戦場に出ている可能すらあるという事だ」
先ほども言った通り、軍部の再編も行われたのでそう簡単に學生まで出張るようなことにはならないと思うが、それでも前例が出來た以上可能はゼロではない。
貴族たちは自分たちが危険に曬されるくらいなら子供たちを戦場に行かせようとしたのだ。
もちろん、全ての貴族ではないが。
「先生」
「はい、デラロサ」
「それでも王族は前線には出ないんでしょ?」
チラリとウィルを見ながらそんなことを言う。
なるほど。
ゲイルに合わせてあまり王族に敬意を持っていないデラロサにとってはウィルを守るために自分が戦うというのが想像しにくいのだろう。
「そうとも限らない。お前も現國王の武勇伝くらいは聞いたことあるだろ?」
今よりも國が安定していなかった時代。
前國王から継承者を決めるために兄弟間でもでを洗う爭いがあったらしい。
それに辟易した現國王は各戦場を飛び回ってその武功で他の兄弟を黙らせたと言われている。
結果として、現國王の治世になって國王暗殺などのきはないようだ。
あったとしても、その兄弟たちが協力して止めているとさえ言われている。
それほどまでに現國王の功績は多大だったのだ。
「で、でも時代が違うし……」
「ウィル、どう思う?」
俺との議論中に話をウィルに振られ、デラロサはちょっと焦った顔になる。
そんなになるなら最初っからやめときゃいいのに。
「……上姉さまは、行ってましたよ」
「!」
そう、2年前の戦爭に、アンは王族代表として參戦しているのだ。
理由としては3つ。
1つ目は、學園の中でも実力が抜きんでていたこと。
他の優秀な生徒も行かせる中でアンだけ特別に學園に殘ることを、誰よりもアン自が許さなかった。
2つ目は、王族の裁。
戦爭に大將がいないのでは示しがつかない。
そして、次世代が育ち切っていない今、現國王を危険に曬すわけにはいかない。
よって王家の長子であるアンが行くこととなった。
そして3つ目は自軍の士気を上げるため。
現國王ならば、それこそ自らの武勇を以て自軍を引っ張る。
その代わりにアンは、その貌を以て自軍の士気を高める役割があった。
見目麗しき王に先陣を切られては自軍が起しないわけにはいかない。
アンもマスコットしての役割は嫌がっていたが、いざ戦場に著けば役割を全うしていた。
「まぁ、何が言いたいかというと、お前らもちゃんと先人から學べよってことだ」
力なく席に座ったデラロサやクラスに向けてライヤは授業を再開した。
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