《異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育しています ~》捕らわれの吸鬼メイド
一方、ソータがゴブリンたちを使って醫薬草の採取をしているのと同時刻。
カスールの森を駆ける魔族がいた。
彼の名前はキャロライナ・バートン。
男なら誰もが振り返るような妖艶な気を持った、銀髪紅眼のであった。
魔族。
それは今から300年前、アーテルハイドの覇権を握り、人類を支配下に置いていた種族の総稱である。
強大な力を持った魔族は、時に神族すらを打ち倒すとも言われており――。
両者は長きに渡り対立関係にあった。
「クソッ! 待てや! この吸鬼がっ!」
今現在。
キャロライナは武を持った複數の屈強な男たちに終われていた。
ソータたちが訪れたセイントベルは、全國から集めた様々な特産品の売買で潤っている街である。
しかし、その一方で奴隷の売買が盛んに行われている側面があった。
今から300年前――。
キャロライナたち魔族がこの世界を支配していた頃、彼は魔王イブリーズの元にメイドとして勤めていた。
メイドたちの中でも優秀な能力を持ったキャロライナは、イブリーズからも重寶されており平穏な日々を過ごしていた。
ところが――。
勇者によって魔王が倒されて、人類が繁栄するようになってから狀況は一転。
人間たちに住処を追いやられたキャロライナは、數々の屈辱をけることになる。
魔族たちは人間と比較をして、しい容姿を持っていることが多かった。
それ故、キャロライナのような魔族は人間の貴族たちに柄を買われて更なる辱めをけるケースが常態化している。
キャロライナも奴隷商人に目をつけられた一人であった。
更に悪いことに彼の柄を買ったのは、セイントベルでも悪名高い大商人であるバクラジャ・アッカーマンという男である。
彼の悪行はキャロライナの住んでいた街にも屆いていた。
曰く。
彼は奴隷をなぶることでしか的な快楽を見出せない鬼畜である、と。
曰く。
彼の所業によって命を落とした奴隷は數知れない、と。
屋敷の中に連れられて、《主従契約》を結んでしまえば命の保証はない。
セイントベルに移する最中に、亀車に繋がれたロックタートルが暴れ始めたのはキャロライナにとって不幸中の幸いと言えた。
普段は溫厚な気で知られており、滅多なことでは人間を襲うことのないロックタートルという魔であるが、尖った巖などを踏んで制不能の狀態に陥ることが稀にあった。
キャロライナはロックタートルが暴れている隙を突いて、亀車から森の中に逃げ出すことに功したのであった。
「やばいぞっ! このままでは俺たちがバクラジャ様に殺される。あの……薬が回っているんじゃなかったのか!?」
男たちは焦っていた。
吸鬼は他種族と比較して高い能力を持っていることで知られている。
萬が一の事態に備えて、男たちはキャロライナに対象のステータスを下げる『衰弱の薬』というアイテムを與えていた。
本來ならば衰弱狀態の生は、まともに歩くことすらままならないはずである。
それでも尚。
男たちの差が一向にまらないのは、300年に渡り鍛え上げてきたキャロライラの地力の高さによるものであった。
「チッ。貴重な商品に傷が付いたらバクラジャ様に何を言われるかは分からないが……このまま逃がすよりはマシだ! 野郎ども……矢を放て!」
単純に追いかけても絶対に捕まえることができないと悟った男たちは、キャロライナに向けて次々に矢を放っていく。
「……キャッ」
男の放った矢の1本がキャロライナの背中に刺さる。
これだけなら致命傷とまでは言えない狀態であったのだが、次の瞬間に悲劇は起きた。
に矢をけてバランスを崩したキャロライナは森の斜面を転がり回る。
その先に斷崖絶壁の崖が続いているとも知らずに――。
(助けて……魔王さま……)
途絶え行く意識の中でキャロライナの脳裏に過ったのは、300年前に命を落としたはずの――。
自らの主の姿であった。
この祈りが通じたのかどうかは定かではないのだが――。
魔族の、キャロライナ・バートンがソータと出會うのはそれから翌日の話になる。
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