その後の俺と神無月は運命的なのか、どういうわけか當事者の俺にとっては分かるはずもないが、例のハプニングばかり起こる喫茶店に來店することになった。

ハプニング、それは俺ならばという何とも自分勝手なものではあるが、例えばの話だ。

掛依真珠のケースはどうだろうか、いきなり初対面の教師と面を向かって話さなければならない狀況、しかも教師ではなく俺が奢・る・という始末（そこまでに持っているわけではないが）。

その後は、まさか俺の擔當編集者の擔當編集者と出會うことになるという、まるでの繋がっていない親戚の集まりが形された。

なんて信じられる訳がないのだが、これもまた事実。そうけれるしかない。

とまあ、こんな展開が繰り広げられるような場所であるわけで、今俺と神無月が対面している席の中、何かが起こるフラグを立たせてしまったのである。

俺は「何か飲むか？」と席に座って早々口にすると、神無月も場に合わせたような口調で「じゃあ……アイスココアで」と応答した。

あの一件プラネタリウムを後ずさっているようなのか、どこか重苦しい表、雰囲気、いわゆるオーラを醸し出していた。

「はあーー、疲れた。なんとか記事になるようなネタは見つかったんじゃないか？」

俺は手元にあるスマートフォンで今さっき訪れた植園、プラネタリウムに関してメモをとった文を確認する。

ただ行って観てきましたーーなんて言ったら、あの編集者水無月に合わせる顔が無い、というか殺されそうだ。

「んーー」と口ごもる神無月。何か不満があるのだろうか、頭を捻ってクエスチョンマークを頭上に浮かべる。

「え……と、つまりはこの辺にコンビニはあんまりないってことだよね？」

「おーーーーい、そりゃいつの話だよ。記憶がタイムトラベルしてるぞ」

「ん、じゃあ。掛依先生と何を話してたの～？」

「過去に遡っただと……！？」

「あはは」とお腹を押さえながら笑う神無月。なるほど、こういうのも別に悪くはないな。

「記事って言うと新聞に書くためのネタ、言い換えればこの街全を解き明かすカ・ギ、だよね？」

「最後の方はよく分からんが、まあ大まかそうだな。新聞の容についてだ」

と、俺は回った植園やプラネタリウムやらに関するメモが寫るスマートフォンを神無月に見せようとしたのだが。

神無月の手がそれを制した。

「いやいや、それはもういいよ！！結局全部片が付くことだろうし、今、君が見せようとしているモノ、だって分かってるよっ」

「何を……」と口ごもる俺をどことなく、眉をひそめたような表で神無月は見てきた。

「何を……じゃないよーー。ね、曲谷って知ってるかな？自分が飼ってるペットの話」

「知らんな」

「仕方ないなあ、この私に免じて今一度教えて差し上げましょう」と、偉そうな人が演説するような口ぶりで話し始めた。

「私たちってさ、ペットを飼ってるつ・も・り・でしょ？自分の子供のように餌をあげて長しているのを見屆けてあげる、なんて上から目線なのが、私たち飼育者」

「でもねーー、違うですよ。これがまたなんと、私たちは飼っているのではなく飼わされているんだ、ってね。分かる？？」

俺は沈黙、というか黙る他選択肢はなかっただろう。「ねえ聞いてる？」という疑問の聲を「ああ」と一言で一蹴する。

「飼ってるんじゃなくて飼わされてる、管理されているってこと」

「つまり、何が言いたいんだ？」

俺は沈黙からの解放と共に疑問を投げてやると、

「だから、私を見ているなら、私もその人を見ているってことだよ。君さ、植園に來た時もプラネタリウムに行った時もそうだけど、ずっと私のことを見てたよね？」

「ギクッ」

「『ギクッ』じゃないよ、気付いてないとでも思ったの？そんな鈍じゃありませんよーーだ」

べーー、と舌を出しながら小悪魔気取りをする神無月、ショートヘアがそれを助長するかのよう。

「私じゃなかったら、ただの変人扱いされてもおかしくはないよ～～」

「……どういうことだ？」

俺の無粋な問いにどうしてか、神無月は顔面を赤く火照らすと、「うるさいっ、それ以上訊くなーー」と不貞腐れた。し経つと、何事もなかったかのように「コホン」と咳ばらいをしてから続けた。

「つまりは、曲谷が新聞記事のことをメモしていることを知っているってこと」

「それで、どうして記事が作れる自信がそんなに溢れかえってるんだ？」

「？そんなこと分からないの？？」

「それ」と指差したのは俺のスマートフォン。

「これがどうした？」

「君が書いたメモ、そのまま記事にしちゃえばいいじゃん」

この時の俺は何を思っていたのか、それともただ考えずに言葉を発していただけなのか。

獨り言以上怒號未満の聲調で、

「こいつはァァァァァァ」

と、それはそれはこの店でもうしわけない雄びをあげてしまった。とまあ俺が言った當の本人神無月は初めて知らん顔だったが。

自分のことだと気づいたと思いきや、

「てへっ」とぶりっ子を裝った。

止めなさい、そんなキャラではないでしょうが。

そんな中の突っ込みを知るわけもなく、神無月は口を開いた。

「だって……私文を書くこと苦手だし、なんか曲谷ならできそうかなって思ってたら案の定、スマホいじってたから『コレイケルッ』てさ」

「コレイケル……じゃないわァァ、じゃあ何もしていないってことなのか？」

「失敬な」と顔をしかめっ面にしながら答えた。

「そんなことあるわけないでしょーーう。私だってやることはやったよ？」

ごそごそとポケットからスマートフォンを取り出すや否や、「ほらっ」と見せつけたのは緑ばかり連なる寫真フォルダだった。

「寫真だな……うん」

すると、どことなくただならぬ雰囲気、というか張が現れる。それは神無月から生まれていた。

「笑わないでいてくれる？」と、俺の顔の下から覗くように訊いてくるこの。あざとすぎるにも程があるだろう。

俺は「笑わない」と答えると「ほんとう？」と訊いてくるので、「本當だ」と応えた。

まったく本當に、何を取っても分からないものだ。

「この寫真を使って記事の絵を描こうと思うの、寫真だけだと人間味なさそうだし、見てる人もあまり親近湧かないかなってさ」

「曲谷はどう思う？」

「どう思うって言われてもな……いいんじゃないか？水無月にも話はしたんだろ？」

もじもじと悶々とする神無月。なるほど、していないのか。

「分かった、それは後に話せばいいが、良かった、描く気になったんだな」

不意に口にしてはならない言葉ランキング上位に達するワードを言ったためなのか、「ウエッ」とどこから発しているのか分からない返答をした。

「ま、まあそんなじかな……何も曲谷が言ったからする気になったわけではないけどねっ」

「いつからそんなツンデレキャラになったんだ……ま、いいがな」

「そういえばさ！なんで私が絵描きになったのか知らないよね？」

「あ、ああ」と後ずさりながら応じる俺、それもそうだろう、いきなり自分の過去を語り始めるなんてことはそうはない。

「どうせ、私が絵描きって知ってるなら曲谷にも教えるよ」

これは一、どんなストーリーなのか、それとも誰かが意図的に仕組んだ結果の産なのか。

「私はねーーーー」

「とある小説家の人の作品のイラストを描くために絵描きになったんだよ」

「その小説家ってのは？」

別に俺はというと、そこまで知りたいとは思ってもいなかった。ただ、この場に來ているのなら、というなんとも賭けに徹した姿勢に近い。

「それはね…………」

そう次の言葉を発する剎那、俺はじた。

これも何かの因果なのだと。

「早苗月先生って言うんだよっ」