《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》15-7.尿意は防ぎようないし、仕方ないよ!
「遅いわね」
と、勇者がため息を吐くように言った。
意気揚々と出立したガデムンが、いつまで経っても戻って來なかった。
「便かもしれんだろ」
あれだけの大男である。きっと出すのも時間がかかるのだ。誤解がないように言っておかなければならないが、べつに彼の下事に興味があるわけではない。
帰りが遅いから、心配してやっているだけだ。
「それにしたって遅すぎるわよ」
「便以外に、帰りが遅くなる理由なんてあるか?」
「ここはダンジョンよ。モンスターに襲われたか、迷子になっているかのどちらかでしょ」
「その考えはなかったな」
「いや。ふつうにそう考えるでしょ。むしろ便の可能が出てくる、あんたのほうがどうかしてるわよ」
「まるでオレが、変なヤツみたいな言いはやめていただきたい」
「変なヤツでしょーが」
「ガデムンが?」
「いや。ナナシィがよ!」
「そう怒鳴るな」
なにゆえ勇者は、こんなにも元気なのだろうか。
オレはもうヘトヘトである。
『魔塔祭典』なんかに參加しなければ良かった。時間移の能力でも目覚めてくれないだろうか。目覚めてくれれば、祭典への參加を取りやめていたのになぁ。
いや。時間移の能力があったらのころに戻って、勇者に告白したことをなかったことにしたい。あれのせいで、オレは勇者にマウントを取られ続けるハメに陥っているのだ。
もっと改変したいことは、たくさんある。
時間移の能力があれば、勇者の父親の蒸発だって防げたかもしれない。あれを防いでおければなぁ。
べつに勇者のためを思っているわけではない。
あの事件さえなければ、勇者が冒険者を目指すこともなかったであろうし、オレが付き従うことにもならなかったのだ。
「チョット様子を見てくるわ」
と、勇者がすくっと立ち上がった。すくっ――である。まったく疲れさせをじさせない作だ。
「ひとりで行くのかよ」
「心配してくれてんの?」
「いや。オレを置き去りにするのかよ」
ここはレディの心配をするべきだ――とか言うのは、きっとキザな男に違いない。
どこからどう見ても心配するような、か弱いレディではない。いや。見たじは人かもしれんが、に宿ってるのはゴリラかライオンである。
むしろ心配されるべき、か弱い存在なのはオレのほうだ。
「タンポポンとマグロちゃんがいるでしょーが」
「まぁ、そうだが」
タンポポンはノドが乾いたのか、壁にもたれかかって弛緩ダレている。マグロにいたってはいまだ仮眠中である。
起こすかどうかみたいな話が出てたけど、ガデムンがひとりで行ってくれたので、結局、寢かせたままだ。
この2人が頼りになるんだろうか。
「ははん。さては心細くなってるんでしょ」
勇者。碧眼を飾る二重マブタの目を、すっと細めて見せた。弱點見出したりとでも言いたげな表である。
「い、いやぁ! そんなことないよ。ぜんぜん!」
「じゃあ待ってなさいよ。あんたのことは信用してるから置いてくのよ」
「え? それってどういう……」
「じゃあ、ガデムンを探してくるからね」
そう言うと勇者は、ガデムンが立ち去ったほうの通路へと消えていった。
勇者の後ろ姿が、ダンジョンの暗闇にのみこまれていくかのようだった。
グルルルルッ
どこからともなく、猛獣のうなるような聲が聞こえてくる。勇者がいなくなった途端に、そういった聲が、耳をつくようになった。
しかもタイミングの悪いことに尿意をおぼえた。
勇者が同じ部屋にいてくれるだけで、心の拠り所になっていたのかもしれない。いやいや。あの勇者にすがる心を萌芽させるとは、オレも弱気になったものである。
ばしばし、と自分の頬を両手で挾み込むようにして叩いた。
「タンポポンさん」
「なんだい。ボウヤ」
「オレ、ちょっとトイレに行ってくるんで、しばらくここを任せても良いですかね」
「え! 私ひとりにするのかい」
と、タンポポンは目を剝いた。
「いや。すぐに戻ってきますよ。オシッコしてくるだけなんで。たぶん1分もかかりません」
合理的に考えるなら、ここで垂れ流すべきなのかもしれないが、それはまぁ、々とマズイものがある。
の頃のみならず、この歳になっておらしをしてしまったとなれば、あの勇者からどれだけバカにされるか、わかったもんじゃない。
想像するだけでも怖ろしい。
人間いつでも合理的にけるもんでもない。
「いいわぁ。行ってきなさいな。そのあいだ、ここは守っておくからさ」
と、タンポポンは仕方がないと言うように、肩をすくめて許してくれた。神である。
「じゃあ、すみません。もし何かあるようでしたら、大聲で呼んでください。聲が聞こえる範囲にはいるので」
その場から、すこし離れることにした。
オレは強化師であるため、そんなにガチガチな裝備で固めてはいない。ちょっとズボンを下ろせば良いだけだ。
ジョロロロロ……と石畳の上に尿が流れてゆく。しかしまぁ、法悅にひたっているわけにはいかない。このあいだにモンスターに襲われでもしたら、最悪である。それに、殘していたタンポポンのことも気にかかる。
もしや、タンポポンがオレたちを眠らせてる犯人ってことないよな? だったら、みんなを殘してきたのはマズかっただろうか?
なににせよタンポポンひとりに、あの場を任せるのはマズかったのだろうが、オシッコのためだったのだ。仕方がない。文句ならオレじゃなくて、膀胱に言ってくれたまえ。
大丈夫、大丈夫。
數秒のことだし。
しかしまぁ、こういうときに限って、人のカラダというのは融通がきかないもんである。なかなか出し終わらない。
あるいは、出している時間が長くじていたのかもしれない。ようやっと出し終わって、オレは急いで箱のある部屋へと戻ることにした。
「すみません。おまたせしました」
へ?
タンポポンは、壁によりかかるようにして睡していた。
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