《無冠の棋士、に転生する》第26話「サボテン」

「到著ッ!!」

全國將棋王將大會の會場に到著した。

會場となる倉敷文化蕓會館は倉敷駅からし離れた場所にある。私たちが泊まるホテルからは歩いて行ける距離だ。ちなみに予選が行われたウチの近所の會場と同じくらいの広さの場所だ。

予選を勝ち抜いた小學生將棋オタクが今日ここに集まっていると思うと慨深い。

「……桜花、ルナ、大丈夫?」

「……眠い」

「…………」

桜花が一言。ルナは喋ることすら億劫なのかコクリと桜花に同意する。

昨日私が寢てる間に持ち時間2時間の將棋を指したらしい。

夜中に4時間近くも指せばそりゃ眠くなるでしょ。

私が起きた時、二人揃って広縁の機の上に突っ伏していたのは驚いたよ。

あんな寢方すれば大人なら関節ガチガチになってくことすら辛くなりそうだ。

二人は眠そうなこと以外はピンピンしてるけど。

「……おねぇは熱、大丈夫?」

「うん、朝測ったら36度8分。平熱だね」

実は熱はないけど清々しいってじではない。

本調子ではないけどかすわけじゃないし大丈夫でしょう。

まぁ、熱があっても育は休まないけどね!

私はアグレッシブ系だし。

「さくら、9時から開會式です。し急ぎましょう」

私たちの隣で歩きながらスマホをぽちぽちしていた角淵が、スマホの畫面に表示されている日程表を見せてきた。歩きスマホ危ないよ、ぶっちー。

「ルナたちはおトイレに行ってくるから角淵は先に行ってくれるかしら」

「私はまだトイレ大丈夫だよ?」

「……あなたのだしなみよ。朝は眠くて気づかなかったけど、寢癖酷いわよ」

そんなに酷いかな。

ちょっと跳ねてるだけだとと思うんだけどなぁ。

ぴょこぴょこアホぴょこ。

「おねぇがいくならわたしもいくー」

桜花が手を挙げ、パーティーは3人になった。ルイーダの酒場はいらないね。

角淵くんが頬をピクピクしている。いや〜、分かるよ。「なんで、子はみんなまとまってトイレに行くんですか!」とか思ってるんでしょ。の子の協調は小さな頃から磨かれているのだよ、ぶっちー。君もトゥゲザーするかい?

「……ではボクは先に會場に場しておきます。開會式までには來てくださいよ」

角淵くんはそう言ってそそくさと行ってしまった。まったく、あとでらしても知らないぞ。

ちなみにお母さんは私たちの付をしてて、神無月先生は運営の人に會いに行っているらしい。

負けたらはい終わりの県予選と違って、今日の大會は午前中のブロック予選で負けてしまっても午後のプロ棋士との流イベントに出席できるのだ。

詳しい話は聞いてないけど、神無月先生はその流イベントにプロ棋士側として出るようだ。

私はまだ神無月先生とは対局させてもらったことないから、やってみたいなぁ。

もちろん大會で負ける気は無いけどね!

「まったく、服は及第點だけど髪はダメダメだわ。ほら、後ろ向かないで前向いて」

私はトイレの鏡の前でルナに寢癖を直されている。

ルナって櫛とか普通に持ち歩いているんだね。

ほんとお灑落さん。

んー、でも退屈。なんか話題ないかなぁ〜。

「……ルナもトイレするの?」

「……どういうことかしら?」

「ルナって妖みたいでしょ。トイレする姿が想像できない」

ルナはまるで絵本から飛び出たような銀髪碧眼でめちゃくちゃ可い。

がトイレをする姿を全然想像できない。

アイドルはトイレに行かないって言うもんね。

ハンカチを口に咥えて、手を洗う姿すら何か幻想的なものをじる。

ルナちゃんマジ天使。

「おねぇ、まじキモい」

トイレを終えた桜花にマジ聲でディスられた。

いやまぁ、たしかに今のはキモかった。

ルナに汚を見るような眼で見られるのと背中がゾクゾクする。鬼天使マジ鬼天使。

「ごめん、流石に今のは無し。でもルナが妖みたいでかわいいってのは本當だから」

「ありがとう。ママのおかげよ。……はい終わり。桜花どうかしら」

「いいとおもー。サボテンからスイートピーになったー」

サボテン!?

えっ、サボテン!?

スイートピーに関してはもはや髪に使う比喩じゃないよね。

私の妹ながらなかなかのをお持ちで……。

「ほ、ほら角淵くん待たせると行けないし早く行こっ!」

だしなみを整えてトイレを出る。

ルナに整えられた髪のは心なしかいつもより生き生きしてる気がする。

開會式の會場は二階にあるので階段を3人で上る。

「おねぇ、ハンカチ落としてる」

「えっ、ホントだ」

階段を登ってる途中にポケットからハンカチが踴り場に落ちていた。

あーあ、ハンカチが汚れちゃう。

ハンカチを取りに1人階段を降りる。

「はい、どうぞ」

しかし、私がハンカチを手にするよりも早く、通りがかった年が私のハンカチを拾ってくれた。

綺麗なボーイソプラノボイス。海外の合唱団で天使の歌聲なんて言われそうなくらいき通る聲だ。

ハンカチをけ取り、年の顔を見る。

男の子にしてはし長めの髪。

の子と見間違うほど端正で可らしく中的な顔立ち。

リアル男の娘だよ。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

年はニコッと笑う。

うわー、なにこの可さ。

つい、キョドッてしまったよ……。

でもなんか心がゾクゾクする。ショタコンに目覚めちゃうかも。

……そもそも今私はなんだからそれが普通なのでは?

いやいや、今は多様が認められる社會。私は桜花とルナとのを深めていくのよさ。

……聲に出したらまたキモいって言われそう。最近スキンシップしすぎて2人から警戒されてるしね。

「じゃあ、僕は行きますね」

そう言い、年は私の橫を通り過ぎて階段を登る。

――ゾクゾクゾクゾクゾクゾク!!!

「えっ?」

まるで背中を蛇が這いずり廻るような悪寒が走る。

足から力が抜け、私はその場で餅をついてしまった。

呼吸が早くなる。ドクンドクンと心臓が波打つ。キリキリとした張がを支配する。何これ何これ。

「……あれ、大丈夫ですか?」

「ごめんなさい」

年は私が倒れたのに気づき手を差しべてくれた。

私はその手を――

――ゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾク

「うっ……」

嘔吐。堪える。

なんで――。

――なんでこの年があいつ・・・と重なるんだ……。

私は年が差しべてくれた手を取れずに、その場でうずくまってしまった。

熱い。が熱い。

視界がぼやけ、キーンとした耳鳴りがノイズとして世界から私を隔離する。

「さくら、大丈夫!?」

「おねぇっ!!」

ルナと桜花が慌てて駆け寄ってくる。

「ああれ、あなたは確か影人くんの……」

「そ、宗一くん?」

ルナと年――宗一は顔を合わせるなり驚きをあらわにしていた。

2人は元々知り合いだったようだ。

「おねぇ、大丈夫!? ママ呼ぶ?」

「ありがとう、桜花。大丈夫、ちょっと目眩がしただけ」

ウソだ。今も耳鳴りが止まらない。頭痛もする。目元を手で押さえてないとまともに顔すら上げることができない。

桜花が背中をでてくれて気が多は紛れる。

「ルナ……知り合い?」

「え、ええ。そんなことよりもさくら、あなた本當に大丈夫なの? 顔が真っ青よ」

「うん、大丈夫だから。し休ませて」

階段の手すりにもたれかかる。

なんとか顔を上げて、心配そうな顔で私を見る宗一を見返す。

こんな、こんな可らしい年があいつなわけがない。

気のせいに、私の気のせいに違いない。

常に冷たく。

常に冷靜で。

常に機械のようなな。

あの魔王が――こんなに可いわけがない。

あんな無邪気に笑うはずがない。

こんな明らかな優男なはずがない。

前世の魔王とイメージと目の前の年はかけ離れすぎている。

しかし私のの震えは止まらない。

では違うと考えても、覚が年をあいつだと言うのだ。

「こんなところにいたのか宗一! 開會式始まるぜ」

大きな聲が響き渡る。

昨日聞いたばかりの聲――飛鳥翔だ。

不機嫌な様子を隠そうともせず、不遜に宗一を見下ろしていた。

「あっ、翔くん〜。ごめーん」

「ごめ〜ん、じゃねーよ。いつまで待たせんだよォ。 あぁん? 昨日の子3人組じゃねェーか」

私たちに気づき、さらに不機嫌になり翔は聲をらす。

ちなみに私は両側から桜花とルナに支えられているハーレム狀態だ。介護狀態というのかもしれんないね。

そんな私の姿を見た翔は眉をひそめる。

「お転婆ガール、大丈夫かァ?」

「私のことは気にしなくていいから、行って行って」

お転婆ガールって私のこと?

こんな狀態じゃなかったらプンプンしてたぞ。

「……ふん、行くぞ宗一」

「あっ、待ってよ〜」

翔に連れられて立ち去る宗一の後ろ姿を、私は見えなくなるまで眼で追いかけた。

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