《貓神様のおかげで俺と妹は、結婚できました!》三話 榊兄妹初日は大遅刻!?
「それで、何か心當たりとかないのか?」
「心當たり⋯⋯あっ⋯⋯⋯⋯」
冷奈が何か思い出した様に小さく目を見開くが、直ぐに考え込むように形の良い眉を寄せる。
ある、のか⋯⋯なら解決する方法とかもそこから分かるかもしれないな。
「あるのか? できるなら話してくれないか?」
「ちょっと待ってください、しれっと関わる気満々ですけど、何で私が輝夜に教えないといけないんですか? 私に得でもあるんですか?」
ぐっ⋯⋯やはりそう來たか、でも⋯⋯。
確かに何が出來るかって聞かれたら何が出來るか分からないし、ほとんど何も出來ないのが事実、とうぜんいつもならここで引き下がっていただろう。
だけど⋯⋯。
脳に後悔しても仕切れない過去が頭をよぎり、俺は拳を強く握った。
ここで引いたら一生あの過ちを償えない、そんな気がするから。
「確かに俺にはお前みたいな運能力も、優秀な頭脳も、みんなをまとめるカリスマもない、だけどこんな俺でもお前の力になれる事はあると思うんだ。俺はもう絶対、冷奈、大切な妹を、唯一の家族を一人にはしない。俺にあの時間の償いをさせてくれないか? その為なら俺は何でもする、俺にとってお前より大切な事なんてこの世に無いんだから!」
俺は柄にもなく、そう強く言い切っていた。
一番側に居ないといけない時に側にいなかった、ずっと隣に居てやるなんて約束しておいて自分でお前から離れてしまったんだ。
どれだけその時お前は辛かったのだろうか、どれだけ悔しかっただろうか、俺はその償いをしないといけない、いくらお前が俺を嫌ってたって俺はもうお前を一人になんてしないし、一人で苦しまないでしいんだ。
と、俺は本心ありのままを冷奈に告げた。
冷奈は突然の事に、口をぽかんと開けたままかなくなる。
だが、ハッと意識を戻すと、突然顔を両手で覆い、そっぽを向いた。
「おおお兄ちゃんはず、ずるいです⋯⋯急にそんな、こと言われたら⋯⋯私⋯⋯どうすれば良いんですか⋯⋯あの時だって私がもっとちゃんとしていればお兄ちゃんだって⋯⋯」
冷奈が後ろ向いてぶつぶつと何か言ってるのは、俺に話すか、話すまいか考えてる⋯⋯のか⋯⋯?
お願いだ冷奈⋯⋯。
數秒たって振り向いた冷奈はいつも通りの冷靜でい表の妹だった。
「おにい、じゃなくて輝夜、分かりました。話します。と言ってもそれが原因かは分からないんですが、確かに一人よりかは貴方でもしはほんのしは助かることもないとは限りませんので、あくまで一時的協定に過ぎませんけど、よろしくお願いします」
冷奈は「あくまで」の所を強調したのだが、その通りなのだろう。
別にこれは冷奈が俺を許したわけじゃないし、何か関係が変わったわけではない、冷奈の言う通りあくまで一時的に仕方なくの事なのだろう。
それでも⋯⋯。
「あぁ、本當にありがとう、そしてよろしくな」
俺は嬉しさをじ、気合いをれるように冷奈に深々と頭を下げた。
「だからなんで輝夜が謝るんですか⋯⋯本當はこんな態度じゃなくて──」
「ん? どうした?」
「い、いえなんでもないです」
「では、話しますね。それは昨日から今朝にかけておかしな夢をみたんです。」
昨日から今日にかけての夢⋯⋯あの結婚式を思い出す、もちろん相手は目の前にいる冷奈──。
「どうしたんですか? そんなに顔を赤くして」
「いや、なんでもない! そ、それでどんな夢だったんだ?」
「は、はい⋯⋯それは本當に変で最悪の夢でした。その世界、いやその空間は辺り一面夕焼けの様な綺麗な朱にそまり、とても幻想的な場所でした。ですがそこに最悪な存在が現れたのです」
最悪な存在⋯⋯冷奈がそれほどに言うなんて、もしかして魔王とかが世界を滅ぼそうとしてるとか。
「そう、貓が⋯⋯しかも大軍が⋯⋯」
ですよねぇ⋯⋯薄々気づいてました。
だってこれでも兄ですもん、冷奈⋯⋯思い出してるだけでガクガク震えてるやん。
「無理そうなら無理に続けなくても良いんだぞ?」
「いや、続けさせてください、で、でも手を握ってて、ももも貰えませんか?」
「え? 手を⋯⋯?」
は? 今なんて?
俺は冷奈の口から出るはずのない言葉が出たことに頭を真っ白にする。
「い、いえ、あくまで貓が苦手で、どんなに頼りない輝夜でもしはマシになると思っだだけです! 他意はありません!」
「いや、それは分かってるんだけど⋯⋯まぁ冷奈が良いならそれぐらい全然良いんだけど」
俺が手を差し出すと冷奈の手が上から被さるように優しく乗っかる。
めちゃくちゃ手震えてるし⋯⋯そ、そんなに怖いのかよ、貓だぞ貓。
「分かってないじゃないですか⋯⋯いいです。⋯⋯!? お、お兄ちゃんの手⋯⋯」
なんかどんどん冷奈の手が熱くなって來てるような⋯⋯ま、まさか貓が嫌いすぎて熱を!? 俺はその考えに行き著くとバッと冷奈の顔を凝視した。
「だ、大丈夫か冷奈!?」
「にゃ、なんですか!? いきなり大聲出さないでください!」
冷奈が睨んでくるが、どこか目がとろんとしていて、顔が赤く息は荒いしやっぱり⋯⋯。
「お前顔とか赤いし、もしかして熱でもあるんじゃ──」
「ありません!」
俺が言い終わる前に冷奈が即答をし、握っている手がどんどん強くなる。
「痛い痛いぃぃ! わ、分かったから、やめて!」
「は!? すみません⋯⋯。はぁ、話の腰が折れてしまいましたね、えーとまぁそれで多くの貓が私の足元に居たんです。 當然私は大パニックでした。すると一匹の白い貓が話しかけて來たんです⋯⋯」
ど、どんな馬鹿力してるんだよ⋯⋯本當に怖いんですけど、こんなの命何個あっても足りない。
それから冷奈が話した容はまとめるとこんなものだった。
知らない幻想的な空間で、足元には大量の貓、一匹のペルシャ貓に貓モフモフ何チャラ企畫というのに冷奈が當選して呼ばれたらしく、そこでは貓がり放題の夢の空間のはずだったのだが、あまりにも冷奈が嫌がるため、もう一匹出てきた貓に魔法的なものをかけられ、自分が貓になる夢を見たとの事だが⋯⋯。
まぁ、頭のネジでも取れたんじゃないのかと正気を疑いたくなる容だけど、相手が冷奈というわけで話は別なのだ。この場合明らかにそれが原因なのだろう。
しかも、貓になった後、何か説明をけてたらしいけど、當の本人がそれどころじゃなかった為ほとんど覚えてないという。
「はぁ、忘れてるんじゃ仕方無いよな⋯⋯」
「ごめんなさい」
冷奈はバツが悪そうに俯いている。
言うには確か治すためのミッションがあるらしいのだが⋯⋯これも容を覚えてないのでどうしようもない。
「まぁ、とりあえずはこのまま五月一日まで生活するしか無いね」
どうやら五月一日にもう一度呼ばれるという話らしくそれまでお預けらしい。
あと三週間⋯⋯、周りにばれないように過ごさないといけないというわけである。
「はい⋯⋯さっきのじだと強く握られるなどの行為を人にされた場合、その人が視認出來る様になると言う事ですよね」
あ、話の腰折るみたいで申し訳ないんだけど、しいいですかね? ぶっちゃけさっきから話にね、集中しにくいんですよ⋯⋯なんでかって? それはね──。
「あぁ、そうだね⋯⋯」
「はい。それよりさっきからどうしてそんなに目を逸らすんですか?」
「いやちょっとな⋯⋯」
俺は気まずげに顔を逸らしつつ冷奈を指差した。
いや、正確にはスカート辺りを。
「なんですか?」
「尾のせいでスカートがめくれてその⋯⋯な? な?」
「良く分かりません、何が言いたいんですか?」
ジト目を向けてくる冷奈。
いやね、流石にそれを妹に言うってのは抵抗があるわけでしてはい⋯⋯。
「早く!」
ちょっと冷奈さんそんな睨まないで睨まないで!
「は、はい! パンツが見えてます!」
妹様にとうとう伝えてしまいました。
更に未來が遠くなりましたね?
「⋯⋯え?」
尾がピンと上向きにびる、すると自然にスカートが捲り上がる訳で──。
はい、そうなんです。さっきから黒の大人じみたパンツが丸見えなんだよね。
我慢しようか迷ったんだけど、夢の事とか妙に意識しちゃう訳で⋯⋯。
「えっと⋯⋯冷奈も大人になったな⋯⋯」
冷奈は自分のおの方に手を回し顔を真っ赤にして、俺は頬を思いっきりビンタされた。
「痛ってぇ⋯⋯」
「ご、ごめんなさい」
冷奈が慌てて頭を下げる。
「でも、後で覚えておいてくださいね? こんなものじゃ私許しませんので」
「は、はい⋯⋯ごめんなさい」
まぁ、確かに俺にも悪い所はあったし、あの學校No.1のパンツを見れたのだからむしろ得的な⋯⋯て、妹になんて事考えてんだよ俺は⋯⋯。
それじゃこいつがいつも言ってる通りただの変態じゃないか⋯⋯。
「ま、まぁ、その尾を治すことは後に回すしか無いとして、なるべく人に接しないように気おつけてしい、冷奈もばれたくないだろ?」
「はい、流石にこの事が周りに知られるのは非常にまずいです、輝夜の様に友達が居なくなります」
「うん、どうしてしれっと俺の心を折りにくるのかな?」
本當にこいつの俺嫌いは仕方ないけど、辛いわ。
「はい、當たり前ですけど接は避けます、なるべくスポーツなども最低限しない方が良いですねそれと⋯⋯」
流石冷奈⋯⋯自分の危機なのにこんなに冷靜に考察出來るなんて、やっぱり俺必要ないんじゃ⋯⋯。
いや、それ諦めたら今までと何も変わってないじゃないか⋯⋯? いやそれでも冷奈が頼ってくれたんだ、それに答えれないなんて本當に兄失格だろ。
れそうになる弱気を消し去り、弱音を見せないように強くそう言い切った。
「まぁ、俺がお前を見て居てやるからしは頼ってくれよ、お前の頼みならなんだってやる覚悟はあるんだ」
「は、はい⋯⋯ありがとうございます、まぁ役に立つかは分かりませんけど。そういえば朝食がまだ⋯⋯輝夜、急事態です」
冷奈がどこかに視線を移し瞬間目を見開く。
急事態ってそんな大袈裟な。
俺は冷奈の視線を追う様にしてそれの意味をようやく理解した。
時計の針は8時25分を指している、で今日の登校時間は8時30分って⋯⋯もうこんな時間かよ!
「輝夜、早く行かないと!」
「お、おう!」
こうして俺は高校二年になる始業式の朝に、これから何かが変わるかもしれない、そんな不安と期待をに、実に五年ぶりに兄妹揃って家を飛び出した。
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