《あの日の約束を》27話 デジャブ
誰かが私を呼んでいます。それに気づくと同時に私の意識は現実に引き戻されました。どこから私を呼んでいるのだろうという疑問が頭に思い浮かびかけましたが続く呼び聲にそれはかき消されました。
「ーーえ?」
何故ならその聲はずっと目の前から聞こえているのですから。
「修……君……?」
そう、私の意識を引き戻してくれたのは修くんでした。私がなんとかそれだけ言うと修くんは僅かに表を和らげました。そしてまたすぐに表をキツくして問いかけてきました。
「やっと反応した。おい大丈夫か! どこか悪いとこがあるのか? どうなんだ!」
「へ? えっと、大丈夫……そう?」
あまりの剣幕に若干気を押されながらも私は自の狀況を伝えようとしました。でも私自まだ自分に何が起こったのか理解しているわけではありません。そんな狀態だったために口から出るのは中途半端な返事しか出せませんでした。
「いやなんで疑問形? そうじゃなくてこっちが聞いてるんだって」
當然、それを聞いた修くんはよく分からないという顔をしながらそう言いました。
「し待って。私もちょっと混してて、し時間を頂戴」
「え? あ、あぁ……すまん」
ひとまず落ち著こう。そう思って深呼吸をしました。呼吸を落ち著かせることで思考がクリアになっていきます。數秒後、気持ちを落ち著かせて冷靜になったところで私はゆっくりと話し始めました。
「ありがとう、修くん。もういいよ……続きを聞かせて」
「そうか。それじゃあ改めて聞くが、何かあったのか?」
私はクールダウンした頭で自の狀況を見返してみました。
「別に何もないよ。強いて言うならちょっと考え事をしちゃってただけ」
そう言いながら先ほどの景を思い浮かべようとして、それを振り払いました。危うく同じ事をまたしてしまうところでした。またボーっとしてみんなを心配させてはいけませんからね。
「もしかして私何か変だったかな?」
「あぁ、変だった。お前俺が何度聲をかけても反応がなかったんだぞ。花香や鈴音も何度も呼んでたのに。流石にお前が無視とかするはずはない。そうなれば心配もするだろ?」
私に狀況を教えてくれているその表は真剣そのもので、とても冗談を言っているようには見えませんでした。すぐ隣にいる花ちゃんと鈴音ちゃんも心配そうな視線を私に向けているようにじました。
「そう……なんだ」
3人とも本気で私のことを心配してくれていることををもってじています。ならば私はそんな心配をかけさせてしまったことを謝らなければなりませんね。
「ごめんね、心配かけちゃって。でも今は大丈夫だよ。だから安心してしいな」
「本當か? 実は何かの病気だった、とかじゃ無いんだな?」
「大丈夫。本當に私は大丈夫だから」
安心してもらいたくて、今できる一番の笑顔でそう言うと、修くんは『まぁ、お前がそういうならいいんだ』と言いながら引き下がりました。花ちゃんと鈴音ちゃんもそれ以上それについて聞いてくることはありませんでした。心配をかけてごめんね、とそう思いながらプール授業の終わりを待ちました。
………
……
…
お晝休憩が終わって現在は五限目の授業は數學でした。目の前の黒板に數字や記號、アルファベットが次々に書かれていきます。しかし、私はペンを走らせることなく、ただその様子を眺めていました。
「(さっきのあの景は何だったのだろう)」
授業が始まってからその言葉がずっと頭の中を駆け回っていました。他のことに意識が向かないのです。完全に上の空でした。そんな狀態なのでどうしても授業に集中出來なくて、時間が流れていく中で、私は窓の外の空を眺めながら、先ほどの景を思い出していました。
今よりもし真新しさをじるプール。泳いでいる『自分』。そこに聲をかけてくる男子生徒。彼は多分、クラスメイト以上の……そう、友人なのでしょう。その景の中の彼は心から楽しそうに、真剣に、おかしそうに話しかけてくれていました。
すると不意にモヤがかかったように景がぼやけ始めます。しすると今度は教室のような場所が見えてきました。
やはり教室も今いる教室よりも綺麗というかまだ新しいという印象をじます。偶然の一致なのかその中の授業の容は先ほどから黒板に書かれているものと同じようでした。
「ーーというわけで、このグラフはこのようになる。つまりこれを數式で表すとこうなるわけだ」
先生の聲が私の意識を引き戻しました。噓のように聞こえなかった音が戻り始め、ここが妄想でなく現実であることを強く意識させられます。前を向くと數式だらけだった黒板は一度消されたのか、先ほどとは違う數式に加えて、山もしくは谷のように曲線を描くグラフが書かれていました。
「(ノートは真っ白。もう、しっかりしないと)」
自分自に悪態をつきながら、教科書と先ほどまで書かれていた數式からなんとか容を確認することができました。授業はかなり進んでいたので、遅れた分を把握するのに時間がかかるかな、と思いながら教科書の容を見始めました。すると先ほどの考えとは裏腹に、するすると頭の中に要點や注意點がっていきました。
「それじゃあこの応用問題を、そうだな……よし、天宮、解いてみろ」
「ーーっ! はい」
なんとかノートを撮り終えたその時、先生が私に問題を投げかけました。私は僅かな不安を抱きながら席を立ち黒板の前まで進みます。
もし間違えたらどうしよう。そんな考えが頭をよぎります。容は何故か簡単に頭にっていきましたがそれでも全部ではありません。ボーッとしていたためにわずかな時間しかなかったので要點と思われる部分しかノートに書く暇がありませんでした。
「(こうなったら……やるしかないよね? よし! がんばれ私!)」
意を決した私はチョークを手に持ち問題を解き始めました。するとどうしたことでしょう。私の手はまるで問題の答えを知っているかのようにスラスラとチョークを走らせ始めました。隣に立っている先生が『おぉ?』と驚く聲をらしました。
やがて私はその問題を解き切ることができました。
「ーー素晴らしい……完璧な解答だ。っと戻っていいぞ天宮」
先生は黒板を見つめて何か呟いていました。しかし直ぐに我に戻ったように顔を戻すと私にそう言いって席へ向かうよう促しました。席へ戻る途中、『よく分かったよね』『凄いなぁ』『こっそり教えてもらってたんじゃね?』とクラスメイトがざわつきました。周りから驚愕や稱賛、奇異の視線を背にけましたが気にする余裕もなく、呆然としながら席に戻りました。著席をして數十秒の沈黙の後、やっと自分が問題を解いたのだと理解すことが出來た私の頭の中には。
『出來ちゃった……』
となんとも腑抜けた言葉が殘るのでした。
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