執事生活、２日目。

リビングホール。

「昨日はモップかけと各所の掃除をしてもらった訳だが、今日もまぁほぼ同じだな」

「はぁ」

「うい」

俺はサーガを背負いつつ、執事長からモップをけ取った。

「とりあえずこの１週間は、ひたすら清掃だ。それにちょいちょい雑多な作業をこなしてもらう」

「了解」

「それと、モップかけが終わったら１度俺の部屋に來い。次の作業を言い渡す前に、マリとランドーを紹介しておこう」

マリとランドー……？

ああ、俺以外の従業者か。

確か執事長を除くと、後はメイドが１人に執事が２人……

「あと１人は？」

「ベニムは今、休暇中で屋敷を空けている。５日後には戻るだろう。その時に紹介する」

５日後……って、俺が修行を付けてもらえるかどうか判定する日じゃないか。

紹介早々サヨナラなんて事にならなきゃいいが……

「おお、ここにいたか」

「シング……って、お前、何だその格好……」

「メイドだ」

まぁ、わかるよ。

シングが今著ているのはメイド服だ。

一口にメイド服と言ってもデザインは千差萬別だろうが、パッと見て「あ、メイド服だ」と思うくらい『メイド服』の基本を押えている。

非常にメイドメイドしている。

それは良い、それは良いんだ。

「風紀がれてる……」

「？」

こう、何と言うか、シングの著ているメイド服は、部裝甲が異常に手薄と言うか、がら空きと言うか。

要するに、著る者によってはナイスな渓谷が見える仕様だ。そして見えてる訳だ。

「何だ、おかしいか？　個人的には似合っていると思ったのだが……」

「いや、まぁ似合ってるけどさ……」

「なら何の問題もあるまい」

……ああ、そうだね。もうお前がそれでいいならそれでいいわ。

本當、お前の恥心の基準が俺にはわからない。

「暇を持て余すのは嫌だという話だったのでな。彼にもメイドとして働いてもらう事になった」

「あの、執事長、あのメイド服……」

「……先代の趣味だ。ちなみにキリカお嬢様はデザイン変更を渇しておられるが、先代が『死守せよ』と言い殘しているため、ままならない」

キリカがこのメイド服をどうにかしたい理由は、まぁお察しだな。

コンプレックスという奴だろう。そっとしといてあげよう。

まぁ、何だ。

グッジョブ先代。

「やっぱ２人で手分けすると早く終わるな」

「………………」

「ん？　どうした？」

「どうしたもあるか……何故お前はその程度の疲労しかないのだ…？」

屋敷のモップかけを終え、リビングホールへと戻った俺とサーガとシング。

シングはソファーの上で自のふくらはぎをマッサージ中だ。

かなり汗もかいている。

……ああ、何で小麥のって汗がエロく見えるんだろう。

「……？　何だ、アタシのに何かついてるのか？」

「いや……」

一方、俺はし汗ばんだかな程度なだ。

西側をシングがやってくれたおかげで、昨日の３分の２ちょいの範囲で済んだし。

「ま、セレナのしごきのおかげかな」

考えてみれば、あんな鍛錬を積んでおいてシングと同程度の力ではお笑い種もいいところだろう。

「むぅ……アタシもを鍛えておくべきだった」

溜息を吐くシング。結構辛そうだな。

サーガが関係していない労働だし、真っ當に疲労をじてしまうのだろう。

普通に考えたら、この屋敷のモップかけは、３分の１だとしても若いにやらせていい作業量では無い。

「今日はもう、部屋で休んでた方が良いんじゃねぇか？」

「ぶいう」

「サーガ様までアタシにそんな気遣いを……大丈夫です、まだイケます」

確かに力じゃ俺には劣るだろうが、シングのは中々のモンだと思う。

まぁ、何日も飲まず食わずでサーガを抱いて走り回ってた様な奴だしな。

「んじゃあ、執事長の部屋に……」

「あなたが、新りのロマンねってじ」

俺の言葉を遮ったのは、今まさにこのリビングにやって來た、１人の。

年齢は１０代後半くらいだろうか。俺と同年代、もしくは１つか２つ上ってじだ。

シングと同じくけしからんメイド服を著ており、シング程では無いがけしからん事になっている。

口調や仕草から、何かギャルっぽい印象をける。

「う？」

誰？　とサーガが疑問を口にする。

まぁ、俺も初対面の人だが、大誰かはわかる。

この屋敷に元々いた、唯一のメイドさんだ。

名前のじから察するに、執事長の言っていた「マリとランドー」の「マリ」の方だろう。

……でも、何だろう、気のせいかな。

あの人、めっちゃ俺の事を睨んでない？

目つきが悪いとかじゃなくて、瞳の奧に憎悪のが見える。

「えーと……あんたがマリって人か？」

「そうよ、ってじ」

マリは不快そうな表でうなづいた。

……あれー……何か、すごい嫌われてるじじゃないか、これ。

初対面なのに、何故？

マリは靜かに俺を指差すと、強い意思をじられる口調で、こう言った。

「私は、あんたに決闘を申し込むわってじ」

「で、お前さんらの決闘に、何で俺が立ち會うんだ？」

渋い聲の質問。

晴天の空。吹きすさぶ風。

現在地、デヴォラの屋敷の庭。

俺＆サーガとマリが対峙し、それを見守る形でシング・執事長・そして魔パンダのヘルが顔を揃えている。

「この狀況が何なのかのは、俺が一番聞きたい」

「うい」

「とりあえず決闘なんだろ、ほら、早く俺っちを抜け」

お斷りだ魔剣この野郎。

「マリ、とりあえず軽く事を説明しろ。決闘のアンパイアをするのは一向に構わんが、執事長として事は把握したい」

いや、構えよ執事長。

部下同士が決闘しようとしてんだぞ？

「この男は、私から大切なを奪ったわってじ」

「大切な……？」

「だい？」

「何か相をしたのか、ロマン」

「してねぇよ」

してないはずだ。

第一、ついさっき初顔合わせをしたばっかの相手だぞ。

「あんたは私から大切なを奪った……この、泥棒貓！」

「ど、泥棒貓……」

まさか、そんなセリフを吐き付けられる日が來るとは夢にも思わなかった。

「あんただけは……絶対に許さないってじ！」

「いや、待てよ。もうちょい詳しく説明してくれ！　正直意味がわからん！」

「いいわよってじ。よぉく聞きなさいこの泥棒貓」

……俺の呼び名はそれで固定なんですか。

マリは、ユウカのペットであるヘルの世話を、基本的に全般任されている。

そんな彼には、１つだけ、何にも代え難い楽しみがあった。

どんな高級デザートを食すよりも、上限の無いウィンドウショッピングなんかよりも、絶対に楽しい。

しかし、昨晩。

「ヘル？　何だか楽しそうってじ」

「おう、新りのロマンってのが、中々のでテクを持っててな。かなりトんじまったぜ」

「え？」

「ありゃあ、『今までで最高に気持ち良かった』な」

「わかった！？　ってじ」

「いや、わからん」

え、以上？

回想今ので終わりなのか？

短い上に何の脈絡も無い様にじたのだが……

あれ、何か執事長が納得してるんだけど。

「ロマン、まぁお前はわからんだろうが……マリは、いわゆる変態だ」

「私のどこが変態なのよってじ！」

マリはスッとに手を當て、

「私の人生における最大の楽しみ、それは快に打ち震えるケモケモしい獣ちゃんの癡態を眺める事！」

ああ、確かに変態だ。

「そんな獣ちゃん達を悅ばせるテクを極めた私の『で』……それよりも気持ち良い『で』をポッと出の新りが……？　許せる訳無いじゃないってじ！」

「えー……」

「へルたんの中での『最高のでリスト』の座、この決闘で必ず取り返してみせるってじよ！」

どうしよう、死ぬほどどうでもいい理由で敵対心燃やされてる。

ってか、でリストって何？

「さぁ、さっさと決闘を始めましょう。そしてはっきりさせる…どちらがヘルたんをより気持ちよくさせてあげられるか！」

だからヘルを呼んだのか……

「まずは私からよってじ！　さぁヘルたん！　こっちにおいで！」

俺がまだやるなんて一言も言ってないのにヘルを呼び寄せるマリ。

「全く、仕方の無ぇだぜ……」

やれやれ、と言った雰囲気を出しつつも、そんな満更でも無いじでヘルはマリの元へ。

そのヘルの顎の下へ、マリがそのらかそうな指を差し込む。

途端に、ヘルの足がガクガクと震えだし、そのケモケモしい口から聲が溢れ始める。

「さぁヘルたん、どぉ？　ここが良いんでしょってじ。ほら、ほらほらほら」

「お、おうふぅ…ちょ、あっ、い、いつもより激し、っうぅ……！」

「うふ、ここも、たまらないんでしょう？　ほら、こうやってぇ、（首の）元から（顎の）先っちょまで、優しく指でなぞると、ゾクゾクしちゃう？」

「あ、あぁん……うぅ、も、もうやめ……じゅ、充分だからぁ……」

「まだよ、もっともっと、快を刻みつけてあげるわってじ……」

「あ、やぁっ……そんな所までっひ……丹念に……ひゃっ！？」

「さぁ、最高の絶頂フィニッシュと共に記憶に焼き付けるのよ、ヘルたんの人生における、私の重要を。私無しでは、私の指無しでは生きれないにしてあげる……うふふふ、あはははははは！」

……何この絵面。

谷間が絶景なメイドさんが、パンダの顎の下をでてるだけなのに、何でこんなエロ同人誌みたいな會話が展開されているのだろう。

しかもいでいる方はかなりの低音ボイスである事を忘れないでいただきたい。

「あぁ、ああああっ、はぁぁあああああっ……」

一際大きな聲を上げて、ヘルがその場にヘタリ込んでしまった。息を荒げ、腰をビクつかせながら、恍惚とした表をしている。パンダが。

「あは、けちゃって、可いってじぃ……もっとシてあげようかしら……」

「あ、んん……しだけ、休ませて……」

……何だろう、グデッとしてるパンダって絵面は可らしいのに、會話がエロい。けど何かキモい。かわいエロキモい。

「さ、次はあなたの番よ泥棒貓。これで白黒つくわってじ」

「えー……」

「早くやれよロマン……お前も俺を滅茶苦茶にしたいんだろ……？　エロ同人みたいに」

「丁重にお斷りします」

「逃げるのってじ！？」

「逃げて良いなら是非逃げるけど」

「まぁ、そう言うなって、ほら、でろよ。もう落ち著いたから」

「ほら、早くでなさい。不戦勝なんて、私のプライドが許さないわってじ」

「えぇー……」

「さぁ、決著の時よってじ」

「さぁ、でろ。ほら、良いからでろよ！　もっと滅茶苦茶にしろよ！　エロ同人みたいに！」

さっきからうるせぇなこのパンダ。

いや、正直さ、誰かの不興を買ってまでこのパンダをでたいとは思わない訳だよ。

もう俺の負けで良い。本當に。

ここまで心の底から不戦敗をんだのは初めてだ。

基本、戦わずして負けるのは主義じゃないのだが、今回は不思議なくらい抵抗が無い。

こういうを、人は「どうでもいい」と形容するのだろう。

「さっさと終わらせろよ面倒くせぇ」

「ぶい」

コクトウもサーガも呆れ果てている様である。

特にコクトウは「決闘」という単語にちょっと期待しただけに、かなり不機嫌そうだ。

「仕方無い……」

「お、何だよ？」

コクトウを、鞘ごとベルトから引き抜き、俺は腰砕け狀態のヘルの元へ。

鞘に収めた鋒を、ヘルの顎の下に當て、ゴリゴリとかしてみる。

「あふぉぉぉぉっ……何これぇぇ、し、新覚ぅ……はぁぃんっ！？」

「……何の真似だクソガキ」

「いや、とりあえず使ってやれば満足するかなと……」

何だかんだ調理とかに使うと満足するし、こんなじでも良いんじゃないかな、とか思ったりしたんだが……

「んな訳ねぇだろ」

「ですよねー」

「いっ、ひゃはぁぁん……このひんやりした無機で作業的に躙されてる覚がたまんねぇぇぇ……」

「ああ、ヘルたん！　気を確かに持つのよってじ！　私の責めの方が気持ち良かったでしょ！？　ねぇ！？」

マリの言葉がヘルに屆いているかは微妙だ。

何かヘル、無茶苦茶トリップ顔だもの。

結局、この後、ヘルは「甲乙付けがたい」という判定を下し、決闘は引き分けに終わった。

以降、俺がマリにライバル視され続けているのは、言うまでも無い。