《無冠の棋士、に転生する》第23話「出発」
宿題に追われる夏休み真っ只中の8月。
私は転生してから始めて新幹線に乗った。
目指す先は小學生將棋王將大會が開催される岡山県の倉敷市。
岡山の言えば桃太郎発祥の地として有名らしい。桃鉄で勉強した。
お父さんへのお土産はきびだんごで決まりだね。
新幹線の窓から外を覗き見る。
すごい速さで景が通り過ぎていく。はやーい。あと窓冷たーい。
ほっぺを窓につけて涼んでいた私を心配してとなりに座っている桜花が話しかけてくる。
「おねぇ、元気ないね?」
「し熱っぽいかも。ママには緒にしてね」
「……わかった。でもおねぇは無茶する癖あるから本當にキツくなったらちゃんと言って」
「わかってるって。桜花は優しいね」
昨日興しすぎてあまり眠れなかったせいか、し風邪気味。咳は出ないけど頭がボーッとするじ。全國大會は明日だし今日はホテルに著いたらすぐ寢よ。
調を負けた理由にはしたくないしね。
「そういえばルナはどこいった?」
「ルナちぃはトイレ行った」
「そっか」
ついさっきまで桜花と將棋を指していたルナはトイレに行ったようだ。アイドルみたいに可いルナでもトイレするんだね。
超絶の桜花もトイレに行くし當たり前か。
今回の全國大會に行くにあたって、出場する私と角淵くんは一緒に行くことになった。
しかし角淵くんの両親はともに忙しいため師匠である神無月プロが代わりの保護者として同行してくれている。私たちの方はお母さんが付いてきている。それとワガママを言ってルナと桜花が付いて來たので総勢6人の大グループだ。
ちなみに私のお母さんはさっきからずっと後ろの座席で神無月プロとおしゃべりをしている。この頃、お母さんもお母さんなりに將棋のことを理解しようと勉強してる。聞き耳を立ててみたじだと、プロ棋士とか流とこととか聞いているみたいだった。子供のやりたいことに理解を示してくれる家庭に生まれて本當に良かった。
もし転生先が毒親だったらと思うと震える。
將棋指せないだけならまだしも、暴力とか振るわれたらたまったものじゃない。
「角淵くんはどう思う?」
「いきなりボクに振らないでください。一何の話ですか……」
私の真後ろの席に座り、カッコつけて窓の外を眺めていた角淵くんに私は話しかける。
「子どもは親を選べないんだよ」
「はぁ……?」
「ぶっちーはお父さんやお母さんと仲良い?」
「普通だと思いますよ」
普通と即答できるくらいにはいい親さんに恵まれているらしい。普通が一番だよ。
私の家はお父さんが社畜であんまり家族サービスしてくれないのが悩みかな。滅べブラック企業。
「そう言えば……朝會った時からなんですけど、あなたの妹が何故かボクに敵対的なんですけどあなたの差し金ですか?」
「角淵くんが桜花の分のパフェ食べちゃったからだよ」
「アレはあなたがいましたよね!?」
角淵と一緒にパフェ食べてもう一週間か。
桜花にはデートとか言われてからかわれたけど、私はどう考えてもアレはデートじゃないと思うんだよね。
デートってのはこう、ロマンチックでエレガンスなワクワク験なんだし。
前世でのデートの記憶なんて全く覚えてないから、デートエアプもはなはだしいのだけどね。
「ねぇ、角淵くん。暇ならスマホで將棋しない?」
「ボク乗りに弱いのでやめときます」
「へぇ、酔っちゃうタイプなんだ。ちなみに私は全く酔わない。ぐにゃぐにゃの山道を走ってる車でマリカーしてても酔わない」
「話を聞くだけで酔いそうなシチュエーションやめてください」
「ドヤっ」
「その顔ムカつくきますね。逆襲しますよ」
「逆襲の安売り!」
そんなじで角淵とじゃれあっている間にルナがトイレから戻ってきた。
さすが。トイレのあとも澄まし顔を忘れない。立つ鳥跡を濁さずって言うしね。多分意味違うけど。
「ルナちぃ、次の手早くー」
「急かさないで。戻ってきたばかりだからもうし考えさせてほしいわ」
桜花とルナの席の間には私たちがよく使っているマグネット將棋盤が置かれていた。戦局は……ルナの方がし優勢かな。
ルナがし考えて一手指す。そのタイミングなら邪魔にならないと思い、私はルナに話しかけた。
「ルナは乗りとか酔わないの?」
「ルナは電車では酔わないわ。でも車では酔っちゃうことはあるわ」
電車とか新幹線の方がたしかに酔いにくいってきく。私は何に乗っても酔わないから分からないけど。
「ルナちぃはぶっちーと違って強いんだね。ぶっちー、さっきからずっと窓の外見てるよー」
「へぇ……。角淵はまだ乗り酔いするのね。ふふふっ」
ルナ口元に手を當ててお嬢様笑いをする。
煽ってる。角淵の事嫌いなのは知ってたけど骨に煽る。
ルナは角淵くんが関わると格変わるよね。なんか闇が出る。
「…………」
それに対して角淵はルナの方を一瞥だけしてまだ窓の外を向いた。スルースキル高いぞ、この小學三年生。まさに鋼鉄の守り。鋼鉄流の名は伊達ではない。
「…………っ」
ほーらルナさん。がそんな顔しちゃダメだよ〜。鬼天使が出ちゃってるよ。というかもう鬼悪魔だよ。漫畫ならプンプンガオ〜って擬音がみえるよ。
角淵に平常心をされたルナは、普段ではしないような緩手を指してしまった。
その事にルナが気づいた時にはもう遅く、一気に桜花の方へ形勢が傾いた。
「にひひ、ルナちぃ油斷大敵」
「…………ホント、け無いわ」
そっと目を伏せて、ルナは息を吐く。
聡明な彼だからこそ、自分の心のれでミスをしてしまったことが苦々しいのだろう。
原因である角淵のせいにする事は簡単だが、平常心を失ってミスをしたのは誰でもない自分自。
それを自分の弱さであると認められることがルナの強さなんだと思う。
生まれつきなのか教育なのかルナは子供らしくない。
……もしかしたら。
「ねぇ、ルナ」
「なにかしら、さくら」
桜花に負けてし機嫌斜めなルナ。
桜花との想戦を止めて、その雙眸を私に向ける。
「ルナの前世・・って誰?」
実はこの質問は桜花にもしたことがある。
わたしという転生者がいるのだから他にいても不思議ではない。
統計においてサンプルが一つでも存在することは、大きな意味を持つ。例えるならGを臺所で見たら100匹はいると思えってやつだ。
ルナも桜花も変に子どもらしくないところがある。
私みたいに前世持ちなら子どもっぽくない理由となる。
まぁ桜花にこの質問日をした時は、何言ってんだこのバカおねぇは、って顔でポカーンってしてたけど。
さて、ルナは……。
「なんのアニメの話かしら?」
ルナはそう即答した。
演技してる様子もない。
ルナも外れか。
わたしの他にも転生者がいてもおかしくないと思うんだけどなぁ。
「おねぇはたまに……よくアホになるから気にしなくていいよ」
「桜花なんで言い直したの!? たまにだよ! いやむしろ私はアホじゃないよ!? そうだよね、ルナ?」
「………………たぶん?」
「長考からの疑問形!」
バカな。前世が四十代のおっさんである私が子どもからアホと思われていいだろうか。いや、いいわけがない。
男の子の角淵くんなら私がアホじゃないってわかってくれるはず。
そう思い、角淵くんの意見を求めて振り返る。
「……うぅ……うぇっ……。お前らやかましい。頭キンキンする……」
子小學生3人のしい會話劇と新幹線の揺れとのコンボで本格的に死にそうな顔になってる角淵くんがそこにはいた。
いつもの暗い顔が3倍増しで暗くなってる。キャオブキャだ。
「……角淵くん、大丈夫かい? ジュースでも一緒に買いに行こうか」
「ありがとうございます、師匠」
神無月プロに連れられて角淵くんは席を立った。
ふむ、これで私がアホでないことを証明するための人材が消えたわけだ。
いや、待てよ。お母さんなら分かってくれるはず。子どもに理解を示してくれる私のマザーなら……。
「ママー、私はアホじゃ……」
満面の笑みで私を見ているお母さん。
知ってる。この顔はちょっと怒っている時だ。
「さくら、桜花、それにルナちゃんも。もーし新幹線の中では靜かにしましょうか」
「「ごめんなさい!!」」
お母さんの怖さを知っている私たち雙子は音よりも早く頭を下げる。
ルナもそれに遅れて「ごめんなさい」と頭を下げた。
「よろしい。素直な子はお母さん大好きよ」
良かった。あんまり怒ってない。嵐は過ぎ去った。でも靜かにしてよう。お母さんは同じことで怒らせると雷になるのだ。ゴロゴロの実の能力者なのだ。
それからは靜かにルナや桜花と將棋をして過ごした。そしてちょうど5局目の対局が終わった頃。
全國大會の舞臺である倉敷市に著いたのだった。
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