キラキラした笑みを田中先生に見せていた――それだけ信頼しているのだろう、部下として――香川教授は、オレの視線に気付いたじで、一瞬だけ戸ったような変な間が空いた後に、憐悧かつ理知的なじの強い普段の表に戻った。

田中先生はＰＣに視線を向けていたので気が付かないじだったが。

「ああ、そろそろ時間ですね。久米先生、これから宜しくお願いします。

手スタッフにもって貰う予定なので、救急救命室とも併せて頑張ってください」

先程の変な一瞬が無かったじで香川教授自らがそう言って下さったことに心の底からしつつ、ペコンとお辭儀をした。嬉しさの余り言葉が出て來なかったので。

「手スタッフは純粋に実力主義です。教授の高過ぎるお眼鏡に適わなければ次からは名簿に名前が載っていないという悲劇に見舞われたくなければ頑張ってくださいね」

田中先生がオレにではなくて何だか自分に言い聞かせるようなじで言ってくれた。

あのキラキラした空気の中に――と言っても教授と田中先生だけで醸し出しているような気はしたが――自分も混じることが出來るかと思うとの引き締まる思いと共に嬉しさがこみ上げてきた。

「はい、頑張ります。救急救命室はいつから勤務ですか？」

単純な疑問に思って聞いただけなのに、田中先生は驚いたような表を浮かべている。

「黒木準教授が『適正有り』との太鼓判を押しただけのことは有るようですね。

何時からでも結構ですが。それに職場の雰囲気にまずは慣れてからの方が良いような気もしますが」

香川教授も手室に下りていく積りなのか執務デスクの橫に立って田中先生と並んでいた。

二人とも背筋がびていたし、何よりも手を前にした張なのか凜としたじで佇んでいるのは――お二人ともなまじ容姿が整っているだけに――絵のようなじだった、もしくは思いっきり化した醫療ドラマや映畫とかのスチール寫真か何かのようだ。

「最初は力的にもキツいかとも思いますが……今夜は私も救急救命室勤務なのでご一緒しましょうか。

局一日目というか、社會人一日目と言った方が正確かもしれませんが、そういう気の張っている時に事をスタートさせる方が良いかと思います」

香川外科の激務さというのは――ただ、教授も醫局員一人一人のことを良く見ているじで、無理なことは振ってこないらしい――有名だったし、早く慣れて戦力になりたい気の方が強かった。

「私は今夜からでお願いします。えっと鉄は熱いうちに打てとか言いますよね。

その気持ちで頑張りたいと思います。

救急救命室の方はよりいっそう自信がないので、田中先生宜しくお願いします」

就職祝いで――正式のはもう済んだものの――普段以上に手の込んだ料理を作って待ってくれているお母さんには悪いけれど、早く一人前の外科醫になることの方がより親孝行になるだろう。

そんな気持ちで頭を下げた。

それが。