そこは中世ローマのコロッセオを忠実に再現したかのような建。

ならば、その建の目的も同じなのだろう。

民衆は退屈していた。

人間として完を迎えた彼らはには、これ以上の進化はめず、停滯している。

そのために歴史の外部から思考を求めて―——

いや、これは、まだ先の話。

民衆は退屈していた。

だから、より過激な娯楽デスゲームを　求めていた。

ただ、それだけの話だ。

今回の戦いは、普段と違っていた。

コロッセオの客席に空きはない。

に飢え、怖い見たさの観客たちによって埋め盡くされている。

しかし―——

靜寂に包まれていた。

誰もが口を閉ざし、たまに聞こえるのは服がすれる音のみ。

人々を困させ、口を閉ざさせる原因はなにか？

どうやら、コロッセオの中心にいる2人の剣闘士グラディエイターによるものらしい。

片方の男は剣闘士グラディエイターに相応しい屈強な男。淺黒いに鍛え抜かれた。そして、鋭い視線。

彼の武も防も風変りなである。

剣闘士グラディエイターと言うよりも漁師のように見える。

軽裝の鎧。片方の肩當だけ不自然に大きい。兜もかぶらず、盾も持っていない。

いや、漁師に見える理由は武にある。

片手に持つ三又の矛トライデントだけなら、まだ普通だ。

もう一つの手に持つ武。それは網だった。

だが、彼の正は漁師などではなく、本の剣闘士グラディエイターであった。

紀元前264年のローマから始まった剣闘の歴史。

最初は死者へ対する鎮魂の儀式として始まったそれは、娯楽として溶け込み、　紀元80年には5萬人の人間を収容可能にするコロッセオが完する。

剣闘士の歴史700年。その中に彼はいた。

かの時代より《渡人》として現れた1人だ。

彼の戦闘法スタイルは投網剣闘士レティアリウス。

複數の重りを縁につけた網によって、相手を拘束し、三又の矛トライデントによって決著をつける戦闘法スタイルだ。

《渡人》として、この世界に來た人間だ。おそらくは、武を極め、歴史に名を殘した人なのだろう。

しかし、そんな彼―——レティアリウスをもって揺を隠せずにいた。

レティアリウスと対峙する人。それは、その風貌はレティアリウスよりも奇妙で風変りだった。

上半は。

そのは鍛えられたもの―——どころではない。

まるで子供が作った泥団子を、無作為に大量にぶつけたような。

丸みを帯びた筋の數々が隆起し、自己主張をしている。

その筋量は異常を言ってもいい。

は傷だらけ。おそらく、そのほとんどが鋭利な刃によるもの。

剣戟によってつけられたと推測させられる。

これも異常と言っていい。

何よりも異常なのは、その背丈。

2メートルを遙かに超える長。巨人のような。

武は。殺傷力がほぼ皆無な武を使っている。

他に特徴と言えば……時より揺れるしい髭くらいだろうか？

そう男の名前は―——

彼の正は、関 雲長。つまりは髯公　関羽であった。