《6/15発売【書籍化】番外編2本完結「わたしと隣の和菓子さま」(舊「和菓子さま 剣士さま」)》千の想いのミルフィーユ

鈴木學君の父、元(はじめ)視點の語です。

いい夫婦の日だと知り、急遽書きました。

1000文字程度の短めスケッチ語。

――よかったら、これ召し上がってください。

そう言って柏木慶子さんが置いていったのは、ミルフィーユだ。

なんでも、彼が通う大學の側に新しく開店した洋菓子店で売っていたそうだ。

友達と食べておいしかったという。

今日、11月22日は「いい夫婦の日」だそうで、これと同じ菓子を自分の両親にも買ったらしい。

ミルフィーユは「千の葉」という意味だ。

何層にも重なった生地を葉に見立てたのだ。

「千」の文字や「重ねる」に縁起の良さをじるのか、結婚式の引き出だけでなく、祝い菓子としても選ばれていると聞く。

「元は紅茶? 珈琲?」

薬缶に火を掛けながら、妻が聞いてくる。

店では夫を「店主」と呼ぶ馴染みの彼は、夫婦二人になると呼び名を戻してくる。

「珈琲。しかし、よかったのかな」

「貰わないほうが失禮よ。こういうのは、おいしくいただいて想を言うのが大事なの。はいはい、開けちゃって」

それもそうだなと思い、水の包裝紙を開けると――。

「カードがっているぞ」

「え? どれどれ」

やって來た妻に封筒を渡す。

ピンクのカードをふたりで覗く。

『お父さん、お母さん。これからもずっと仲良くね。慶子』

「……」

「……」

「まいったな。これ、間違いだろう」

なぁ、と妻に同意を求めると、驚くことに彼はぐずぐずと泣いていた。

「……わたしたち絶対、ぜーったい長生きしようね」

妻の言葉に、はっとする。

柏木さんのお母さんは、長患いをしていた。

ご家族も大変だったと聞く。

よくある言葉の裏には、それ以上に深い想いが込められていたのだ。

夫婦が夫婦でいられる時間は有限だ。

そんなこと、年夫婦がすったもんだあった末に、ようやく気が付けばいいことで、10代のの子が気にしなくてもいいことだ。

やさしい娘をかなしく思ってしまうのは、大人の勝手な見方だろうか。

「安心しろ。簡単に死なないし、死なせないさ」

吐き出すようにそう言うと、妻が目を丸くしてこっちを見てきた。

「元ってさ、たまに驚くほど凄いセリフを言うよね」

泣き顔があっという間に笑顔になった。

のこの明るさに、いったい何度助けられただろう。

年を重ねて、想いを重ねて。

苦労を重ねて、幸せを重ねて。

夫婦でいる。

夫婦になる。

そして、何年経ったって、やっぱり彼にはかなわない。

尊敬する親友でもあり、心から大切に想うでもある。

「ところで、このお菓子どうしようかしら」

そんな妻の聲が聞こえたかのように、電話が鳴った。

久しぶりの和菓子さま。

みなさま、いつもありがとうございます。

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