《転生しているヒマはねぇ!》47話 乙
『迷いの森』
マタイラ現界南東、正方形のような形のメリーヴァズ大陸中央部に位置する、世界樹を中心とする大森林。その一畫にある噂好きの妖たちが住まう森。
霧深いこの地域では、常に誰かの話し聲がするという。
道を進んでみても、森を抜けることはない。
聲を頼りに進めば、2度と戻ることは葉わない。
「本當に、ここで待っていれば良いんですか?」
オレの服の裾を摑んでいるソレイユが不安そうに尋ねてくる。
「ああ。特殊インクで手に描いてもらったこの魔方陣さえあれば、向こうが勝手に見つけてくれるってさ。
つうか、この霧の中でこの森を歩いたら、帰れなくなるぞ。
しっかりと摑んでろよ。はぐれたら笑えないぞ」
ラヴァーさんから、プロポーズをけた翌日、オレは休日であることを利用し、ソレイユを連れて冥界新聞社の転移魔方陣から、現界の迷いの森へと移し、妖姫シャーロに會いに來ていた。
もちろん、本人には事前連絡はしてある。
飛んできた転移魔方陣は森の中にあるうえに、周囲は霧だらけで、移をするのは危険だ。ここで大人しくしている他はない。
シャーロも、迎えに行くから、待っててと言っていたから、それがベストだろう。
「は、はい。でも、良いんですか? 役所の仕事でもないのに、現界に來ても?」
「大丈夫よ。今のあたしたちは、冥界新聞社の臨時社員だもの。転生役所なんてくそ喰らえよ! 
さぁ、摑むわよ!! 最高のスクープを!」
「……あー、ソレイユ君。とりあえず、オレの顔に張りついてるコレを叩き落としてくれるかね」
「はい。わかりました」
「ふぎゃ!」
オレの指示に素直に従ったソレイユによって、地面に叩きつけられたシャーロの背中をオレは容赦なく踏みつける。
「おはよう。シャーロ君。
相手と出會ったら、まずは挨拶からではないかね。
それともなにかね? 君ら妖の挨拶は、相手の顔に張りつくことだとでも言うのかね 」 
アイシス仕込みの挨拶徹底戦略を敢行してやる。
「ごめんなさい! ごめんなさい! おはようございますーっ。たぶんもうしませんから、許してください!」
「良いだろう。お前が絶対にと言ったところで、改善できるとは思わないからな。今日のところは、これで勘弁してやろう。
次に同じ事をしたらなにをされるか、楽しみにしておけ」
オレの足から解放されたシャーロは、フワリと浮いてソレイユの肩に乗った。
「アタシ、今日からメモを取る習慣をつけるわ」
「それがいいと思いますよ」
げんなりして言うシャーロに、ソレイユは苦笑で応じる。
「初めまして。ソレイユと言います。
貴が迷いの森の妖姫シャーロ様ですね」
「そうよ! 仲良くしてねっつーか、仲良くしろ!」
肩の上で、偉そうにしているシャーロを、ソレイユは微笑ましそうに眺めている。
「でも、ダイチひどい。あたしを騙すなんて」
シャーロがソレイユの肩で立ったまま、小さな頬を膨らませる。
「は? オレがいつお前を騙したよ?」
「だって! 通話でソレイユは男だって言ってた!
こんなに綺麗なの子なのに!」
ああ。まあ見間違えるよな。初めて會えば。
「気持ちはわかるが、そいつは王子様だったんだよ」
「知ってるわよ、そんなの。ハイエルフに、ソレイユ王子ってのが、あんたらの預言の日に生まれたらしいって噂流したの、あたし達だし。
でも、こうして會ったら、魂はの子じゃん」
「へ?」
驚いて、ソレイユを見る。ソレイユが目を逸らす。
シャーロはソレイユの肩から飛び立ち、オレの足下に飛んでくると、ズボンの左足の裾から中にり込んできた。
「ウヒャヒャヒャヒャヒャ! こ、こら! やめろ! くすぐったい!」
魔方陣の影響で仮の覚が、現界のと変わらない狀態になっている。懐かしい覚だ。
あっ! シャーロの奴! 間まで上がって來やがった!
「おっふぉう」
久しぶりの愚息への刺激に、思わず変な聲をあげてしまう。
シャーロは、腰の引けたオレの右足の裾から出ていく。
「てめぇっ!」
怒りをあらわにするオレを完全にスルーし、今度はソレイユの左足の裾にり込む。
「ダ、ダメッ!」
ソレイユが慌てて太ももの付け辺りを押さえるが、シャーロは巧みにお側に回り込み、おのの辺りからなぞるように
正面に移する。
「アッ! アン! ダメェ〜!」
……ソレイユさんがあまりにっぽく、オレの愚息が反応する。
シャーロを応援する言葉が、元までせりあがってきたが、音になる前に、なんとか呑み込んだ。
「ほら! やっぱり噓だった!」
ソレイユの右足の裾から飛び出したシャーロが、開口一番そう言った。
「大きなモノはおろか、ダイチみたいな末なモノさえないよ!」
オレのは末じゃない。
ただ、そんなことよりも大事なことがある。
「えっと、ソレイユさん。説明をお願いしても?」
ソレイユは顔を赤くしたまま、俯いてしまった。
代わりにシャーロがオレをなだめにかかる。
「まあ、まあ。癡話喧嘩の続きは、広場でお願い。
みんな楽しみにしてるから 」
「おばちゃんの集まりか!」
相変わらず、人の話を聞かないシャーロが、天高く人差し指を掲げる。
指から暖かなが広がり、周囲から霧を押し退けていく。
霧が晴れた時、そこはもう、切り開かれた村の中だった。
周囲から沸き上がる歓聲が、オレたちを出迎えた。
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