「久米も外科専攻だろう。合コン全滅という、ある意味凄い數字を記録したんだからさ、世界的なレベルを誇る香川教授の手技でも見學すれば良いと思うんだが。

あれほどの腕前の人がウチの病院に來てくれただけで凄くラッキーだから、醫師になる前にじっくりと見ておく方が良いんじゃないか？

そりゃさ、心臓外科を専攻しているとはいえさ、久米は実家の外科クリニックを継ぐのは確定事項なんだろう……。だったら、心臓に拘らずに骨折とか１０針以下の合とかそういう患者さんがメインになるとは思う。けどさ、やっぱり世界レベルの手技が折角公開されているなんて恵まれた場所に所屬しているのだから、見ていた方が良いんじゃね？」

合コンに殆んど出席していた同級生に「どうすればモテるか？」という俺のとっては凄く深刻な話題を振ったにも関わらず、なんかうやむやにされた気はしたものの、それも一理あるな……と思ってしまった。

実家は一応外科がメインの診斷科目だが、科も診るという典型的な「街のお醫者さん」だ。

だから、専攻は外科でも科でも構わないと父親に言われて――患者さんは出大學しかチェックしないらしかった――カッコ良さそうな外科を選んだというある意味不純な機だった。

ドラマでも科醫よりも外科醫の方が良く取り上げられているし。

醫學部のカリキュラムは當時、死ぬかと思っていた高校の時よりもハードだったし、それ以外にもレポートとか小テストまで有って合コンの時間を捻出するのも大変だったが、全敗という結果を踏まえると、その時間を世界レベルの手の見學に當てた方が良いのではないかと思った。

それに、手をモニター越しで見學させてくれる教授というのは今のところ香川教授だけだった。――ウワサによれば全部の手技を畫像で殘しているらしい――。真偽のほどは定かではないものの、いわゆるガンの悪新生科では執刀醫が「表向き」は教授で実際は教授も尾を丸めるほどの実力のある「手室の悪魔」とか呼ばれている先生が執刀していると聞いている。

世界最先端の手技を覗いてみようという軽い気持ちでモニタールームにった瞬間雷にでも打たれたような気になった。

その手技の繊細さと大膽さが小川のように、そして滝のような流麗さで流れている場面を見てしまって。

「どうしてああいうふうに華麗で緻な手技を披出來るのか」

そう思うと、講義室で見せられた歴代教授の――しかも厳選された――手技など子供の遊びと等しいような気がする。

これは合コンなんて積極的に出ている場合ではない。

香川教授の手技の方がよほど魅的だった。どんな子大生よりも見る価値がある上に、世界レベルの心臓外科醫の手技に魅られたようになって外科醫にしては細い指が――良く誤解されるが、外科醫の指は細い人の方が珍しい。力を要求されるので俺が見た外科醫の先生はどちらかと言えば指は太いじだった――淀みなく、しかも力強くいている。

香川教授はきっと指の力が強いのだろう。細い指というある意味ハンディキャップをものともせずに手技に沒頭しているじだった。

気が付くと、モニターではなくて、ガラスの仕切りに――といっても一階分の高さが有るが――顔を引っ付けるじで見てしまっていた。

あの神々しい空間の中に俺もりたい。

合コンなんてどうでも良い。

その二つが頭の中をぐるぐると回っていた。