《転生しているヒマはねぇ!》84話 仮の不思議
「とりあえずは、地獄界長にご挨拶してもらうでござんすよ。アチキについて來ておくんなさい」
を翻しスタスタと歩きだす。フサフサの九尾のシッポが俺をするように揺れる。
うわー、ギュって抱きしめてー。シッポだけな!
「もうダイちゃん。なんなのさ、そのだらしない顔は。アタシのシッポにはそんな反応しないじゃないのさ」
カレンの後ろを追いながらチェリーが呆れ半分で不平を言ってくる。
大丈夫です、チェリーさん。貴の最大の魅力はです!
その想いは口にせず、先を行く二人について行きながら疑問を口にする。
「でもさー、本當に仮ってどうきまるんだろうな。オレは現世の時の姿をちょっと若返らせて、ツノ生やしただけなんだけど。魂に影響をけるとは聞いてるんだけど、なんかそればっかりって気もしないんだよな~」
「アタシは現世でもツノあったからね。現世で悪魔やってた時とまったくかわらないのさ。ただツノは全ての仮についているみたいだよ。一見ないように見える仮も、髪ので隠れているだけさ」
「アチキは生まれも育ちも冥界でござんすよ。だから影響をうけるとしたら両親でござんすが、どっちも現界で生きたことはないでござんすよ。ただアチキに仮をつけたのはパパでござんすからね。パパの趣味がちっとはっているかもしれやせんね」
振り向かずのカレンの言葉は、俺には初耳だった。
「あー、仮ってマーシャが必ずつけるってわけじゃないんだ」
オレも一度レイラさんにつけてもらっているから、マーシャ以外にも仮をつけられる魂がいるのは知ってたけど、ルールかなにかでマーシャがつけるもんだと思ってた。
「冥界で働いている魂のほとんどは、冥界神様の分魂で生まれてるからね。真っ直ぐに働き先の冥界に送られるんだけどさ。たいていはそこの責任者がつけることになってんのさ。まあ慣習さね。決まっているわけじゃないんだよ」
「あー、そうなんだ」
「そうさ。各界の長はみんな古い魂だからね。魔力の扱いに長けているのさ」
「魔力の扱いか……じゃあもしかしてチェリーも?」
「キャハ♪ さすがダイちゃん。勘が鋭いのさ。でも結構作るの難しいからね。他にできるのは、レイラさんとアベラの姐さんぐらじゃないかね~」
アベラの姐さん? ああ、居住界の四代表のボンキュボーンか。
それにしてもウチの嫁さんたちじゃダメなんだな。魂の強さとはまた別ってことなのがか。
「ちなみにアタシは、死んですぐにスカウトされたのがここだからね。仮をつけてくれたのは地獄界長のアダイブ様さ」
「古い魂のひとつか。あれ、マーシャの親父さんだっけ?」
「それは裁斷界長のシバキ様でござんすな。一番古い魂はもちろん冥主様でござんすが、冥主様が一番最初に分魂でお産みになった魂がシバキ様でござんすよ。続いて天國界のジュエル様、アダイブ様、マリン様、マーシャ様と続きやす」
「最古十魂でマーシャ様だけが魂でお生まれになってるのさ。マーシャ様の弟妹は、レイラさん含めて皆しばらくあとらしいからね」
ほお。魂に歴史ありか。現界創ったのがマーシャの母ちゃんという話だったから、その最古十魂てのは、全員うん十億歳は越えてるってことか。とんでもねえな。
「著いたでござんすよ」
無機質な濃紺の廊下を延々と歩いてきた俺たちが、案されたどり著いたのは、木製っぽい茶の両開きの扉の前だった。
「はぁ~。アダイブ様は魅力的な方だからね~。ダイちゃんが惚れちゃわないか心配だよ」
な、なんですと! このける持ちのチェリーさんが魅力的と語る魂。興味あるな!
「かいちょ~、連れて來たでござんすよ~」
扉の前でそうぶなり、ノックもせずに扉を開け放つ。
「は~い。いらっしゃ~い♪ 初めましてダイちゃん。お久しぶりねチェリーちゃん♪」
マーシャも使っている革張りの黒イスから立ち上がってオレたちを出迎えたのは、スキンヘッドの相撲取りのような格のオッサンだった。
オッサンだよね? 化粧塗りたくった顔は40くらいのおばちゃんに、頑張れば見えなくもなかったが、聲が野太すぎる。おまけにスキンヘッドには茨の冠をかぶっているかのような細くて鋭いツノがクルリと取り巻いている。
はっきり言って、いますぐにでも逃げ出したい。ヤバいおっさんにしか見えん。というか仮は魂に引っ張られるんだろ? どっちだよ? コイツ!
「あら~ん? 常識には囚われない魂って聞いてたけど、そんなこともないのかしらん? 男でもでもない第三のがあってもいいじゃない? ウフ♪」
うお! もしかして心読まれた? マーシャでもだいたいのしか読み取れんのに。
「こう見えてもマーシャちゃんより年上だからね。冥力は使えないけれど、眼力には自信あるのよ」
「安心してください。どう見ても年上です」
「なんだってー!」
読まれるのならいっそ正直に言ってしまえと、言い放った言葉に、さも今気づきましたと言わんばかりに驚いて見せる。そのふくよかな腹が津波のようにタプンタプン揺れる。
「いい度してるじゃない。気にったわ」
そう言ってオレを抱きしめる。そのふくよかな腹にオレのが沈む。
お、おおう。意外に腹が心地よい! 確かにこの腹には惚れそうだ!
「ンフ♪ アチシにすると火傷するわよ」
オレを解放して今度はチェリーに向き直る。
「おかえり、チェリーちゃん」
今度はチェリーをハグしてみせる。俺よりも深くチェリーが腹に沈む。
「ただいまなのさ、ママ・・」
親のこもった聲でチェリーがそう答えると、アダイブママは微笑み、その額に優しく口づけた。
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