《あの日の約束を》26話 プール授業
時刻は11頃、お晝前の四限目の時間です。太が上がっているにも関わらず外は冷たくてたまりません。冷えた空気とし強い風が溫をじわじわと奪っていきます。そんな中、私たちは學校の隅にあるプールにいました。今日の育は2回目のプール授業です。當然ながら全員水著なのでもう寒くて寒くて仕方がありません。生徒は飛び込み臺の前で首席番號順に並び、自分の番が來るとこれまた冷たいプールにります。そして先生が鳴らす笛の音を合図に各レーンから一斉に壁を蹴って水中にり、25メートル先の反対側まで一気に泳いで行きます。そんな様子を私は後ろから眺めていました。
「ピーッ……よし、次準備!」
出席番號の早い私は前の方にいたので順番はあっという間に回ってきました。足をらせないようし注意しながら勢を低くして足先からゆっくりとプールの水に浸かりました。水中の方がわずかに暖かい気がしますが寒いことには変わりませんね。冷たい水に包まれてが冷えてくる覚が直に伝わります。
「そろそろいいか。それじゃ……」
最初はクロールからだったかな? そう思い返しながら私はゴールである反対側の飛び込み臺の方に意識を向けます。泳ぐ準備を整え、神経を研ぎ澄ませて笛の音を今か今かと待ちます。數秒が數十秒にじる中で先生の笛がゆっくりと口元へと運ばれて……そして。
ピーッと甲高い笛の音が鳴り響きました。次の瞬間、私はを完全に水中に沈め、後ろに向いた足でプールサイドの壁を力強く蹴りました。水をかき分けて勢いよく前に進むにさらに加速をかけるべく、前に突き出していた両手を互にかして水を掻き分けます。水を後ろに押し、水中から出た手をナイフをれるかの如く進む方向へ差し込みます。互にそれを繰り返し、時にはをわずかに傾けて顔を水上に出し呼吸を挾みます。と足は余計な抵抗を生まないよう一本の棒になったかのように真っ直ぐの姿勢を維持しながらバタ足を続けます。殘りの距離が15メートル、10メートル、5メートルと近づきます。そして近く壁に手をばして、ついに反対側に到著しました。
「ぷはっ……はぁ……はぁぁ」
足を付けてほんのしだけ息を整えた後、直ぐに水から上がって最初の飛び込み臺に戻ります。休む暇はなく、も冷えて大変ではありますが泳ぐことは楽しくて好きなので問題なくその後も2周、3周と25メートルのプールを違う泳ぎ方で周りました。
………
……
…
今日の分の測定が終わり、自由時間になるとクラスの人たちは別々にプールにり始めました。私はそんな中で辺りを見渡していると1〜8まである飛び込み臺のうちの1つのレーンに花ちゃんと鈴音ちゃんがいるのを見つけました。
プールサイドに上がっていた私はチャプッとゆっくり水に浸かってから近づいて行きました。2人はまだ私に気付いていないようです。しイタズラ心が沸いたので音を立てないようゆっくりと花ちゃんの後ろに回り込みます。そんな私に鈴音さんが気づいて視線を向けてきました。花ちゃんはまだ気づいていません。なので私は人差し指を口に當ててシーっとジェスチャーをしました。それを見た鈴音さんは苦笑いを浮かべながら小さく頷き返しました。
「は〜な〜ちゃん!」
「ひゃあっ!? って、カナちゃん? もう驚かさないでよぉ」
聲をかけながらギュッと抱きつくと花ちゃんは顔を赤くしながら抗議の聲をあげました。鈴音ちゃんは見慣れた景と言わんばかりの表をしてました。
「ごめんね。それよりも2人とも何してるの?」
私が近くまでに2人は何かをしていました。多分泳ぎに関係することだとは思いますが。
「花香ちゃんと泳ぎの練習をしていたの。私背泳ぎがまだ上手くできなくて今見てもらっていたところなの。花香ちゃんは平泳が出來ないみたいだから2人で練習をしようとしていたところなの」
そこまでいうと鈴音ちゃんは花ちゃんの方に視線を送りました。
「それで……どうだったかな? 些細なことでもいいから教えてくれると助かるんだけど」
「う〜んとね、が曲がっちゃってたかな」
しばらくは花ちゃんがじたことを伝えて、鈴音ちゃんは難しそうな顔をしながら意見を聞き続けていました。花ちゃんもうまく伝えられてないのかし曖昧な想が時々出てきます。こういう時修くんならパッと言えるのかもしれないのですが……
「ーーあれ、そういえば修くんは? 運すごく得意そうだし聞いたりとかしないの?」
ふと思ったことを言葉にしますが2人とも苦笑いをしてしまいました。花ちゃんが徐にある方向に指を刺し、なんだろうと私がそっちに顔を向けると。
ザザザザーっとまるで減速することを知らないかのような速度でプールを往復する生徒がいました。と言いますか修くんでした。
「あぁ……る程。上手すぎて參考にならないと」
「ーーそうなの。それに修くんっていて覚えるタイプだから言葉で説明っていうのは本人には難しいと思うの……そういえば50メートル走の時もそうだったなぁ」
そう言いながらどこか遠い目をしてる鈴音ちゃん。確かに普段の育の時も彼は凄く運神経が良く、50、100メートル走のタイムもクラスどころか學年でも上位にります。力テストの項目も全的に高く、総合的な數値は學年でも上の中といったところでした。水泳も例外ではないのだろうとは思っていましたが25mプールを軽々と往復している様はもはや別の種族なのでは? と本気で思ってしまいそうなレベルです。
「ーーえっと……良ければ私が教えてあげようか? もちろん私の出來る範囲までになるけど」
「え? いいの」
「うん。そのくらいなら問題はないよ」
し教えるくらいなら自分でも大丈夫かなと考えてそう提案しました。2人は申し訳そうにしつつも若干嬉しそうな表を見せました。
「まだ測定は先なんだから気を抜いてゆっくりやっていきましょうね」
2人が焦らぬよう念のためにそう言いながら私はそれぞれの泳ぎにアドバイスをしていきます。
プール授業では各種の泳ぎを計測しなければなりません。クロール、平泳ぎ、背泳ぎといったお馴染みの泳ぎ方ですね。その結果が基準を満たさなければ夏休みの始まりまで続きます。それでも終わらなければ、多くの部活や課題がある夏休みにさらに水泳の補修時間までもが追加されてしまうのです。
まだ時間の余裕があるとはいえプレッシャーになることに違いはありません。私は修くんほどはではないですが、それでもまだ運は得意な方なので問題はありませんが2人は別です。別に子だからというわけでもありません。こういう得意不得意は別に関わらず誰にでもあることなので仕方がないのです。
「ぷはぁっ……うぅ、難しい」
しばらく泳いだ後に水中から顔を出した花ちゃんは殘念そうにそう呟きました。
「まずはさっき教えたところまででいいから頑張って花ちゃん。鈴音ちゃんはもうちょっと待っててね」
「大丈夫、今のうちに自分だけででし練習しているから」
鈴音ちゃんに一言伝えて再び花ちゃんの方に意識を集中させていきます。
「……あれ?」
「ぷはぁ……どうしたの、カナちゃん?」
不意にある景が頭に浮かび上がってきます。それは一生懸命に水中を泳ぐ誰かの様子です。
「……」
「カナちゃん? カナちゃ〜ん?」
その景の場所はこのプールのようで、強いて違いを探すとするなら今よりもし真新しさをじることくらいでしょうか。一生懸命泳ぐ誰かが自ら顔を出した時、近くにもう1人別の生徒がいることがわかりました。その誰かは笑いながら一生懸命泳いでいた誰かわたしに向かって何か話しかけてきました。しかしその聲が何故か聞こえてきません。なのでもっと彼に近づこうとして、そんな自分に彼は……
「カナっ!!」
笑顔のままでは出せないような強めの聲を出すのでした。
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