「ダイチ、無事？ 仕事中に倒れたと聞いた」

仕事が終わり、居住界の繁華街り口前で待っていてくれたラヴァーさんが、相変わらず抑揚のない話し方で、心配してくれる。

この人の場合、言葉は額面通りにけ取って問題ない。

「ええ。こうやって、ラヴァーさんが聲をかけてくれるだけで、魂魄がしずつ回復していくのをじます。

生前、人との流を避け、一人で生きているつもりでした。

……甘かった！　私は自分でわかっていないだけで、多くの人に存在を支えられていたのです！」

毎朝、挨拶をしてくれた暇そうなおじいちゃん、ありがとう！

こっちが、急いでいる時でも、世間話をしようしたおばちゃん、ありがとう！

こっちを見もしないで、無言でレジ打ちしてくれたおにいちゃん、ありがとう！

死んでから、オレの心の聲を聞いてくれてる人達、本當にありがとう！

完全無視じゃなくてよかった！

……本當によかっ……た！

「……泣くな、ダイチ。

よくわからないが、ダイチは今日良い経験を積むことができたのだろう。

冥界ではとても貴重。経験を積めても、そのことに気づけない魂も非常に多い。

経験できて、それに気づくことができて、本當に良かった。

……祝福」

ラブァーさんは、オレの頭を抱き寄せ、背中の白い翼を広げ、涙を流すオレを周囲から覆い隠してくれた。

しばらくして、オレの涙が止まると、オレを離してスタスタと歩き出す。

「そろそろ時間。

個室を予約してある」

切り替えハヤッ！

置いていかれても困るので、オレは慌ててついていく。

ラヴァーさんに連れていかれたのは、繁華街の外れの地上3階建て雑居ビルの地下だった。

店の名は『カヴェル』

マタイラ現界の共有語では『旅』を意味していたはず。

店の中は、とても穏やかな雰囲気だった。

派手なライティングはなく、BGMとして小川の流れる音が採用されている。

置かれている椅子やテーブル等の備品、カウンターの作りまで、派手さではなく落ち著きをイメージさせるシックなモノだった。

タキシードを著た三本角老紳士の店員さんが、ラヴァーに慇懃な態度で話しかけてくる。

「お待ちしておりました、オーナー。

いつものお部屋をご用意させて頂いております」

「了解」

ラヴァーさんは短く答えると、店の一番奧の部屋へとオレを案する。

部屋はとてもシンプルだった。

丸テーブルと4腳の椅子。壁には服をかけるハンガーのみ。

オレとラヴァーさんは向かい合って席につく。

「ここに招待したのは、ダイチが初めて。

マーシャ様や書課のメンバーは、皆でワイワイする方が好き。

でも、天國界、地獄界、裁斷界の要職につく魂が、よく利用する高級店。

転生界だと、運営省の副大臣が常連」

なるほど、明らかに靜かな雰囲気を楽しめる大人向けの店ってじだもんな。

マーシャなんかは雰囲気ぶち壊しだろうな。

「料理はコースを選択済。

マタイラと界かいこうのある57世界の料理が數品ずつ、量出てくる。

ただし、食材はマタイラのモノ。味等に多の違いあり。

でも、味は保証。シェフは全員、マーシャ料理學校主席卒業者」

……マーシャ料理學校だと⁉

アイツ、本當に食に対してはやたら熱心だな。

「普段、チキュウの料理はフランス、イタリアが基本。

今日はダイチのことを説明。

主任シェフが、ニホンのモノを用意すると張り切っていた。

……楽しみ」

「へぇー。それは嬉しいですね。「い〜と魔鬼魔鬼」とかで、酒のつまみなんかは、故郷に近いもの出てきますけど、それ以外はないですからね」

「酒も57世界分出てくる」

それは楽しみだな。

しかし、すごく気になるのは……お値段です。

けないが、基本的には小心者なので、気になって仕方ない。

原稿料もあるから、それなりの収はり始めたが……。

本日は互いの不安解消の為の會合なので、不安を魂魄の中にしまわずに直接聞いてみることにした。

「……でも、お高いんでしょ」

ラヴァーさんがはっきりと頷く。

そこは、本日は特別価格とか言ってしかった！

「ダイチの今の収で、個人的に來るのは止めた方が良い。

今日は、私がダイチとここで食事をしたかった。

だから、私がご馳走する。

私とダイチの月の収は2桁は違う。

気にする必要は一切ない。

それでも、気になるなら、以前も頼んだ新事業への協力を再度要請。

的な協力容を、今度資料にまとめて渡す。真剣に検討を希」

「りょ、了解」

「謝」

ラヴァーさんが、らかい笑みを見せる。

これまで、表を変えるところをほとんど見たことがなかったから、とても可らしく見えた。