家に帰ると、カーペットの上で彩音が正座をしていた。背筋を真っ直ぐばして行儀よくこちらを見つめている。なんだろう……理由は分からないが多分俺に何かを求めているな。

「……ただいま」

「おかえりなさい、ゆうにぃ」

彩は珍しく落ち著いたトーンで返事をした。表も弾ける笑顔……では無くらかな微笑みを浮かべていて凜とした態度をとっている。

決して怒っている訳では無さそうだが、いつもと違った出迎えられ方をされたので俺は々構えてしまった。

「何か話でもある……のか？」

「うん。でもその前に手洗いうがいを済ませてね。そしたらここに座ってくれる？」

「……分かった」

一先ず俺は洗面所に赴き、言われた通りの事を終わらせてから彩音の前に戻った。すると彩音は俺の足元をポンポンと掌で叩き、腰を下ろすように促してきたのでそのまま従う。

「その……今日はゆうにぃにお願い、というか相談……があるんだけど」

お互いに向かい合ったところで彩音が話を切り出した。

「なんだ、改まって」

「別に大したことじゃないよ。……っとその前に」

何かを思い出したのか彩音はにこりとはにかむと、ずるずるとこちらにを寄せてきた。そして満足そうに笑う表はそのままに、くるっと全の向きを反転させて胡座をかく俺の足の上にゆっくりと腰を下ろした。

「この方が話しやすいから」

「いや話しにくいだろ」

板に背中を預ける彩音が顔を上げると至近距離で視線がぶつかった。俺は「おっ」とけない聲を上げるも彩音は気にする素振りを見せず、やや紅させながら一點を見つめ続ける。

間近でじる彼の溫もりと甘い雰囲気に俺は心臓が飛び跳ねそうになった。

このような々過度に思えるスキンシップには慣れているはずなのだが、今の俺は揺を隠せずにいた。最近の彩音はどこか気怠げでやたら接をしてこなかったためが驚いているのかもしれない。

「神衛生上この方が安心するの。やっぱり困った時はゆうにぃ椅子に限るよね」

「やっぱりって……俺の上に座るのは今まで無かっただろ」

「そうだっけ？　えへへ」

けらけらと楽しそうに笑う彩音に不満のは見られなかった。やはり俺は彩音に懐かれているんだな。改めて確信すると同時に俺は安堵した。

急に家に押しかけてきて年甲斐も無くくっ付いてきたけれど、彩音と離れるのは寂しいと思う。數日間スキンシップが無くなっただけで不安になるくらいだから、俺は自分が思っている以上に彩音を可がっているのかもしれない。相手は妹では無いが、これではシスコン呼ばわりされても文句は言えないな……。

「それで、俺に話したいことって何だ？」

「うん。私、最近思うところがあってね」

彩音はしだけ俯いて自分の手をりながら続ける。

「もっとゆうにぃと一緒に思い出作りたいなって思って。もちろん毎日――この瞬間も大切な思い出だけど」

自分で言った癖に照れた顔でこちらに振り向く彩音を見て、俺まで恥ずかしくなってしまう。くぅぅ、可いやつめ。

「でもゆうにぃに迷は掛けたくないから無理は言わないよ。學校も忙しいだろうし、家で一緒に居るだけで私は嬉しいから」

俺に負擔をかけまいと遠慮を混ぜる彩音だが、きらきらと輝く瞳には本音が零れていた。ただ二人で暮らすだけじゃなくて、たまには遊びに連れて行ってほしいと目が訴えている。

思えば彩音が俺の家に來てから思いっ切り遊んだことは無かったから丁度良い機會かもしれない。俺は昨日の夜にかに考えていた計畫を口にした。

「今度の日曜日遊びに行くか」

「え！？　いやいや、無理はしなくて大丈夫だからね」

「無理はしてない。丁度俺も彩音と遊びたいと思ってたんだ。……もしかして日曜は暇じゃなかったか？」

「ううん、全然平気。でも本當？　私と遊びたいって……」

眉間のしわを寄せて不安そうな表を浮かべる彩音を前にして、俺は黙って見過ごすなんてできなかった。彼の艶やかな黒髪を優しくでると彩音は一瞬目を大きく見開いて、それから安心したようにらかい微笑みを浮かべた。

「噓をついても仕方ないだろ。可い従妹と遊びたくない兄はいませんよ」

「そっか、ふふ。……ありがと、お兄ちゃん」

慣れない呼び方で、なおかつ至近距離で笑顔を向けられたおで俺の心臓はまたしても暴れ出してしまう。

普段は驚く程に積極的だが、は純粋な子だから心配になったり不安に陥ることもあるのだろう。そんな彩音の心を思えば俺の取るべき行はただ一つ。

「どういたしまして。佑真お兄ちゃんに任せなさい」

彩音の側に居ること。いつでも頼れるような自分でいること。彩音の従兄として恥じぬよう責任を持って彼を守るのだ。

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その後。彩音のメッセージアプリにて……。

彩音「上手くいったよ、ありがと！」

舞緒「押さずに引いてみる作戦……功(￣▽￣)ﾆﾔﾘｯ」