「ハイヒールを履いたがどのように歩き辛いかを――多分久米先生は験しないと分からないタイプだと思いますので、実際に履いて歩いてみることを強くお勧めします」

冗談だと思いたい、思いたいが田中先生は悪戯っ子のように瞳を輝かせている上に何だか確信に満ちた口調だった。ハイヒールが直ぐにでも手出來そうなじの。

「セブンに行って來ます！！」

ハイヒールを履くなんていう験はしたくない。いや、足が細くて特に足首が折れそうなほど華奢なが履いているのを見るのは――といってもオレが見るのは主に二次元のものすごく可い、いわゆる萌えキャラだ――大好きだったもののあくまでそれは観賞用だ。

「だ・か・ら！ゆっくり歩く練習をしろと言っているだろうが！田中先生が」

柏木先生のダメ出しの聲が――今夜何回されたかも覚えていない――容赦なく飛んでくる。

「私は醫局に一旦戻りますね。サイレンが聞こえたら、即座に戻って來ますので良いですか？」

田中先生の可笑しそうな聲が追い打ちをかけるように背中に刺さったじだった。

醫局にハイヒール？

その組み合わせも全くもってナゾだったが。

「ああ、それは大丈夫だ。田中先生の聴覚の良さは犬並みだからな……」

柏木先生がそんなことを言っているのを背中で聞いて（ゆっくり歩く！ゆっくり歩く！）と自分に言い聞かせながら歩いた。

職業的慣れというのは恐ろしいもので、局一日目に香川教授の執務室で晝食での歓迎をけた時に比べると格段に歩くのも早くなっている。

それに、醫局や救急救命室でも「出來る範囲」が増えていくにつれて、とんでもないミスは――なくとも職務上は――犯していない。

それに醫局で――指導醫として田中先生が付いてくれているものの――擔當の患者さんには「孫のようだ」と目を細めて可がって貰っている。主治醫として同席している田中先生は実年齢で一歳上なだけなのに、ベテランの風格すら漂わせているのは流石だった。

セブンイレブンの店にると、既に顔馴染になった店員さんが――この人も夜勤のシフトにしかっていないじだった――笑顔で迎えてくれた。

真っ先におでんコーナーに行って、田中先生と柏木先生の「お遣い」の注文をしようとしたら、牛スジとかロールキャベツが目に飛び込んでくる。

そしておでんの鍋（？）のごく近くにはハッシュポテトやコロッケ類が――お母さんのコロッケの方が手は込んでいると主張していたが、オレ的にはこちらの方が新鮮なじもするし好きだった――充実のラインナップでぎっちりと並んでいる。

「えっと、は別でお願いします。

こっちには牛スジとロールキャベツを三つずつ、おつゆは大目でお願いします」

それと。