《転生しているヒマはねぇ!》29話 分魂と魂
「さて、話は変わりますが、王子の死後でござんす。
病死と発表された王子の死に対して、國民からは、多くの悼む聲があがりやした。
しかしですな。國に混を呼んでいる様子はまったくないんでござんすよ。王子の警護についていた三人の異種族の英雄は、それぞれの集落へと戻りましたし、庭園で飼われていた魔獣は野に解き放たれたでござんす」
早いな。まだ、葬儀もやってなかったろうに。
「お茶の最中に、突然死んだんだよな。警護の連中は目の前で死なれた訳だろ?
なにも聲をあげなかったのか、これは暗殺だ、謀だとかさ」
「ウチの記者の話では、なかったようでござんすよ。しかも、帰らされたのではなく、自ら速やかに城を出たと、魔獣にいたっても、どうやら勝手にいなくなっていたようですな。
まぁ、王國側としても、ソレイユ王子がいないのに居座られても困ったでしょうから、自分たちの方から出て行ってくれて安心しとるんじゃござんせんか?」
妙だな。オレとマーシャが視察に行った時には、護衛も魔獣も、王子に心酔している様子だった。
目の前で突然死なれたら、取りして、騒のひとつでも起こしていると思ったが……。
「とにかく、王子の死後、國、國外共に混が起きている様子はありやせん。
ダイチさんの最初の寄稿は、王子の死はどんな意味をもっていたのかについて、明後日の夜8時迄に書いて頂きやす。そのあとは毎日、夜の8時迄に書き上げた原稿を、ウチに持って來てほしいでござんす」
「わかった」
「ありがとうございやす。ダイチさん、もうこんな時間でござんす。どうです、あっしの家で夕飯を食べていかれやせんか? 房たちにも是非會わせたい。長い付き合いになるでございましょうからな」
今、さりげなく凄いこと言いませんでした?
「房……たち?」
「そうでござんす。あっしには5人おりやす。
なにせ、この冥界、自分の変化を恐れるものばかりでござんすからな。他者の影響が強まる『結魂』を、しかも複數できるような、しぶとくて好きな魂は、片手で足りる程しかいないでござんす。だから、あっしのような変わり者でも、以外にモテるでござんすよ。
ダイチさんは、こちらに來て日が淺いからまだですが、あなた程の方なら、そのうち、求されまくるんじゃござんせんか?」
……ない! ない、ない、ない! 騙されるもんか!
「実はもう、房たちには、連絡して、準備させているでござんすよ。
子供たちは、全員獨立して、家にはおりませんがね。ほとんどが現界の転生を繰り返しとるはずでござんすから、今、なにをしてるかわかりゃしませんし、あっちもあっしらのことは覚えておりませんがな。まぁ、あっしの子供ですから、消滅はしとらんでしょう」
ノラ様が豪快にお笑いになられた。
もう、眩しくってまともに見てられないでござんすよ。
「あ、しまったな。ひとりだけ、冥界で生活しとる変わり者の娘がいるんでござんすが、あいつを呼んどきゃ良かった。
今度、改めて紹介いたしやすんで、是非とも嫁のひとりにしてやっておくんなさい」
いらないもん! そんなおけいらないもん!
ボクにはアイシスさんという希があるもん!!
み、みんなの希だけど……。
結局、いを斷りきることはできず、ノラ宅でご馳走になった。
ノラの房たちは、皆アラサーの気ムンムンの仮をしていた。
ノラ、恐るべし!
部屋に著いたのは、夜の10時を過ぎていた。
オレは早速、寄稿するための原稿に取り掛かった。事前にマーシャから了解を得ていたから、本來王子のにる魂が自分であったことも書きつつ、王子の死に関する自分の見解を記述した。
魂れ替えに関與した者が、この記事の載る新聞を見て、なんらかのアクションを、起こしてくれる事にも、若干の期待を込めている。
原稿を書き終え、戸締まりと目覚まし時計の設定をチェックし、電気を消してベッドに潛り込む。
今頃、アイシスに送ったケルベロスは、彼に抱かれて眠りについている頃だろうか?
クソーッ! 変わりてぇ!
とんだところでハーレムを見せつけらてしまったせいか、願と妄想がルンバを躍りだし、オレの頭から出ていってくれない。
それでも、なんとか眠ろうときつく瞼を閉じる。
「でかしたぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「わぁぁぁぉぁぁぁっ!!!」
小さな怪が、いきなり、オレのマウントを奪い、ぶ。
オレも負けじ? とび返すが、煩くなっただけで効果はない。
隣の部屋との壁は、それほど厚くないというのに、これだけ騒いでも、壁ドンどころか靜まりかえっている。どれだけ騒と関わりたくないのだろうか。まぁ、気持ちはわかるがな。
「オレ、鍵かけてたよな?」
オレのマウントをとり、満足そうなマーシャに尋ねる。
「ハッハッハッ。あの程度の障害で、儂の歩みを阻めはせぬ。し強めに押してやったら、たいした抵抗もなく開きおったわ!」
「テメェ!」
「安心せい! 我が力をもって、すでに直してやったわ!」
そういう問題じゃねぇわ!!
「……もういい。なにしに來た?」
コイツに常識を學ばせるのが、無理なのを思い出したオレは、さっさとコイツの要件を終わらせて帰らせる方向に舵をきった。
「アイシスのことに決まっておろうが。お前を譽めてやろうと思っての。アイシスの仮が若返っておったのには、ちと驚いたが、奴め、休む前以上の活力で働いておったわ」
マーシャがニヤリと笑って話を続ける。
「しかも、お前の事をやたらと譽めておったから、惚れたかとからかってやったら、頬を赤らめて俯きおったわ!
うまいことやりおって♪」
マ、マジっすか!?
「それで、尾はしたのか?」
ブッ!!!
「バッ、馬鹿かお前は! オレはアイシスを勵ましたんだよ!」
「なんじゃ? しとらんのか? おかしいのう。母の本では、男がをめる時には、必ず尾しておったんじゃが……」
「母の本?」
「うむ! 母は偉大なる小説家じゃ。本屋に行ってみい。普通に売っておるぞ。確か、能コーナーという所にあったはずじゃ。オススメは『マリン、男の深海に潛る』じゃな。ちなみにマリンというのが母の名じゃ」
自分の名前使ってんのかよ!
「懐かしいのぉ。あれは、儂が生まれてから、1萬年くらいじゃったかな。父が泣いて懇願しておった。赤々なのはやめてくれとな」
ドキュメンタリーかよ! というか自分の両親の事本抵抗なく読んでんじゃねぇよ! 冥界の魂、歪みまくりだな、おい!
マーシャが、ベッドから降りて、椅子に腰掛ける。
「しかし、そうか。しておらなんだか。ナマの話が聞けるかと楽しみにしておったのだがのう。
儂は長いこと存在しとるが、尾の経験はなくてのう。
1分以上、落ち込んだことがないのでな」
ああ、そうでしょうとも。
「儂は、冥界でも數ない魂で生まれた魂だというのに、上手くいかんもんじゃな」
魂で生まれた? 
オレはベッドからを起こし、マーシャに尋ねてみた。
「あのさ、魂ってどうやって増えるもんなの? これって仮のだろ?
その・・・行為しても、現界のみたいになる訳じゃないよな?」
「おお、知らんかったか。
冥界で魂が増える方法は大きく分けて2つ。分魂と魂じゃ。
基本は分魂じゃな。現界に送る魂が不足しておったり、に適した魂が見つからなかった際等に、冥界の原初の魂、マタイラでいうとお祖父様じゃな、その魂が、魂のほんの一部を分ける形で誕生する。
確か資料では、お前は50年くらい前に、チキュウの冥主から分魂されて生まれていたぞ」
へぇ〜。
「もうひとつが魂じゃ。冥界でも數える程しか例がない。2つの魂の結魂が先に必要じゃからな。
儂が知る限り、儂と母の他の子供。それから、ノラノラリのガキどもだけじゃな」
「え、え〜と、やっぱり尾すんのか?」
なんでオレの方が恥ずかしがってんだ!
「仮を使う場合はな。ほれ、現界の雄が出す……子だったか?
アレの替わりに雄役が雌役に自分の魂魄の一部を送り、雌役がそれを自分の魂魄の一部と混ぜ合わせて、ポンと出すんじゃ。
正直、魂のままの方が簡単じゃな。互いの一部を重ね合わせて、ポンと出すんじゃ」
「ポンですか」
「ポンじゃ」
ジュースかよと突っ込む気力は湧かなかった。
違う事を考えてしまったからだ。
「アイツは、どうやって生まれたんだろうな」
「アイツ? ……ソレイユか?」
頷く。
アイツは、オレの代わりに、記憶を消された上で、現界へ送られ、オレが見つかったと思ったら、を殺されて、冥界に呼び戻された。
アイツ自が畫策したことじゃなかったら、完全に道扱いじゃないか!
そんなことの為に、生まれて來た訳じゃないだろうに……。
……ムカつく。
生前に出會った上司を思い出す。
使える奴、使えない奴、そう言って部下を分けていた。
オレはあんたに使われるために生まれたんじゃねぇ!
オレは道じゃない!
使えない道だから、終活に臨んだんじゃない!
世界がオレを見限ったんじゃない!
オレが世界を見限ったんだ!
「……マーシャ、頼みがある」
「ん? 良いぞ。アイシスの件がある。褒じゃ。なんでも申せ」
マーシャの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「ソレイユと二人っきりで話がしたいんだ。できればこの後すぐに」
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