「本來なら王の間で謁見となるのだろうが、生憎、覇業を始めたばかりで、この城の整備に時間が取れなくて困っているんだ。狹い客間で申し訳ないね。ところで君は牛を飲むかね？」

どうやら『魔王』が手にしている飲料は牛だったらしい。

グルカが斷ると殘念そうな表を見せた。

『魔王』は、人間離れしていて、そして、妙に人間臭い。

グルカは、それが『魔王』の魅力としてじている。

「私の戦場では、朝は牛と決まっていたのだが・・・・・・。まぁいい。それで頼んでいた件はどうだったのかね？」

『魔王』とグルカの會話は前置きも短く、本題へとった。

『魔王』からの依頼。それは、《渡人》たちの調査。

ほんの數時間前、曹丕達との戦いだけではない。

この世界各所に散らばっている《渡人》

それらと実際に戦い、どういった人間なのかを調べる事が『魔王』からの依頼であった。

『魔王』が、なぜ『魔王』として振舞っているのか？

その理由は數多くある。その中のひとつが、不信である。

一、どのくらいの《渡人》がこの世界にやってくるのか？そして、彼らはこの世界で何を行っているのか？

そのを正確に把握しているのは、國の公的機関だけだろう。

『今日、この世界に新しくやってきた《渡人》さんは、こういうお名前で、元の世界では、このような人でした』

そういう報を國が流すことはない。

この世界に莫大な利益を生み出す可能のある人間たち。それが《渡人》であるはずにも関わらず・・・・・・。

まったく持って非効率な主義。

國が《渡人》に行う事は、この世界で困らないように戸籍と生活費を與え、ほとんどが放置。

これは理解しがたい。不自然さをじさせる。

《渡人》達の中には、過去に國を滅ぼした経験者が幾らでもいる。

社會の秩序をせるだけした大悪黨も數知れず。

そういう人を國が放置している現狀は、まったくもって理解しがたく・・・・・・

何か裏があるのではないかと勘ぐってみるほどである。つまりは、この國のあり方に不信を『魔王』は抱いているのだ。

最も、それは『魔王』と名乗り、國を滅ぼそうとし、社會の秩序をそうとしている本人だから、じている不信なのかもしれない。

この數日間、グルカが各地を飛び回り、集めた報を聞きながら『魔王』は思考する。

《渡人》は２種類の人間に分けられる。

１つは、元いた世界では何らかの偉業を達した人。

そして、もつ１つは―――

何らかの偉業を達する事になる人。

つまり、後に歴史に名を刻むはずの人が、その偉業を達する前にこの世界に來ているのだ。

確かに自分がいた時代に伝わっている歴史。

それらの多くは、記録が紙の時代だったり、報伝達が口伝だった時代のもの。

なるほど、確かに―――

確かに、記録に殘っていないエピソードとして、英雄たちが行方不明となり、この世界に來ていたと可能は否定できない。

しかし、ならばなぜ？

なぜ、元の世界に戻る手段が皆無だとされているのか？

元の世界で偉業を行う予定の者が元の世界に帰れぬ。

かつて『魔王』が元の世界で使えていた王がこういう話が好きだった。

國を挙げて行われるほどオカルト話が好きであり、『魔王』自も、そういう知識はある。

 『魔王』がいた世界では、そういう出來事を、こう言う。

『タイムパラドックス』

グルカ評。

『魔王』とグルカの間にあるテーブル。

その上に、空中に文字が浮かんでいる。

容は、グルカが接した《渡人》たちのデータである。

１人１人のデータをグルカが解説していく。

これを『魔王』はグルカ評と呼んでいた。

このグルカ評を參考にして、自分の仲間になりそうな者を選別し、スカウトする方針を『魔王』は行おうとしている。

まだ準備段階であり、本格的にスカウティングを開始するには、まだ時間がかかる。

グルカ評には知っている歴史上の偉人もいれば、変人、奇人として名を殘した人もいる。

不意に『魔王』は１人のデータに興味を持った。

「この年は？」と『魔王』は１人のデータに指をさす。

グルカは、そのことを事前に知っていたかのように答えた。

「曹丕。この年の名前は曹丕子桓。貴方と同じく、王の素質を持つ者です」