《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》026.思わぬ偶然とは恐ろしいのですが……?
俺の高校の理事長、すなわち高校のトップを擔っていると言っても過言ではないその人は水無月という何処かで聞き覚えのある名であるらしい。如月桜だと思ってそう呼んでいた人の本當の氏。
なるほどそういうことか、俺がこの部活に部することも、あのクラスに割り振られたのもすべて仕組まれていたってことなのか。なら尚更どうして俺に拘こだわるのか訊かなくては。
まず第一に、
「俺とその水無月って人に因果か何かはあるんでしょうか?過去に俺がその人と會ったことがあるとか」
「んーー知らないね、そんなの聞いたことない」
なら第二だ。
「俺って何か悪いことでも、責任とるようなことでもしましたかね?」
「そんなの自分自が一番よく知っているんじゃないかあ?」
何を訊いても恐らくたぶらかされて終わるような話し方だ。無論、この人の格上の問題もあるしそこまで當てにはしていないが、念のためだ。最後に一つだけ訊くことにした。
第三に、
「その人は水無月桜と関係はあるのですか?」
掛依は一度目をつむり、片目を開けた。まるで道化師のような目付き、ピエロのような口ぶりで、
「そうだヨ、d(-_^)good!!」
と真実なのかそうでないかよく分からない答え方をした。本當に頼りないというか使えない人である。
――キャラメルマキアートマカダミアナッツソーダフロートフラペチーノ到著――
「それ食べるんですか…………」
普通のいわゆる一般的なキャラメルマキアートとはカフェラテの上にバニラソースを乗せ、トッピングのようにキャラメルソースをかけるものだ。だがこれは違う、もはや別に近い。
「おう、そうだともーー!」
イエーイじゃないですよ先生。が食べられる量ではないと言いたいところだが、止めておこう、自粛というものだ。
全長80㎝はあるだろうか、座っている掛依の背丈を超えているほどの生クリームの量。二層に分かれた巨大パフェは上はソーダクリームフロート、下はキャラメルマキアートというじだ。
水と油で二層に分かれているわけでもなく(そもそもどちらも水なので)、ではどのようにして二層に分かれているのかというと、
「おっ、なんだこりゃ。クラッカーか何かか?」
ソーダフロートの下、すなわち層の間にはいクッキーが敷き詰められているようだ。だが、実際にやってみれば分かると思うが、そんなもので土臺にならないわけで、
「なんだよ。これ外れんじゃねーか」
なるほど、取り外し可能な明カップで分離出來るらしい。食べる本人こそは今までの期待が崩されたと言わんばかりの言葉をため息じりに吐いたのだが、俺としては面白い趣向だと思う。
とまあ食レポに近い仕草を頭でしていてもきりがなさそうなので、俺はクリームを頬張りながら「むふふ」とく目の前の人に訊くことにした。
「んで、理事長と同じ名字ってことは水無月は親子なんですよね?」
そもそも水無月という名字はあまり聞いたことがない珍しい名前だ。確証は絶対ではないのだが確率は高い方だろうという何とも不安定な予想。
「せーーいかい。ってこれ味いな」
的中。ならば、とさらに追い打ちをかけたかったのだが…………
「ならどうして俺なんかがそいつら親子関係に介しなきゃならないんです?」
クリームを乗せたスプーンを俺の方に突き付けて、
「だーーかーーら、俺は分かんないっての。もう分かるだろ?俺とあいつは馬が合わないしそもそもあまり話さない、だから察・し・ろ・ってんだ」
察する、言い換えれば空気を読むということだ。
大人數の中での話の流れを壊さないという暗黙のルールは孤島の中で生きた俺にとって全くといっていいほど無関係。今になってそれが必須事項とは、高校とは本當に面倒なものだ。
「あとよ、廃部ってあいつは言ってたが、俺なら廃部にはならないようにはできると思うんだが…………乗るか?」
この裏の顔を見る限り、背後に何・か・があるには違いない。やはり俺の想像通りではないかと考えつつ、しかし賭け事にはリスクが付きだ、俺は腹を決めて答えた。
「お願いします…………」
ここで何の由縁も、謝もない部活に対してどうして庇うのかといえば、
「お前には作業できる場所がしいんだよな?」
俺の作業執筆を理解している、あるいは分かっているような口ぶりでし引けを取ったが、
「だって記事を推敲するなら靜かな場所の方がいいだろ?図書室はすぐに閉館になるだろうし、自習室は勉強以外は使えないしな」
どうやら違うようで俺はひとまず安心した。そもそも…………
「やっぱこの喫茶店の料理は味いな、何を頼んでも正解ばっかじゃねーーか」
ソーダを目いっぱい口に含み両頬が膨らんでいる、冬眠に備えるリスみたいな人に俺のを知っているはずがないだろう。そんな気がした。
「じゃあ、先に帰ります」
アイスコーヒーを飲み終えて空になったグラスを橫にずらしてから俺は席を立とうとするのだが、
「いやいやいやいや気付いていない振りはやめようよーー?」
「何のことですか?」なんてしらばっくれようと思ったが、その畫策もとうに気付かれているらしい。
「廃部にしない代わりにさーーーー」
目線を橫にずらすと、おもむろに機の端に置いてある伝票を俺に向けて言ってきた。
「これ、割り勘にして~~」
「男子高校生のお財布事って知ってますか?」
「んーー知らないなあ、私の子だからわかんないっ」
「てへっ」と再びおどけて見せたのだが、なるほどこの人は著があるような玩ではなくハイエナだ。俺は雑に財布から千円札を差し出してから、「教師失格っすよ、それ」と誰かに似た毒舌を吐いて席を立った。
そして今日一日のスケジュールからようやく解放されたと安堵しながら、喫茶店の出口に差し掛かった時だった。
「まさか仕事せずにデートとは呑気なものね。まあお似合いかもしれないわ、応援してあげる。がーんーばーれ」
俺を背後から呼び留めたのは裏表激しい教師ではなく、気で何にでも顔を突っ込むでも無かった。
「何でここにいるんだ…………?」
額を汗だくにしながら絞り出した言葉はまるで事件現場を見られた犯人のものだ。いや、俺は何も罪なんて犯していないんですけど。
「それはこちらの臺詞よ、私は仕事があるのだと言わなかったかしら?」
テーブルの上には注文したであろうホットコーヒー、そのすぐ橫に印刷された原稿用紙數百枚が置かれていて、それは俺が書いたような文章ではなかった。
「………………もういいかしら、これから話し合うのだから帰ってもらえる?」
呆然とその場で言葉も発さず立ち盡くす俺は傍から見ればどうも奇妙な人なのだろう。だが、黙って立っているから何か話しかけようなどという安直な理由ではなく、俺は話しかけなくてはならない、そう何処かでじた。
すると俺の絞り出そうとする言葉を遮るように、
「おーーーーい如月センセーー!」
間延びした聲掛けが遠方から聞こえた。
「ん?この人は誰だい?誰?」
聲の主はどうやら中央エレベーターから駆けてきたようで、汗でったスーツを著ている。スーツ姿で真面目そうな雰囲気を醸し出しながらも、喋り出すと別人に切り替わる、そんなだった。
「まさか…………早苗月俺のペンネーム先生ですか??ですか?」
「私はナイトレーベル文庫編集部、明嵜和音めいさきかずねでっす!!」
どこを向いているのか分からないで敬禮をする姿を見る限り…………
なるほど、これは良い意味で別人に切り替わるわけではないようだ。
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