《無冠の棋士、に転生する》第18話「2人は――」
イベントもいよいよ大詰め。
トークイベント、サイン&握手會、と終えて、あと殘すところ『つくもんとの対局イベント』のみとなった。
「桜花の何番?」
「142だよー」
つくもんと対局できる人は10組限定で、選で選ばれる。
このショッピングモールの千円以上ご購のレシートを運営さんに持っていくと、選券と換してくれる。
私と桜花とルナの3人分。洋服代と晝食代、そしてアニメイトのグッズ代でちょうどレシート3つだ。
「競爭率高そうだわ」
「ホントに人多いよね〜。田舎の矜持はどこいったんだか」
ルナがピラピラと自分の番號が控えられた紙を見せてくる。
田舎にある辺鄙なショッピングモールにこんなに人が集まるなんてね。
私の橫でワクワクして落ち著きのない桜花。當たってしいいけど、この人數だと難しそうだよね。多分10連1回で星5當てるより難しい。この前シトナイ當たったから運使い果たした気がする。
「そういえばルナのパパさんは対局イベントしないんだね」
「パパがショッピングモールこんなところで対局イベントすると、將棋目當てじゃなくて、パパ目當てで來る人が多くなっちゃうわ。昔それでトラブルが起きてからは、対局イベントしなくなっちゃったの」
「へ、へぇ……」
イケメンに生まれてしまった神無月先生も大変だね。子持ちとは思えないあの若々しい顔は全國のマダムを虜にするんだろう。
元おっさんの私だって、あのイケメン顔で話しかけられたらときめいちゃう。冗談だけど。
うーん、というかこのになってから、かなり神的にもの子に近づいてる気がする。多男的思考が殘ってはいるが、基本的に的なであるのほうが強い気がする。プリキュアとか普通に面白いと思うし。それとのを見ても何もじないし。
まぁ、前世の私自の記憶なんて全然思い出せてないから、もしかしたら前世の私はプリキュアおじさんだったり裝好きの変態だったりするのだろうか。その考え方が今にけ継がれてるだけで、的影響は関係ないのかもしれない。それはそれで困るけど。
前世の私はイケおじのプロ棋士であってしい。こうストイックなじで將棋一筋で無髭を生やして、いつも將棋盤に向かってるおっさん。うーん、思い出せないから不安だ。
そういえば魔王の世代が今の私と同世代ってことは、前世の私は二十代になったばかりの頃か。ネットでその辺のプロ棋士調べたらもしかしたら前世の私のヒントが出てくるかもしれない。今度調べてみるか。
「あっ、番號発表されたみたいだよ!」
考え事をしているうちに、どうやは番號が発表されたみたいだ。
桜花が立ち上がり、番號を確認しに行った。
そした十數秒後……肩を落として帰ってきた。
「外れてた……」
「あぁ……」
まぁ、案の定ってじ。さすがにこれだけ応募者がいれば、外れても仕方がないよね。
「桜花ちゃん、発表された番號何番だった?」
「うーんとね……」
ルナに言われて、桜花が先ほど確認した十個の番號を諳そらんじる。さすが桜花。十個程度ならすぐに覚えられるんだね。
ちなみにその中に私の番號もなかったから外れのようだ。
「……あっ、ルナの當たってるわ」
しかしどうやらルナが番號が當たったらしい。
自慢げに番號を控えた紙を見せびらかしてくる。
「…………あれルナちぃの番號って――」
「――はい、桜花ちゃん。これあげる」
桜花の言葉に被せるように、ルナが紙を桜花に渡す。
「えっルナ、桜花にあげちゃっていいの?」
「いいのよ。桜花ちゃんとても楽しみにしてたみたいだしね」
「えへへ、ありがとねルナ。ほら桜花、ありがとって言いなさい」
紙を渡された桜花はジーっと番號を眺め、し逡巡して。
「……うん、ありがとールナちぃ!!」
ギュッとルナに抱きついてそう聲にした。
いいなぁ。お姉ちゃんもハグされたい。
■■■
長機に將棋盤が十面乗せられていて、その前に當選した十組が座っている。
おじいちゃんから私たちの子どもまで老若男幅広い人達だ。
「楽しみだね、おねぇ」
「そうだねー」
私は桜花の隣に座っている。
このイベントは十組限定でつくもんと対局できる――つまり私たちのように2人で協力して対局することもできるのだ。
私たちの他にもお父さんと子供が一緒に座っている場所もある。
家族で楽しめるようにしているのだろう。
ちなみにルナは最初からそれを知っていたようで、桜花に當たり券をあげたあとすぐに「さくらと桜花ちゃんで協力して指したらどう?」と言ってきた。
「そういえば桜花、ルナになんて言おうとしたの?」
「……うーん、」
「そ、そう」
當たり券を渡された時、桜花はし複雑そうな顔でその當たり券を眺めてルナに何か言いたげにしていた。
何が言いたなかったのだろう。當たり券が汗ばんでいたのかな。ルナの汗ならきっといい匂いしそう。
「ルナちぃ…………番ご……外れ……なのに」
桜花がそっぽを向いてボソボソと呟く。
周りがざわざわしてて聞き取れなかった。
まぁ、獨り言を聞いても仕方がないか。
「えーっと君たち將棋わかる? 一応ペアってなってるけどお父さんかお母さんとなら一緒に指してもいいのよ?」
運営のの人が私たちの前にやってきてそう言ってきた。失敬な。私たちはバリバリの將棋ガールなのに。見た目はただのだけど。
「將棋の大會に出たことならあるよ」
「なら安心ね。じゃあ駒落ちってわかる? つくもんとの対局で何枚落ちで対局するか聞いて回ってるんだけど」
つくもんは今はお茶の間のアイドルとはいえ元プロ棋士。しかも名人位まで奪取したことのある正真正銘のトッププロ。將棋界の偉人だ。
そんな人に平手で挑戦して一般人が勝てるわけもなく、つくもんの駒を最初から減らして対局するのだ。
私が転生して初めてした將棋も、おじいちゃんに飛車角桂香の六枚落ちで指して負けたっけ。
初心者なら八枚落ちから六枚落ちと言ったところか。
私たちはそこそこ將棋やってるし小學生の大會でも勝ち進んでるから、どのくらいだろう。角の一枚落ちくらいで私は対局してみたいけど。
「平手ぇ〜!」
お、桜花ぁああああああ。
えっ、平手!?
まさかの落ち無しを希するのですか我が妹は!?
ほら、運営のお姉さんも面食らってるよ。
あらあら〜とか言ってるよ。
「わかったわ。頑張ってね」
優しそうな笑顔で運営のお姉さんは次のお客さんのところに行った。
これあれだよ。「小學生が背びしててかわいいわ」ってやつだよ。
「お、桜花。平手で指すのか本気? 今ならまだ間に合うから角落ちくらいにしない?」
「やー。つくもんと本気で將棋指すチャンスなのに駒落ちなんて、やー」
「お、おうよ」
桜花ってホントこだわり強いよね。手加減されたり、ハンデがあったりするの嫌って言うんだよ。駒落ちの手合いだって立派な將棋なのにね。
「――それに、おねぇと一緒だもん」
桜花はを曲げて、上目遣いでにへらと笑いかけてきた。はい、かわいい。
くそー、自分がかわいいと知ってての狼藉か!!
くやしー、けど萌えちゃう。
「ふふ、そうだね。久しぶり『おうかさくら』やっちゃいますか」
スマホでネット將棋を始めたての頃、まだ將棋大戦のアカウントが2人で分けていなかった頃のアカウント名『おうかさくら』。
その時たまに2人で協力して將棋を指していた。
序盤中盤安定した私の將棋と、終盤の詰め力が際立って高い桜花の協力指し。
まだ將棋に慣れていなかったあの頃でも無敵(個人の想です)だった最強(個人の想です)戦法だ。
「しかし、そうなると私が先に指すことになるけどいいの?」
序盤中盤は私の方が得意な関係上、どうしても私が先に指さなければならない。終盤を任される桜花より長くつくもんと將棋をすることになるだろう。もしかしたら私が何もできずに負けてしまい桜花の出番がないかもしれないのだ。
「いいよー」
しかし、そんな私の心を知ってか知らずか、あっけらかんに桜花はそう答える。そして言葉を続ける。
「でもわたしが代わってしーって言ったら代わってー」
桜花は最近中盤でもあの深い読みを発揮できるようになった。確かにそれならば詰みの見える盤面でなくても桜花に代してつくもんと將棋を指させてあげることができる。
まぁ、もし何もできずに負けそうだったら、すぐに桜花に代わってしでもつくもんと將棋を指させてあげよう。桜花ずっと楽しみにしてたしね。
「おやおやおやおや、先ほどの可らしいお嬢ちゃんたちじゃないですか。よいしょっと」
つくもんが私たちの向かい側に座る。
つくもんはひと組ひと組順番に何手か指して次の組に移している。
私たちは端から四番目に座っているので、ちょうど半分當たりだ。
「ええっと……むむむ平手ですか。神無月先生のお子さんとお友達だからもしかしたら將棋がお強いのですか? これは私も張り切っていかなければ、ですね」
やたら長いネクタイを整えて、つくもんは整然とした顔で私たちと向き合う。
……ネクタイ長すぎない?
「「お願いします」」
「はい、お願いします」
…………。
………………。
私たちとつくもんがお見合いしててかない。なにこれ、にらめっこ?
「おや? てっきり平手なのでキミたちが先手なのかと」
「あっ、そうか」
駒落ちの手合いは落とした方が必ず先手となる。基本的に駒落ちの手合いとなる対局イベントでは、つくもんはいつも先手だったろだろう。
私もそのつもりで後手を指すつもりだったのだが、今回は平手だった。全く桜花め。
「じゃあ先手もらいます」
「はい、どうぞ」
私はおそるおそる初手を指す。
「うんうん、なかなか良い手ですね、はい」
初手から褒めてくれるつくもん。優しい。子どもへのリップサービスだろうけどね。
そのあとも時間をお互い時間を使わずに進めていく。私お得意の定跡通りの進行だ。
「むむむっ、お嬢ちゃん。しっかり勉強なさっていますね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、こうならどう指しますか?」
「こうです」
つくもんの問いかけの一手に私がノータイムで返答する。「ほぉ」とつくもんは心したように聲をらす。
「…………」
「…………」
そのあと何手か進むにつれて、最初は聲を出して褒めてくれていたつくもんがしずつ靜かになっていく。將棋に集中し始めたのだ。
アゴに手を當てて、つくもんじっくりと考える。
(なにこれすごいプレッシャー……)
もうそこにいるのはマスコットキャラとして人気を博している『つくもん』ではなかった。元プロ棋士『武藤九十九』だった。
(ははっ、懐かしさすらじる)
これがプロの迫力。対面して初めてじるこの圧力。前世で何度も験した気がする。
これがプロか……。
私とつくもんがそんな白熱した対局をしていると。
「あの〜武藤先生。そろそろ次の席に移していただかないと時間が……」
運営のお姉さんが、ずっと私たちと指していたつくもんにそう言ってきた。
「……ほっ!? これはこれは集中し過ぎてしまいました。いやー、しかししかしお嬢ちゃん強いですね。私心しました、はい。……どっこいしょ」
辛そうにつくもんは椅子から立ち上がる。
十面分も何度も椅子を座っては立ち上がってとしなければならないのは辛そうだ。
「…………ふーむ、しかし君とはじっくりと將棋が指したいですね」
し考えるようにつくもんはひたいに手を當てる。
「うーん、うーん」と考えた末、ポンと手をついた。
「キミたちは後回しにしましょう。ちょっとだけ待っててくださいね」
そう言い殘し隣の席につくもんは移した。
「……えっ?」
そのあとつくもんは、私たち以外の參加者全員に勝利した。
さすがは元トッププロ。駒落ちでも一般人程度には負けないらしい。橫から見てたじあのおじいちゃんとか普通にアマチュア段位者レベルの強さがあったと思うんだけど。
そして満を持してつくもんは私たちの前へ帰ってきた。
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