《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》037.違和しかないデート
現在時刻午前10時頃、雲一つなき晴天の下でただ一人、俺は盛田駅の改札前にいた。もっと詳細に言うならば土曜の午前9時55分だ。
どうしてこんなところにいるのか、そんな疑問が湧くと思うので言っておこう、つまり神無月と待ち合わせしているのだ。
そもそも神無月が「次の土曜にインタビューしてくるよ」なんて言い始めたのがきっかけであるが、まさか俺まで高校周辺のネタを集めることに徹するとは想定外だ。
しかも水無月に「なら私は一人で高校の記事を作っておくわ」などと言われ、俺の居場所はここに確定してしまった次第である。なんともまあ、使い勝手が荒い。
面倒な事だと知っていて始めたことだ。仕方がないとは思うが、まさかアクティブな方を任されるとは……まあ、神無月だけにも任せるのは気が引けるし……
と今現在この場で立ち盡くしている理由を考えていると、待ちわびた當の本人のお出ましのようだ。
「おっまたせーー!!いえーーい✌」と普段通りの挨拶を俺に向けてきたので、「お、おう」と俺も応じる。
ちょっと待ていっ……今、今日初めて思ったが、そういえばプライベートで子と出かけたことなんて何年ぶりだ?
いや待て、それはカウントしない方がいいんじゃないか。
俺がそんな自分の黒歴史(10話見てね)を回想していると、何も知らない神無月は、「どうしたのーー?」と俺のうずくまる顔を覗きこもうとしてきたので、「コホン」と何事もなかったかのように気を取り直した。
「何でもない。しばかり記憶の混があっただけだ」
「本當に大丈夫?平気?どっかで休む?」
休んだら余計混というか、嫌な記憶まで掘り下げしまいそうなので貓背になっていた背筋をばそうとする。
「調は萬全、余計な心配をかけて悪かったな……」
「なら早く行こうよ!『人生とは今日1日』、今日楽しまずにいつ楽しむの?ほらっほら」
 
神無月は腕をピンとばして手を差し出してきたので、俺は指先にれると、突如トラックに引きずられるかのように腕が引っ張られる。
「じゃあ、行こう!!」
普通だったら俺がリードすべきなんだろうなと思いつつも、仮に水月だったら即刻「噓よ、羽蟲とどうやって手を繋ぐのよ」なんて言っただろうな……
とはいうものの、駅前に連れていかれたのだが、何処へ行くべきだろうか。
タクシーや送迎のバスがごった返す駅前、駅にったり出たりする人々の群れの中に俺と神無月がいる。
明確な理由なしに駅に集合としてしまったので行き場所も決まっていない。なので駅前の地図に歩み寄ることにした。
「ここらへんで行く場所といえば……」と神無月。それに乗じるように俺はとある場所を指差した。
「この辺なんていいんじゃないか?」
俺が提案したのは市が経営する植園だった。
(空白)
植園、といっても評判では簡易型と言われているのだが……なるほど、そう言われるのが分かる。面積は標準的な一軒家が6つぐらいあるかないかで、簡単に言えばし大きい公園だ。
ビルの中に明なガラスで囲まれたその場所は異様と言えば異様で、都市にある自然を現化したようなじだ。
なるほど、これが人工的に作られた自然ということか、なんてSFチックな小説のネタが生まれるのではないかと考えてしまう。
「ここが、植園かあ、ほんっとうに緑ばかりだね♪」
場券を購し、リズムよくステップしながら口へ向かう神無月。なんと楽しそうなのか、俺はそのテンションについていけない。
「植園だから緑があるのは當たり前だろーーよ」
そのせいだろう、俺はなんとつまらない男なのか、ありふれた當たり前のことを言ってしまう。だから俺は自分が使った言葉を後悔したのだが……
「そうだよねっ、だって植園なのに青とか多かったら水族館のイメージだし」
顎に手をつけながら「なるほど~」と納得しているような表の神無月。やはり俺には彼の意向が全く追い付けない、これは俺のせいなのか、そうでないのか、悩みどころである。
ま、そんなことを気にせずに自分の仕事を取り組むことにした、すなわち記事に取りれる容である。
「こんなのはどうだ?」
俺が指したのは淡い桃で彩られた小ぶりの花だった。
「おっ、『県の花、サクラソウ』だってーー、いいんじゃない?一応公立だし、県のシンボル=高校のシンボルだよ」
し無理がありそうな気もするが……まあ念のために傍にある説明書きの寫真を撮っておくことにした。
「サクラソウかあ、こんなハート形の花びらで本當に綺麗だね、しかも國の記念だって」
一枚一枚、用に創られた花びらの形は、どこから見ても清廉で、しいというよりも麗しいという方が適している。
そんな花の容姿を全から眺めては、花びらだけに著目するなど、様々な方向から眺める神無月。
「次、行かないか?」と俺が言う頃には園して20分ほど経過していたのだが……、ここでまた彼の意外に驚かされた。
「ちょっと待って、あとしだけ、しだけ時間しい」
と、これまでにないほどの集中力で花一點眺める神無月の姿は高校で見られるものでは絶対になかった。
それからというものの、様々な植を観察してはじっと眺める神無月と共に過ごしていった。
あるときは「見てみてーー」と俺を呼びつけたと思いきや、ガーベラというキク科の植がの部分で「へにゃあ」と曲がっているところを見せつけて、「これ曲谷みたいっ」なんて笑いながら言われたり。
またある時は「この実味しそう」とサクランボに似た木ヒヨドリジョウゴを指差したと思いきや、毒の植だったりと、突っ込み要素満載だった。
それでもやはり、殊に一つの植を見ると最低10分かけて観察するのは変わらなかった。どういうわけか、じっくりと眺め、それでいて「なるほど」と頷く行為を何度も繰り返していた。
そうやってとうとう最後の植、つまるところ最も端に置かれた植を観察する時のことだ。
「やっとここまで來たねっ、最後の花は何だ?( ,,`・ω・´)ンンン?」
「そうだな、最後の花なら大層なモンじゃない……か?」
俺はどんな狀況だとしても語尾が途切れ途切れになってしまっただろう、それは至極當然かのようで、俺ではない別人でもこんな境遇に至ったら絶対的にそうなる自信がある。
目の前に立ち止まっている、いや立ち盡くしている神無月は何かに取りつかれたかのように茫然としていた。
そして俺は彼の目線の先にある植の説明書きを見た時、どうして良いか分からなかった。
ーーアカネーー
向日葵のように派手な、大きさの花弁で彩られたわけでなく、ヒガンバナのように特徴的な花でもない。背丈が低く、縦橫無盡に駆け巡る細いツル、そして小指の先ほどの淡い白の花。
さらに言えば彼自の名前の由來ともなった花だった。しかし神無月は何も言わず、それといって嬉しいような悲しいような表を見せずに突っ立っている。
何というか、俺からしたら複・雑・であるとしか表からは読み取れなかった。何かが絡みついて、自分でも何を思っているのか、思考がふさがっているようなのようだったのだ。
そんな思いつめた彼に俺が話しかけようとした瞬間だった。
「お、おい……どうしたん……」
彼は消えかかった意識を取り戻したかのように「あっ」と聲を出してから、俺の方向に向いて、
「ごめんごめん、ちょっと気が抜けちゃってね。でももういいよ、これで平気!」
何が平気なのか、俺は知りたい、そんな好奇心があったが彼は隠したい思いがあったようなのでそっとしておくことにした。
何故だろうか、あの説明書きにその原因が書かれているのだろうか、俺はそんなことさえも不躾に想像してしまった。
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