《クラス転移、間違えました。 - カードバトルで魔王退治!? -》第12話「今、あなたの脳に直接話しかけています」
「……い、いや、でも!」
「もう置いていっても良いんじゃないデスか? どうせ連れて行っても役に立たないデスよ」
「それは、それは流石に……。俺達はあくまで同じクラスメイト、仲間なんだ。1人だけ置いて行くのも可哀想だろう」
「いや、隼人。忘れるな、今は急事態なんだ。時には非常な判斷を下すのも、ある意味正論だぞ?」
「でも……」
「別に置いて行っても死ぬ訳ではないデスし、寧ろここに居る方が安全かもしれないデス!」
「分かるか隼人、これは"優しさ"だ。俺達は大事なクラスメイトの1人を死地に生かせないだけ。そうだ、これは善意なんだよ」
「う、うーーん…………」
隼人は悟とデス子の説得に思い悩んでいる。どうするのが正しい判斷なのか、隼人はちらりと壁に埋め込まれている影踏を様子見る。
影踏は、激しく壁に叩かれたせいで服はボロボロ、外観からでは何とも言えないが怪我をしている可能もある。更には長旅だったこともあり疲れも出ているのか、今はぐっすり眠っている。
…………確かに、今の影踏を連れて行くのは厳しいかもしれない。外では何が起きるか分からないし萬全でないまま山に行けば最悪死に繋がる。それに、実際向こうに行って影踏に仕事があるかと言われると何も無い、全く無い。いや、俺も何が出來るかって言われたら何も出來ないんだけどさぁ。………………。
以上のことを踏まえて、隼人もようやく一つの結論に至った。
「考えはまとまったか?」
「ああ、まとまった。……一つ思ったんだけどさ、何も俺達全員が山に行く必要はないんじゃ無いか?」
「どういう意味デス?」
「いや、4人を探して合流すれば良いんだろう? だったら全員が行かなくても、數で行った方が被害はなくて済むようになると思うんだ」
「……確かに、大勢で行く必要はないな」
「寧ろそっちの方が、足手纏いも出なくて効率が良いデス。隼人、良いアイデアを出したデスね!」
「いやぁ〜大したことじゃないよ」
隼人は、褒められたのが嬉しかったのか、無邪気に笑みを浮かべた。
隼人の革命的アイデアにより、一同はチームを組んで活することになった。まずは4人のメンバーを組んでオレガノと共に山へ戻り、殘ったメンバーが何かするという役割分擔である。
「何か、って何するの?」
「それは今重要ではない。取り敢えず考えるべきことは、誰が4人を探しに行くのかだ」
「1人は日向ちゃんで決まりデスね」
「何故!?」
「そうだな……、他に適任なのは誰がいるかな」
「待って! 何で私が強制的にチームにることになってるの!? ねえみんな…………誰も聞いてくれない。これって、ある意味いじめだよね?」
「そう悄げるな日向よ。実際、貴様は力以外特に取り柄など無いのだから、こんな時くらい活躍してみせろ。この際だ、"自稱・普通の高校生"は今日で引退して元の世界で人力削巖機の仕事でも就いたらどうだ?」
「ムカッ!! …………じゃあ、メンバーからの推薦。南ヶ丘瀬奈さんをチームに引きれたいと思いまーす!」
「ああ良いぞ。よし、後は2人だな」
「何だとぉ!?」
2年4組の『最終兵さん』からのまさかの推薦で、南ヶ丘瀬奈は、死地へと赴くこととなった。
辺銀デス子はやれやれと嘆息して首を振っている。
「余計な挑発するからデスよ」
「挑発!? 私は褒めてたんだぞ!」
「あれ褒めてたんデスか!? どこの世界にの子を『削巖機』呼ばわりして喜ぶ人が居るんデス!」
「えぇ〜かっこ良くない? 削巖機。あのパワフルなきと洗禮されたフォルムにする!」
「……やっぱり、瀬奈ちゃんの的センスってちょっとおかしいデスよ」
これで2人。殘るメンバーを決めるため、悟はゆっくり生徒達を一瞥する。
「さて、この中で探索メンバーに志願したい者は居るか?」
「あ、じゃあ私行きます!」
「香織さん!? 何故貴が志願を?」
「特に理由は無いんだけど、……みんなが困っているだもの。しでも助けになりたいわ」
「何てことっ! この人凄く良い人だ!!」
香織の眩しいばかりの善意ある志願により、ついに3人のメンバーが決まった。殘すは後1人である。
今のところ全員子がチームにっているため、全の的面を考える上でも、ここは男側に志願してもらいたいところだ。
「俺は運は苦手なんだ」
「俺もゲームしてたいからパス」
「ボクも、危ないことはするなってパパにきつく言われてるからぁ」
「ホント役立たずデスねうちの男子は。……こうなると、消去法で隼人くんに任せるしかないデスね」
確かに、殘る男子達だと最も働いてくれそうなのは隼人以外いない。彼は仲間思いで、いざという時は率先して前に出てくれるだろう。チームを任せる上でもうってつけだ。
しかし、當の隼人は難しい顔で腕を組み、考え込んでいた。
「……隼人くん、どうしたんデスか?」
「別に無理にとは言わないぞ。お前に不都合があるのなら俺が代わりにチームにろう」
「いや、俺がチームにるのは良いんだ。でも、危険がある外で活するっていうなら、他に適任な奴がいるじゃないかと思ってさ」
「……おい、それはまさか」
隼人はコクリと頷く。そして彼は、自分の人差し指をとある方向に向けて指し示した。
その指し示す先を生徒達が目視しその瞬間、誰かの唾を飲み込む音が響いて來た。
悟は額に手を當ててく。
「……本気で言ってるのか?」
「ていうか、一番の人選だと思うけど? 多分、俺が行くよりは良いと思う」
「確かに運面では最強クラスだ! だが奴は問題が多すぎる。特に今回の場合ではこいつが何をしたものか分かったものじゃあ……」
「あのぅ、口を挾むようで恐だが。……一つ良いか?」
そこで、悟の言葉を遮って聲を発して來た人が現れた。
それは騎士ガーベラ。彼は恐る恐る隼人が指差した方を注目していた。
隼人が指した方向。そこに居たのはテーブル席で猿轡を噛ませ、全をロープでグルグルに巻かれ固定された、1人のだ。そのは、先ほどから悶えして何か言葉を発しようとしているのだが、きは取れず何も話せない。そんな囚われのが誰も何の疑問の聲もなく當然のようにそこにいたのである。
「何だ?」
「いや、今までずっと空気を読んで何も言わなかったのだが、今が好機と見てここで問う」
「あいつのことだったら気にするな。この非常事態に面倒は起こしたくない、雁字搦めで縛っていた方が安全なんだ、あいつは」
雁字搦めのはずっと「むぅむぅー!」と言っており、他の生徒達はそんな彼を一切気にしないようにして話を続けていた。ガーベラが、そのあまりに異常な景に申したくなるのも當然のことだろう。
そしてそんな中で彼以外に、東隼人もまた難しい顔でを見ていたのだ。
「そろそろ解放してやろうぜ。ずっとこのままって訳にもいかないだろう?」
「駄目だ、狂犬は檻にれておくのが一番安全なんだ。下手に同して首でも噛まれでもしたらどうする」
「朱酒はそんな事しないよ」
「とにかく駄目だ。せめて事態が好転するまで大人しくさせていないと」
そうやって、隼人と悟は互いに意見を曲げない平行線の討論を行っていた。結局答えらしい答えも貰えなかったガーベラは、話についていけず戸う事しか出來なかった。
《……………………ガ…………ベ、ラさん。き…………えま、す…………?》
……しかしその時、ガーベラは何処からともなく誰かが語りかけて來たような錯覚に囚われた。気のせいかとしばらく呆けていたが、その聲は途絶える事なく彼の頭に屆くため、ガーベラは驚き戸った。
《……大、丈夫、……ぼ……は水三田井、朱酒。目の前、の椅子に座っている……貴の味方、です……》
ガーベラはハッとして、椅子に縛られているを覗き見た。
そのは、じっとガーベラを凝視しており、彼に何か語りかけているような瞳をしていた。
《ガーベラ、さんは、姫様を助けたいんだよ、ね? だったらこの、拘束を解いて、ぼくを、自由にして。必ず力に、なってあげるから》
ガーベラは戸う。この謎の聲の詳細もそうだが、當人達である2年4組が決めあぐねている結論を、自分が行を起こしても良いのかという負い目があるのだ。確かにか弱いが苦しそうに悶える姿を見て、助け出したいと思ったのは事実であるが……。
しかしそう考えている間にも、謎の聲はガーベラの脳に直接語りかけてくる。
《……ガーベラさん、決斷するのを躊躇っている貴に一つ良いことを教えてあげる。……『速さは力』。この言葉は、勇気を出せずにいる人々全員に力を與えてくれる、素晴らしい言葉なんだ》
「勇気……力……」
《しくはないかい? 魔王を倒し、大切な姫様を救い出せるぐらいの絶対的な力が!》
「ほ、しい! 何も出來なかった無力な私に、姫様をお救いするだけの力がしいっ!!」
《ならば速さ、速さを求めるんだガーベラさん!! さあ、今すぐ考えるのをやめて、ぼくを縛るこの縄を解くんだ、速く、速くッッ!!!!》
「よ、良し。何だか分からないが今ならなんでも出來そうな気がする! 今助けてみせるぞ!!」
「……あの、ガーベラさん。さっきから何ブツブツ言ってるんですか? みんなー、ガーベラさんの様子がおかしいんだけど、これどうしたんだろう」
「むぅ? …………ッ!? い、いかん日向!! そいつはマズイ、今すぐ止めるんだ!!」
瀬奈が聲を上げるが遅い。"速さ"を重視するようになったガーベラはその他一切のしがらみを捨て去り、目の前のを救出することしか考えられなくなっていた。
瀬奈は飛び出して、何とかガーベラを止めようと迫真のきを見せる。
「まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………………てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふぅっ」
「って、おっそ!?」
「いや、映畫とかでよくあるじゃん。鬼気迫るワンシーンでスローモーションになる演出。あれを生で演じてみました♪」
「良い演技力だったなぁ〜。本當にゆっくりになったようなきだったぜ!」
「本當っ!? これ小さい頃からずっと練習して來たんだぁ〜! これ見た目よりずっと難しいのよ? 編集無しでスローなきを完全再現するには円かつ決して靜止しない緩やかなきを継続させなければならなくてそのためには厳しい自己鍛錬と客観的な自己評価が必要で……」
「何の話をしているんだ!? それよりも……っ!」
悟が振り返った瞬間、彼は目を見開き息を飲んだ。
何故ならそこには、既に拘束を解かれて自由のになっている、水三田井朱酒が居たからである。
「…………ふぁぁ、ようやく解放されたよぉ〜。いや參ったね、寢起き早々縄で縛られて、新手のプレイかと思った」
「水三田井…………!」
悟の歯軋りする音が、この場にいる皆にはっきりと聞こえた。
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