《転生しているヒマはねぇ!》46話 結魂
「ダイチ。冥界には、菌やウイルスは存在していない。
よって汚いというには値しない。
……だが、見た目的に良くない」
オレの吹き出した料理を、顔と眼鏡でけ止めたラヴァーさんが冷靜に仰った。
「す、すいません! でも、ラヴァーさんがとんでもない冗談を言うから……」
「冗談ではない。本気。二人の結魂は、二人にとってメリットが大きい。當然、主はダイチ。私が従」
顔より先に眼鏡を拭きながらそんなことを言う。
「いや、いや、いや!」
「嫌々ではない。私はダイチを好ましく思っている」
いやがひとつ減ってます!
「ダイチは、前々世の親友に似ている。
私の好奇心をとても刺激する」
「……え~と、座右の銘の?」
「そう。魂の別はたぶん違う。
彼の魂を見たことはない。でもきっと、魂も。
思えば、彼も複數の異と、神的・的に関係を持っていた。
英雄を好む」
持ってません! 複數との関係なんて持ってません! 今のところ。
あ、いや。これからも、もつ予定はございません!
「もしかして、アイシスよりも先に私と結魂することに抵抗がある?
それならば、明日にでもアイシスに結魂を申し込めば良い。
ダイチは、アイシスがマーシャ様を優先すると思っているようだが、私の見立ては違う。
アイシスはきっとダイチを優先する」
ようやく顔を拭きながら言葉を続ける。
「アイシスの直力はすごい。
正解に到るまでのプロセスを全て無視しても、本能で正解にたどり著く。
ダイチと関係を深めることが、自分だけではなく、冥界の為になると気づいたに違いない」
ラヴァーさんは、新たに運ばれてきた50世界目の酒をグイッとあおる。
「私とアイシスの次は、チェリーが良いだろう。
楽しいことを優先する魂。連れ回していれば、いずれ深い仲になる。
レイラも攻略は難しくない。
プライベートで、マーシャ様より甘やかしていれば、すぐになつく。
マーシャ様は、いかに彼を大人にするかがポイント。
ダイチとは気が合う。大人になってしまえば、攻略は難しくない。
問題はプルル。角へのこだわりが異常。ダイチのことを一人の男ではなく、一本の角として見ている。いかにして、ダイチ自に意識を向けさせるかが勝負。
次に―――」
「ストーップ!! ラヴァーさん、ストーップ!!」
オレは店の雰囲気お構いなしに大聲をあげて、饒舌マシーンと化したラヴァーさんを止めた。
「どうした、ダイチ? 私の戦略に不備でも?」
「不備もなにも、戦略やら攻略やら、オレはハーレム作りの為に冥界にいる訳じゃないですよ!
損得で、結婚やをするつもりもありません!」
俺がそう宣言すると、ラヴァーさんは顔を真っ青にして、おもむろに自の顔を叩いた。
眼鏡がパキッと音をたてて折れ、顔から落ちる。
ラヴァーさんの度がさらにあがった。
「……すま……ない。すまない、ダイチ。
AI時代からの悪い癖。
計畫や計算に夢中になり、魂の大事な部分を置き去りにしてしまう。
『男の仲は、損得では計りきれないのよ』だった」
おそらく、親友さんの言葉なのだろう。
ラヴァーさんは、しきりに頷いている。
「……ダイチは、現界の結婚と、冥界の結魂の違いはわかっている?」
「へ? なにか違うんですか? 現界の様式を真似してるんじゃないんですか?」
「否。冥界の結魂とは、2つの魂の一部を結合すること。
主と従を取り決め、従は主の運命共同になる替わりに、魂魄の保護、及び能力の補完をける。
主は従から永遠の忠誠と能力の補完をける替わりに、魂魄への負荷が増大する」
「魂魄の保護と負荷?」
「そう。保護は解りやすく言うと、磨耗、消滅といった魂魄変異をある程度抑える。つまり、仮の老化が軽減される。
負荷の増大とは、魂魄の磨耗、消滅、崩壊の原因となる、怒り、悲しみ、喜びを代表とするエネルギーを、自分の分だけでなく、従の分まで背負うことになるということ。
これはかなりの負擔。これまで結魂した主で、一年以上崩壊しなかったのは、わずかに2例。
マリン先生とノラのみ。前者は億年以上、後者は千年以上平然と冥活している。
しかも、この二人は複數との結魂をしている。
いかに頑健な魂魄をしているかがわかる」
「えっと……オレは崩壊コースの気が……」
ラヴァーさんは、そんなことはないと首を振る。
「ダイチは、二人ほど強い魂ではない。
ただし、他者の仮に好影響を與えるほど、保護力が強い。保護力の強さはエネルギーの安定に直結。
さらに冥界よりも、刺激の強い現界の経験者。
大きなエネルギーに免疫がある。
二人よりも好條件が揃っている」
「いや、でもですよ! 運命共同ってことは、オレが耐えられなかったら、ラヴァーさんも崩壊しちゃうってことでしょう!」
「肯定。だからこそ、従は主にそれだけの価値をじていなければ結魂しない。
私は、どういう結果になっても後悔しないくらいに、ダイチに好を持っている」
が火照る
ラヴァーさんの言葉に噓がないのがわかるから、自分にそこまでの価値があると思えないから、何とも言えないが魂魄に湧き起こる。
この仮にまで広がる熱いモノを、なにか別のモノのせいにしたくて、オレは52世界目の酒を口にする。
「何より私は、ダイチの子供を産んでみたい」
「ブッ‼」
ラヴァーさんの端整な顔に、今度は酒が派手にかかる。
「……ダイチ。ここは、酒をかけるよりも、口移しで飲ませてくれるべき」
表をまったく変えずに大膽なことを仰る。
「魂は、結魂しなければ出來ない。
先に魂を混ぜ合わせる場所を確保しなければならないからだ。
私はだからこそダイチと結魂したい。
の結晶は、まさに命懸け。
アイシスも本當は、結魂して魂をしたいと思っている。
言い出せないのは、自ではなく、ダイチにもしものことがあったら耐えられないから」
命をかけても、オレとの子供がしい……。
まさか、そんな言葉を聞く日が來るなんて……。
……しかも、死んでから。
「……考えさせてもらっても良いですか。
そんな風に言ってもらえて、本當に嬉しいです。
オレもラヴァーさんには好意を抱いています。
ただ、アイシスのことも本當に好きなんです。
ラヴァーさんは……その重魂? に抵抗はないみたいですけど、オレは前の世界の結婚と冥界の結魂を別に見ることは出來ないから……。
でも、今すぐ二人のどちらか選ぶのも、オレには難易度が高くて」
「了承。ゆっくり考えてくれ。
結魂する相手が増えれば、ダイチにかかる負擔も増える。
悔いのない選択を」
ラヴァーさんが優しく微笑むと同時に、ウェイターが殘りの世界の料理と酒を運んで來た。
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