《お姉ちゃんがしいと思っていたら、俺がお姉ちゃんになったので理想の姉を目指す。》そして俺は夢を見る 罪

俺には妹がいた。

三つ下の妹。

兎に角元気で煩くて、いつでも俺に付いてきていた。それでいて口うるさかった。

今となっては、おお來い來いなんて言えるが當時の俺はまだまだガキで、いつでもどこでもちょろちょろとく琴音のことが正直うざかった。

なんで付いてくるんだよ。なんでお前はどうでもいい事で突っかかってきたりするんだよ。

當時の俺は琴音に対する不満ばかりが募っていた。

「だからこそあの時私を助けなかった。本當は居なくなってしかったから」

「違う!」

「じゃあ何故あんたは涙すら流せなかったの?大切に思っていたのなら、居なくなってしいと思っていたからこそあんたはあの時何もできずにいた。そうでしょ?」

琴音の姿をした罪の意識は俺を責める。

あの時――。

あれは小學6年生の頃。

今のように2度目の人生って訳でもないので、これからどうなるかなんてのはわからなくて、それでいて何をしていけばいいのかもなんてわからなくて。それが所謂普通なのだけれど。

兎に角目の前のことしか見えなくて、と言うより目の前のことさえ見えていなかったのかもしれない。1つ言えるのは今という時間をなあなあにただ生きていた。

難しいことは全部親に任せきりで何か困れば助けてくれる存在というのが當たり前に存在すると思っていたのだ。

その日もいつもの様に友達と遊ぼうと、學校から足早に家に帰る。

「けーいち。歩くの早い」

「お前がもっと早く歩けばいいじゃん」

學校の校門で俺を見つけた琴音はそのまま俺の後ろを付いてきた。

友達と帰ればいいのに、どうしてわざわざ俺のとこに來るのか。だいたい、妹と一緒に帰ってるところなんて見られたら他の奴らになんて言われるか。

「今日どっかいくの?」

「別にどこでもいいだろ」

「おれも行く」

はぁ、來たよ。

一緒に帰るのでもあれだって言うのに、あまつさえ遊びに行くのにも付いてくるとなれば、とやかく騒がれるに違いない。俺は弄られるのは好きじゃないんだ。

因みにこの頃の琴音は自のことをおれと呼んでいた。理由はまぁ男兄弟の真ん中だったからだろう。

「くんな」

「なんでさ!」

「うざい」

「いやだ!おれもいく!」

イライラする。

どうしてこいつはこっちの気持ちも考えずに付いてこようとするんだ。お前にはお前の友達がいるだろう。だったらわざわざこっちに來る必要なんか全く無いはずだ。

既にまともに相手をするのもめんどーでぶっきらぼうに否定する。しかし、それでも琴音はおれもいく!おれもいく!と、言葉を覚えたセキセイインコの如く繰り返す。

流石に返すのもだるくなってきたので、俺はうるさ過ぎるBGMを背に足早に帰宅した。

「ただいま」

「あらお帰り」

家に著くとお母さんが廊下からヒョコッと顔だけ出し応答した。

後から琴音もただいまーと言うと俺の後を付き子供部屋に行く。

うちは結構狹い家なので、個人の部屋というのは存在しない。子供たちはみな共同部屋で過ごすのだ。故にプライバシーなど何もあったもんではない。

俺はランドセルをボンと機の上に置き、軽なまま部屋から出る。すると琴音も同様にするではないか。

こいつは……。

「けー、あんたどこさ行くの?」

「遊びに」

「だからその遊びに行くのにどこさ行くのさって」

別にどこだっていいだろ。このやり取りがもうだるい。いつも同じとこに行ってんだしわかるだろ。

「いつものとこ」

「はぁ……長白公園ね?それぐらい面倒くさがらずに言いへんが……6時前には帰ってきなさい」

「ん」

お母さんは疲れたようにそう言うとベランダに向かって行った。どうやら洗濯を取り込んでいるらしい。

俺は後ろを気にするようにササッと玄関を出て自転車にる。琴音は俺と同様にお母さんに捕まり質問をけているようだ。

どうせすぐ出てくるだろうが、全力で自転車をこぐ。家をちょっと進んだ先にT字路があるのでそこを越えてしまえばやつも何処に行ったかなどわかるまい――。

「けーいち!早い!」

「……」

はえぇよ。

無駄にはえぇーよ。普段はそこまで機敏じゃない癖になんでこーゆー時は神速なんだよ。

俺は目論見が外れ盛大にため息をつく。

俺は差點でちょうど赤信號になってしまったのでそこで立ち止まり振り返る。

「あのさぁ、付いてくんなって言わなかった?」

「しらない。おれもこっちにようあるだけだし」

「別の道で行けよ」

「なんでさ!」

我ながらに凄まじい橫暴だと思う。だが、當時の俺は確かにイラついていた。自分を縛ると言うか、そういったものが凄まじく嫌だったのだ。

それは琴音だけじゃない。お母さんもおばあちゃんもそうだ。あれやこれやと、ズカズカものを言って來ては邪魔をされる。自分の楽しみだけが正義でそれを邪魔するのはすべからく敵だったのだ。

だからこそ、琴音という存在は俺の中で1番の敵だった。

俺は琴音の言い分に腹が立ち、遂に発する。

「あぁ!もう!ウザイんだよ!いっつもいっつも邪魔して!どっか行けよ!ついてくんな!お前なんて――」

消えちまえ!!

そう言おうとした瞬間だった。

俺は琴音に突き飛ばされた。

何の構えもしてなかったことと、思いの外強い力に簡単に橫へと吹き飛ばされてしまった。

この野郎。こいつ手を出してきた。そっちがその気ならこっちだってと思った時、けたたましい音が耳をつんざく。

全てがスローモーな世界。

音も置き去りにして、0.1倍速ぐらいで進む時間。

その世界で俺は呆然としながら目の前の景を見る。

黒の軽自車が琴音に向かって行く。琴音は俺に両手を突き出した狀態でこっちを見ている。

その顔には真っ暗な影がさしているようで表はわからない。

泣きそうなのか、怒っているのか、それとも笑っているのか。

ただ、口元だけははっきりと見ることができた。

琴音はナニカを呟く。

音のない世界では彼が何を言ったのかなど理解できない。読心を習った訳でもない俺にはその口のきからどんな言葉を放ったのかなど理解できなかった。

車と琴音の距離はわずか數十センチ。

今から聲をかけようが、はたまた突き飛ばし返そうとしようが絶対に間に合わない殘酷な距離。

俺はそのどちらもする予備作すら行うことなく瞬きを1回。次に目を開いたその瞬間、世界は元の時間の流れへと変移する。

鈍い音と悲鳴の様なブレーキ音が辺りを支配する。

差點を流れる車は、皆止まり、何事かと降りてくる。

差點の向こう側では白の普通車が歩道に乗り上げ橫転している。よく見てみれば脇っぱらが凹んでいるので、黒の軽自車がそこに突っ込み衝突したのだろう。

俺は恐ろしい程に冷靜にそんな事を考えながら目の前を見る。

黒の軽自車は電柱に激突しフロントガラスが割れている。サイレンのような警告音と煙が空へと登っていく。

そしてし左に視線をずらせば地面には點々と紅の花が咲いている。

それを辿るように視線をかして行けば否応が無くも視界にるのはーー。

「……っぇ?」

自分でも驚く程掠れた聲が出る。

だってそんなこと思うだろうか?

いくら消えちまえ、なんて思ったところでそれが現実になるなんて誰が想像する。そんな非現実的な事象などマンガやアニメみたいなフィクションだけで十分だ。

じゃあ目の前に見ろがる景はなんだ?

俺は今何を見ているんだ?

コレは、なんだ?

俺は頭の中で核発でも起きてしまったかのように、様々なが、考えが吹き飛んでしまった。

無を抱えて見事に咲いた大の花の中心に近付いていく。それはさながら花のに近寄る蟲の如くフラフラと。

近付けば近付くほど紅の花を踏みつけ、ぱしゃりぱしゃりとそれには見舞わない程軽い音を立てる。

大した距離などないのだからすぐに辿り著く。しかしその距離は今まで験したどの距離よりも長く重くじた。

そしてぱしゃりと一際大きな音を立て花の中心で膝をつく。生溫かな花弁で膝もズボンも濡らす。

「……なにやってんの?」

俺は花の中心にいる人に聲をかける。

周りは様々な悲鳴やどよめきで騒々しい。だが、今この場所は確かに靜寂で、俺と花の中心で橫たわる琴音だけの世界があった。

琴音は虛ろな瞳を俺に向けると、震えるかした。

「……っ……ぁ……ね……?」

蚊の鳴くような聲とはこういう事を言うのだろうか。ことねの聲はしでも風が吹けばかき消えてしまいそうなものだった。

きっと俺以外の人間には全く聞こえなかっただろう。

この喧騒の中だ。誰一人として聞こえていない。だが靜寂の中にいる俺だけは確かに聞いたのだ。そしてだからこそ俺はーー。

「……お前、何言ってんの?」

――兄弟は仲良くしないとね?

今の今に言うことだろうか。

頭の悪い俺でも分かっていた。これは間違いなく今言う言葉ではないと。今言うべきは助けて!とかお前のせいだ!とかであって決してそんな事を言うべき時ではないのだ。

いつものお前らしくもなんてない。

どうしたよ?

いつものようにワガママを言えよ。

いつものように憎まれ口をきけよ。

いつものように。

いつものように。

いつもの、ように。

「……も……っ……ぃ……ょ…………せ……っ……く…………の…………せか……ぃ……た……っ……た……ひと…………の……な……んだ……ら」

――もったいないよ。折角の世界でただ一つだけの家族なんだから。

やめろ。

「み……ん…………ょ……ぅし…………ね……ぉ……にぃ……ち……ゃ……?」

――みんなをよろしくね、おにいちゃん?

「やめろぉぉぉぉぉおおおおお!」

俺は琴音を抱く。

中に紅がつこうと構わず、必死に手繰り寄せ抱きしめた。

瞳にはもうの欠片しか殘っていない。それが琴音の魂の殘り火なのだと訴えている。

だが俺は信じられなかった。いや、信じたくなどなかった。無駄にこういう時だけ敏い自分を激しく呪った。

琴音は俺に抱きしめられると、腕を震わせながらばし、そして、俺の頬に手を當てた。

やめろ。

まるで最後にそのを確かめようとするかのようにれるな。

琴音は紫に変させたかす。

「…………ーー」

「君!早くどいて!その子を擔架に!出が酷い!」

その言葉を聞くその瞬間、琴音は俺の腕から離れ擔架に乗せられた。

そこから先は覚えていない。

しっかりとその景は見続けていたのに覚えていないのだ。まるで電車の窓を流れる景のように、ただの背景と化しあるのは無だけだ。

そして気付けば病院ではなく火葬場で、気付けばお墓の前で、気付けば……家族は1人減っていた。増えたのは影だけだった。

この時だろう。

俺がコワレテしまったのは。

俺が犯した罪は、妹である琴音によって呪いとして背負うことになったのだ。

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