「田中先生の彼さんを、師長はご覧になったことが有るのですか？」

普段なら、畏れ多いこともあって――雲の上の人という意味では香川教授の方が遙かに上だが、育會系気質の人間が多い外科なのに、教授は溫和で冷靜なので聲を荒げたこととはなかったし、それどころか怒った表すら見たことがないのでその意味では怖くない。

ただ、手スタッフに向いていないと判斷されると、名簿に載らなくなるのでそっちの恐怖は有るが――杉田師長とこんな會話をわすことはなかったが、こんな細いヒールを履くという恐怖の験をしでも先に引きばすためと、謎のベールで包まれた田中先生の彼のことが知りたいという好奇心が抑えきれずに聞いてしまった。

「ええ、それはあるわね……」

田中先生は珍しく――オレの見間違いでなければ――何となく怯えたじというか息を殺したような眼差しで杉田師長を見ていた。

「どんなですか？滅茶苦茶目のえた田中先生が大好きになるほど綺麗な人なのですよね？」

杉田師長はどことなく可笑しそうなじに頬を緩めている。

「そうねぇ。綺麗で上品でスタイルも良い上に博識で……そしての起伏が殆んどない――ああ、この辺りは私とはゼンゼン違うわね――ウチの主人も絶賛するような素敵な人だわね」

容赦ない突っ込みをれることでも有名な杉田師長すらもそんな風にじるというのはさぞかし素晴らしいのだろう。

何でも、男とでは見る目が異なるというか、男に好かれているが、同に嫌われている場合も割と有るらしいのは知っていた。

それなのに田中先生の彼さんは、同の杉田師長にも、そして病院長用達の弁護士さんでもあるご主人にも絶賛されているらしい。

柏木先生も田中先生の彼についてはオレと同じ程度しか知っていないので、杉田師長の言葉を興味深そうに黙って聞いていた。

「いや、人の人を褒めても……何も出ませんよ。

それに、久米先生は話しを逸らして姑息な時間稼ぎを企んであわよくば救急搬送にぶつかってしいとか思ってそうですよね」

どこか安堵したじの田中先生は容赦なく話を元に戻してきた。

「ほら、片方ずつ履いて下さい。萬が一に――いや、久米先生の場合、確率はケタが異なるほど高いような気もしますが――備えて肩は貸しますので、摑まって履いて下さい。

そうそう、良いじですね」

恐る恐るハイヒールだかピンヒールだかのサンダルに足をれてみた。両手は田中先生の肩にしっかりと摑まったまま。

すると。