《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》16-2.オレのこと、心配してくれてるのか?
勇者とクロコの戦いはつづいていた。
勇者は翼を広げて、部屋のなかを自在に跳びまわる。そしてロングソードを巧みにあやつって、何度も斬撃をたたきこんでゆく。
一方で、クロコはその場をかずに、勇者からの攻撃をけ止めていた。
苦しいか……。
勇者の攻撃は見事だが、クロコのまとっている鎧がすぎる。傷ひとつつけられない。剣と鎧が衝突するたびに、派手な金屬音はひびきわたるのだが、ダメージが通る様子はない。
「ムダですよ。ボクのこの鎧は決して、傷つきはしない」
クロコの鎧がもぞもぞといた。腹のあたりから巨大な槍が生えてきた。どうやらホントウにその形狀を自在に変化させることが出來るようだ。
「盾ッ」
と、勇者が聲を発する。
「円卓聖杯探究の大盾。大鰐の堅牢鱗」
勇者の全が、ワニのウロコみたいになった。さらにその上から赤い十字模様が刻まれていく。オレが使えるなかでは最強の、防力上昇魔法である。
クロコのカラダから生えた槍を、勇者はカラダでけ止めた。さらにその槍の穂先の上に飛び乗る。穂先をつたって、クロコ本に迫った。
クロコの頭に剣を叩きこんだ。
が、無傷である。
勇者は跳びずさるようにして、オレの手前にまで戻ってきた。
「素晴らしい連攜ですね。しかし驚くべきは勇者よりも、むしろその強化といったところでしょうか。あなたを生かしておくには危険すぎる。まさかそれほどの強化師だとは思いもしませんでしたよ」
「オレを素直にホめてくれるのが、悪役なのは殘念だよ。オレに従順なだったら、うれしかったんだが」
「驚かされましたが。しかし、それでもこの鎧に傷つけは出來ない」
ナナシィ。何か考えなさいよ。勇者がそう言った。たしかに、このままではジリ貧である。
「あの箱に、ヤツを叩きつけるというのは、どうだろうか?」
「階段をふさいでる箱のこと?」
「ああ」
ヤツの鎧と同じ材質でできているならば、鎧を傷つけるぐらいのことは出來そうである。
なにをコソコソと話しているんですか――と、クロコが焦れたように突っ込んできた。
クロコの全から針が生えてきた。
クロコの攻撃はオレの強化によって防ぐことが出來る。
剣が衝突したような音をたてて、勇者のカラダはその針をけ止めた。勇者はその針をつかむと、「うぉらァ」とつかみあげた。
針の先端をつかみあげられて、本であるクロコが持ち上げられていた。
そしてそのまま、階段をふさぐ箱に叩きつけることに功した。
何度もクロコのカラダが、箱に叩きつけられる。それに合わせて、ゴーン、ゴーン、と鈍い音が響いた。
仕上げには、クロコのことをジャイアント・スイングのように振り回して、投げ飛ばしていた。
「相変わらずバケモノみたいな怪力だなぁ」
「誰が、バケモノよ。あんたの強化のおかげでしょうが」
「あんまり派手にやりすぎたら、周りで寢てる連中もケガするぞ」
「ちゃんと気を付けてるわよ。箱に叩きつけてみろって言ったのは、あんたでしょーが」
「しかし殘念なことに、ダメージは通らなかったみたいだな」
箱に叩きつけられたクロコは、すぐに立ち上がると、こちらに向かって疾駆してきた。勇者が迎え撃つように駆ける。
勇者が、クロコの腹めがけて剣をふるった。剣をけたクロコは前傾姿勢になった。
おっ、もしかして効いたか?
そのまま倒れこむのかと思った。違う。クロコは勇者のすぐ脇を通り抜けると、オレに向かって駆けてきたのだった。
「まずは、あなたから始末する!」
「オレに來るとは、良い判斷だな」
クロコの元あたりから、ふたたび巨大な槍がびてくる。
オレは悠然と構えていた。
余裕があった――わけではない。
槍のびてくる速度に反応しきれず、棒立ちだったのだ。目では見えていたけど、カラダがかなかった。ピンチが迫ったときってのは、意外とけないもんである。
かろうじて自分をかばうようにして、腕でかばった。槍がオレの手の甲に突きささった。
「ナナシィ!」
と、勇者があわてて、オレのことを擔ぎ上げてくれた。翼の生えた勇者によって、オレは空を飛んでいた。
「痛てぇ」
「ごめんなさい。抜けられたわ。大丈夫ッ? ケガは?」
「いや。なんもねェみたいだ」
「そんなわけないでしょ。いま、確実に手を貫かれてたわよ。早く応急手當しなくちゃ」
「あ……」
自分の手の甲を見つめた。その手の甲には黒々とした手甲がされていた。
「どうしたの?」
「これが役に立ってくれたみたいだな」
今まで生きてきたなかで、オレの強化を付與したものが、壊せなかったものは、ほとんどない。
この最古のダンジョンと言われている塔の壁と、階段をふさいでいる箱、それからクロコの鎧。
それからもうひとつ、あったことを思い出したのだ。
手甲である。
ブルベのパンツを盜み出した悪黨どもが、手にはめていた一品だ。オレはそれを手にはめていた。
「なによ、この手甲」
「まあ、偶然手にれたなんだが、もしかするとクロコのと同じ材質かもしれん」
「曖昧ね」
「そりゃ、オレもハッキリとはわからんからな。だが今、クロコの一撃をふせいだのは、この手甲みたいだ」
「ちょっと貸して」
「後で返せよ。オレが手にれたもんだからな」
「壊れなかったらね」
勇者はオレを床におろした。オレの外した手甲を、勇者は自分の腕にはめていた。そして剣を投げ捨てる。
「この手甲で毆ってみるわ。一撃で仕留める。もうし強化を強くしてちょうだい」
「ダメだ。カラダが持たない」
「なに? 私のことを心配してくれてるわけ?」
「そりゃお前が負けちまったら、オレも死ぬわけだからな。あくまで自分の心配をしているのであって、お前の心配をしているわけではない」
「素直に心配してるって言えば良いのに。この意地っ張り」
勇者はそう言い殘すと、クロコにむかって駆けた。
勇者の腳力をさらに強化した。クロコの背後に回っていた。クロコは反応できなかったようだ。反応できるはずがない。ただいだけの鎧である。
クロコの背面に、勇者にコブシが叩きこまれた。
「バカな。その手甲はッ」
と、クロコから揺の聲がれていた。
「へぇ。ナナシィの言うとおり、この手甲はダメージが通るみたいよ。ナナシィにしては、良い拾ったじゃない」
「オレにしては、ってなんだよ。もうチョイ素直にホめられんのか」
同じ材質ならば、オレの強化が乗っているほうが強いに決まっている。
デコポンのときにやって見せたように、オレの強化はチャント武にも乗るのだ。まぁ、なぜか自分で使ったら、強化が発揮されないのだが。
バリ――ンッ
今度こそクロコの鎧が砕けていた。鎧のなかから、クロコ本が飛び出してきた。
クロコはすでに昏倒していた。
もしや死んでいるのではないか。確認してみた。どうやら気絶しているだけのようだ。
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