《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》02.隣の席が空いているのですが……?
「教室」、まだ住み慣れていない空間に滯在するというのは人間苦労してしまうのは仕方のないことなのだが、一見生活している環境に似ているとここまで気が楽なのか。
俺の席は名前の順では教卓に近い一番前の席だったが運良くも誰かの掛け聲というか、納得しないヤジが飛んだためにすぐさま席替えをした。
そしてこの場に辿り著いた。前からなんと一番最後尾、しかも外を覗ける窓がすぐ左にある。
ヲタクの観點からしても左端一番後ろというのはラノベやアニメでよく見るポジションで何となく他の生徒よりも優越があるのは俺だけだろうかと思案しつつ、
「眺めも良し、後ろもOK。そしてこれが重要だ」
背負ってきたリュックから小さめのパソコンを取り出す、それは傍はたから見れば學生がよく使用するいわゆる電子辭書というものなのだが、俺のはワープロ機能が搭載されたタイピング機だ。
そのまま機に、ではなくその下引き出しに収まるのか簡単に調べてみた。
「おっ、るな。なら問題ない」
問題が一つ解決したと一安心し、取り出したパソコンを先生に見つからないように機の下で移しリュックに戻した。
そうしているうちに一時間目のチャイムも鳴り終わり、高校生活初めての休み時間が始まった。
俺はまるで何かの語の主人公にりきるように外を眺め、黃昏たそがれている。しかしただ余韻に浸っているだけではなくて今後の執筆のネタをこれでも考えているつもりなのだ。
「よっ、元気か」
そんな中俺の癒しのような獨りの時間を消滅に至らしめるのはきまってこいつだ。
「元気も何も席がここだからな、気分がいい」
「こんのやろうーー。元はと言えば俺が真っ先に先生のもとに言って頼んだんだぞ」
「そんな因果応報みたいな考え方、古いぞ坂本」
俺の隣の橫の機に寄り掛かる顔の男は坂本卓也。こいつとは中學からの同期でそれ以外はいない。だから高校に學して早々話すことも出來たのはこの男だけだったのだ。
「うるせえやい」
彼はどうやらさっきまでの印象深いシーンを頭に思い浮かべたのか、思いついたように話題をふってきた。
「そういえばさ、マガトは何部にるんだよ?」
マガトは彼が勝手に付けた名前だ。
どうやら曲谷と呼ぶには長すぎるがトオルとも呼びづらいようで曲谷のマガとトオルのトを合わせたのだ。もはやすでに俺の名前ではないが。
「いきなり來てそれか……忙しい奴だな。そう言う坂本はどこにるんだよ」
彼はを張りながら答えた。
「ふふふ。驚くなよ、俺は軽音楽部だ!」
「んで?」
「おおおい、リアクションはそれだけかよ!もっとこう、高校生デビューじゃんすげーーとか、お前楽弾けるのかよとか驚きはないのか、驚きは!」
俺はそれならばとよりクールに問う。
「ならお前楽弾けたっけ?」
「弾けない」
「なんだよ」
「なんだよってなんだよ!良いだろ、初心者歓迎って紙にも書いてあったし」
どこの部活でも書いてあるだろう、そんな文句。わざわざ経験者求むなんて書いてあったら部員が集まらなくなって部活どころか廃部になるぞ。
「あーはいはい、ならやってみればいいんじゃないか。は試しだ、失敗するのもいい経験だ」
「なんて投げやりな……っておい!なんで俺が失敗する前提なんだよ」
俺は頬杖を突きながら外の風景を眺める、校庭がすぐそこに広がりその向こうには畑、田が互にある。
俺はそのさらに先にある新幹線へと目を向けるが、彼がそれを打ち消した。
「俺のことばっか話してるけどよ、お前はどうなんだ?そんなに俺を打ちのめすんじゃあ、きっとさぞ経験富な部活にってんだろ?」
「文蕓部だ」
「は?なんでそんなところ?さっきだってあんな話だったろ」
さっきとは恐らくあの紹介のことを指しているんだろうか。これだから表面的にしか見ない奴は好きになれないんだ。
とは言ってもこの部活を選んだのは単に「楽で仕事がはかどる」からなのだが。
「まあな、『事実は小説より奇なり』だ。俺だって何処に行こうか迷ったけどよ、これでも真面目に決めたんだよ」
彼には小説を書いているなんてことは一度も口にしたことはない。
確かに知り合いに作品が知れ渡ることが恥ずかしいとじる一面もあるが、それよりも自分は隠れた小説家なんだといういわゆる一種の優越に浸りたいという方が大きい。
「はいよ。まあよく分かんねえが頑張れよ」
「お前もな」
「あっ、あとこの席の人は今日休みか?」
休み時間も終えようとした際に彼が寄りかかっていた席についての話を持ち掛けてきた。
「そうだなー、席替えの時もいなかったらしいから多分休みじゃないか?」
では席替えはどうしたのかと言われればクラスのリーダー的存在の人が勝手に移し配置していた。だから隣には人がいないということを言えるのだ。
「おおー、よかった。俺がいたから席に戻れなかったとか言われたらめんどくさいからよ」
ほっと一安心したようにをでおろした彼に追い詰めるように言った。
「なら、ここに集まるなよ」
「まあまあそう冷たいこと言うなって」
そうして彼は元の席に戻っていった。
ぼっちを極める俺にとっては厄介なターゲットだが恨むような存在でもないので何とも言えない複雑な関係だ。
まあどっちにしろ、クラス行事などの連絡は彼からのものばかりなのでそれは謝するが。
相変わらず右隣の席は空白のままだった。
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