「あのう、これを履いてこけたら……。裝趣味まで疑われますよね。オタク趣味は自覚していますが、それに裝趣味の濡れまで著せられるのは嫌ですっ！！」

必死に言い募って何とか逃れようとした。

「久米先生、唐揚げを口から飛ばさないでくれないか？汚いし、こちらの食まで減退する……。せっかくの休憩時間が臺無しだ」

柏木先生がワザとらしいじで眉を顰めているが、頬が嬉しそうにいているのを見逃すオレではない。

「大丈夫ですよ。転倒しかけたらきちんとけ止めます。私の反神経の良さはご存知でしょう。

それに、柏木先生だって、私ほどではありませんが見事な反神経の持ち主です。二人が満を持して控えていますので、絶対に大丈夫です」

田中先生の反神経の良さは、確かに素晴らしい。臺の上に置いてあったタブレットが、杉田師長が思いっきりぶつかった振で落ちたかと思うと空中でけ止めたという武勇伝の持ち主だ。

「いや、お二人の反神経の良さは素晴らしいと知っています……。

あ、オレの重をこのシンデレラもびっくりの華奢な靴が支えきれずに壊してしまったらどうするんですか？研修醫の薄給では絶対に弁償出來ませんよっ！！」

田中先生が口角をキュッと上げて皮な笑みを浮かべている。

「長岡先生の金銭に関しての鷹揚さをご存知ないのですか？

専門書を部屋の中から探すのが面倒だからという理由だけで、數冊買ってしまうほどです。そして『要らないから』と私に下さいましたよ。ざっと２０冊くらい……。

この靴が幾らするかは存じませんが、書店で５萬円以上する科の専門書を２０冊もポンとくれるなので、微々たる金額でしょう、きっと。だから壊してしまっても笑って許してくれるでしょう。本當に大切にしているならば病院の個室に置きっぱなしにしないでしょうし」

口の達者さも田中先生には敵わない。ただ、長岡先生がお金持ちかつそれほどに執著がないのはオレも知っている。

一度、科醫の見解を聞きたくて相談に伺った時に要點を書いた付箋紙を、その一枚だけではなくて一塊貰った。そしてそこにはお母さんもして止まないフランスの老舗かつ高級ブランドのロゴが――何をトチ狂ってこんなものを商品化したのかはナゾだ――。

殘りをお母さんに上げたら「これ、一セット５千円よ！」と凄く喜んでくれた。

いや、その件はもうどうでも良い。

「えと、これ素足で履くんですよね。オレは水蟲持ちですし、伝染りますよ？」

水蟲持ちなのは――緒にしていたが――本當だ。田中先生は更に可笑しそうなじで片頬を上げている。

「爪ですよね？患部は。その他にそのような癥狀は見當たりませんでした。久米先生が仮眠中に確かめたので確かです。そのサンダルのような靴を共有したって大丈夫です」

げっ！いつ確かめられたのだろう。全く記憶にない。というか、いくらプライバシーの概念の無い救急救命室の控室で睡していたオレの検査までされていたとは。

まあ、暇を持て余した田中先生は々なイタズラを仕掛けてくるのは知っていたけれど。

うう！！萬事窮す！！だ。