《転生しているヒマはねぇ!》72話 酢豆
両開きの扉が大きく開かれたり口から、北神カソドス、南神コントラクトゥスを先頭に、神々が次々に神界大評議場に場してくる。
北神と南神は、壇上に続く中央の下り階段を先頭の傍聴席まで競い會うようにして下りてくる。
ほぼ同時に最下段に來ると、ちらりと互いを見やり「フン」と仲良く鼻をならして左右に別れ、オレから見て左端に北神、右端に南神が座った。
この間の流會では、なかなかのコンビネーションを見せていた二人だが、やはり報告書通り、仲が良いと言うわけではないようだ。
アレだな。アレ。強敵と書いて友と呼ぶヤツ。
ただ、コイツらの競い合いは他種族を巻き込むからな。
まっ、現界で起きる事象については基本的にノータッチだから、気にしない。
あくまで目的は冥界と現界の関係改善と、オレの捜査に協力してくれる味方を見つけることの2點だからな。
他の神々たちも次々に席に著いていく。
想像よりも參加してくれている神が多い。
ざっと見たじだが、こちらから連絡が取れなかった神々も、半數以上は參加してくれてるんじゃないか?
大評議場の隅を通って、ソレイユが壇上に上がってくる。
今回の最高責任者であるラヴァーの前に、參加者名簿を置く。
「開始前の付を終了しました。現存する神族137魂中125魂が參加者名簿に記帳してくれております。遅れて來る可能もありますので、引き続き職員2名を付にて待機させております」
それにしても、ソレイユはこういう仕事が板についてきたな。
もう補佐というより書だな。
ぶっちゃけ、アイシスよりもそれっぽい。
アイシスはどちらかというと、実行部隊隊長ってじだからな。
ラヴァーへの報告を済ませたソレイユは、ススッとオレの側に來て耳打ちする。
「風神ウェントスが出席しています」
「え 」
てっきり、參加してこないかと思ったが……。
となると、ノラとの接は天使プリサの獨斷であった可能も浮上してくるな。
説明會終了後に、話してみっか。
「こちらから見て、左側最上段右から2番目。キコゲの頭をしているのがそうです」
「キコゲ?」
「あ、鳥です。高山に生息する食の大型鳥魔獣です」
魔獣でも、竜型、鳥型、魚型、蟲型、樹型はそれぞれ取り扱う部署が魔獣部ではない。
今のところ擔當していない部署に該當していない生の名前はさっぱりだ。ソレイユは凄いな。
いた。アレか。風神ウェントス。
顔は鳥だけどはヒトだな。上半で筋ムキッムキだ。
ただ、纏ってる空気というか、にめた魂はとても穏やかに見える。アレなら充分に対話出來そうだな。
「ありがとう、ソレイユ。オレ的には、マトモなヤツにじるんだけど、君の印象は?」
「たまたま私が付をしたのですが、とても穏やかな印象です。
一方的に自分の都合だけを押しつけるような傲慢な神とは思えません」
「そっか。わかった。ありがとう」
ソレイユはどういたしましてと微笑み、壇上を下り、傍聴席側の側壁の前に他の職員と一緒に立ち並ぶ。
オレは、神々全てが著席したのを確認し、ラヴァーとシャンセ係長を見やる。
二人が頷く。
オレはおもむろに席を立ち、マーシャから託された大きめの巻を手に、壇上の中央に描かれた拡聲魔方陣の上に立つ。
一禮し、一度傍聴席全てを見回してから、真っ直ぐ前を見て口を開く。
「世界を見守る神々の皆様、本日は冥界の転生役所が主宰致します、冥界説明會にご參加くださり誠にありがとうございます。
お集まり頂いた皆様の半數以上は、冥界とはなんぞや、魔界とは違うのかといった疑問が多數おありになるでしょう。
それらの疑問に答えていく前に、皆様に、特に冥界側から不當な扱いをけてこられた神の皆様に、転生役所所長マーシャより、謝罪の品を預かっております。
こちらです!」
巻の紐をほどき、巻を高く持ち上げる。
広がった巻から力の奔流が迸る!
吹き飛ばされそうになったオレは、腰を落とし、足を前後に広げ全力で耐える。
クソッ!
溢れ出してるのは魔力か!?
マーシャの奴、いったい何のつもりでこんなものを?
まさか、この魔力、神々を攻撃してねーだろうな!
そんなオレの不安を煽るかのように、巻が魔力を全て吐き出すと、傍聴席からすすり泣きが聞こえてくる。
しかし、続いて聞こえてきた北神の聲は、そんな不安を完全に払拭するものだった。
「なんと、なんと慈に満ちた魔力なのだ!」
「我らと比べにならん程の強き魂が、ここまで謝罪の気持ちを示してくれるとは……」
おお!
南神までもが、にうち震えた聲をだしている。
二人に発されたのか、他の神々も口々にの気持ちを涙ながらに発していく。事がわからぬ神でさえ、もらい泣きしている程だ。
やるじゃないか、マーシャ!
言葉ではなく、魔力で謝罪するなんて!
オレは、役目を終えた巻を巻き直そうとした。
アレ?
何か書かれてるな。てっきり白紙かと思ったが。
確認すると大きく日本語で『すまめ』と書かれていた。
3子魂が誕生してから、マーシャはしょっちゅう家に遊びに來るが、その時に故郷のことを何でもいいから教えろと言うから、3子魂と一緒に平仮名を教えてやったんだ。
だが、あの自分の世界の常識さえ満足に覚えられぬ奴が、まさかこの短期間で平仮名をマスターするとは!
でも、『すまめ』ってなんだろう?
酢豆?
アイツのことだから食いなんだろうが、何でこれに書いたんだろう?
まっ、いいか。役にたったから。
しかし、ホントに食い意地が張ってるな、アイツは。
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