《俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。》128.重くかつ吸い込まれるような吐息 Game4
そうこうするうちに放課後となった。
學して早々クラス中の噂話の格好の的となった僕は四方八方から話しかけられ、忌避されとそりゃあ面倒なことだったらありゃしなっかった。
だがそれよりも三日月の方が問題だった。そもそも話しかけられても僕は冗談だと、いちおう作り笑いをして答えた。それがクラスメイトの中でも浮かず沈まぬの存在にり得る最善の策だったからだ。
だが、三日月はそれを嫌った。「(僕の名前)と付き合ってるの?」と訊かれてもひたすら無言のままで、絞り出したように嫌々口にした言葉は「それがあなたと一何の関係があるというの?」と高圧的な態度のものばかりだった。
それゆえ、教室の中での彼の存在というのは何を訊いても答えようとしない、要は空気の読めないヤツ、とレッテルをられ気味悪がられてしまったのだ。
そして自由気ままに行する三日月もまた彼なりなのか、流儀なのか知らないが。朝登校してきてはリュックから荷を引き出しにれるやいなや手持ちのハンドバックのようなものを提げてはどこかへ消えていた。そして、いつ帰ってくるのかというと、今、つまり放課後である。
「どうしてクラスに溶け込もうとしないの?別に噂なんだから聞いて流すだけでもいいじゃないか」
僕以外誰一人としていない教室。そこに再び彼、三日月はやってきた。
「答える必要が無いからそうしたまでのことよ。別に話したって意味は無いし」
「それじゃあどうして僕と君が付き合っていることを否定しないの?おかしいでしょ、ありもしないことを周りに誑かせられて何にも思わないわけ?」
「は?」
三日月はリュックに引き出しの中をれる手を止める。
「あ・な・た・わ・ざ・わ・ざ・人・の・気・ば・か・り・気・に・し・て・い・る・の・?」
「まったく愚かなことだわ………別に私が偉いからって言っているわけではなくて、一般人としてよ。自分の人生だというのに登校していればなんとかなるって敷かれたレールの上を走ることしか能のないまさに低墮落な人間ね」
そうして好き勝手罵倒すると嫌気が差したのか知らないが三日月は帰宅準備をさっさと済ませようとする。リュックを背負おうとする姿を見て僕はもう一度考え直した。本當にクラスの中で浮いた存在でいいのかと。
「君の言い分はきっと正しい。小中學って義務教育を終えた僕は必ずとも高校に通わなくちゃならない責務はない。だから好きなことをするために、授業を抜けるのもまた異論はない」
僕は座りながら聲を挙げる。三日月は帰ろうとするが僕を背中に向けて立ったままだった。
「けれど、だとしてもそれが他人から嫌がられてもいい理由にはならないはずだ。君は自分じゃない他人のことを考えたところで無意味だと言ったけど、そうじゃない」
「だっていくら自分がやりたいこととはいえ、そんなの自分一人しか出來ないことに限られてしまうじゃないか」
立ったままの三日月は振り返った。その顔は怒っているわけじゃなく、喜んでもいなかった。ただ知らなかったことを不思議にじているような顔だった。
「それは………」
「だから他人とは関りを持った方が良いよ。別・に・僕・が・偉・い・か・ら・言・っ・て・い・る・わ・け・で・は・な・く・て・、・一・般・人・と・し・て・ね・」
一瞬、「あうっ」と彼から聲が聞こえたようなじがしたけれど気のせいだろうか。
「そ、そうね……そう考えるとあなたの考えも一理あるわ、他人がいれば私が知らないことだって知れる良い機會にもなるし」
「ふ、ふーーん、分かったわ、そうする……してあげるわよ」
言い直した。完全に言葉を濁すためか、それとも調子を取り戻すためか、言い換えた。
すると一目散にこの教室という閉鎖空間から逃げ出さんと、三日月は切り出した。
「じゃ、じゃあこれで私は帰る。もうあなたに用は無いし」
ん?用って何のことだろう、三日月は荷を取りにわざわざ放課後になってまで教室に來たんじゃないのか。
それを聞こうとした時、もう彼は教室にいなかった。ガラッと強く扉が閉められる振が響き、廊下を歩き去る音。
まったく何が何だかよく分からない。昨日に引き続き今日もまた放課後にまた出會うとは。そしてようやく僕の高校生活第二日目は終わりを迎え…………
なかった!!
何の運命か、それとも定か知らないけれどまだ終わらなかったのだ。
まったく帰宅するまでが高校生活とかよく分からない生活指導擔當が言っていたけれど、まさかここにきてその重要がに染みるとは。それに終わりは始まりでもあるとか何とかあるけど、それもまたここに通じてようやく理解することになるとは。
人生は怖い、それだけだ。
それではタイムバックしてみよう。
三日月が教室を出て數十秒後のことだった。部活にも勉強會にも參加しない僕はそのまま帰宅の準備に取り掛かったのだ。とは言っても殆ど機の引き出しに教科書ノート類はれたままにしているためか(いわゆる置き勉)、持ち帰るようなものはあまりなかったけれど。
目に付いたのは他でもない僕の隣の席。三日月の機の上に置いてあったものだった。
「なんで持ってきて忘れるんだろうな……しかも大きいし」
弁當箱をれるようなサイズじゃない、ノートパソコン一臺るぐらいのハンドバッグが置かれていた。
このまま放置すればあの三日月の狀況っぷりだ。嫌がらせの1つとして誰かにを隠されてしまうこともあるし、かといって中を見て引き出しの中にるか判斷するのも、異の持ちだから気が引ける。
ゆえに選択肢はただ一つ。
『①忘れを屆けに三日月を追う』
『②そのまま放置する』
①を選択。僕は廊下を駆けて三日月を追う、それだけだ。
帰宅準備を手短に済ませ、すぐさま廊下を飛びだす。まだ完全下校時刻でもないのに廊下はしんとしていたが、ただ一人だけ昇降口へと向かう後ろ姿の人影。
長い髪に小さめのリュックサック。絶対に三日月だ。
僕は辺りに誰も居ないのをいいことに堂々と廊下を走る。それも50m走のペースでだ。だから追いつくのは容易だった。
いや、容易だったというよりかや・り・す・ぎ・た・しかない。
「あのっ!!三日月さん!!」
僕は歩いている彼の右腕を背後から握り、振り向かせようとした………そこまではよかったのだ。
「あ・・・・・・」
スピードを出し過ぎた自車や電車は急には止まれないのと同じように。
「な!?」
走ってきた僕は振り向きざまの彼に正面衝突してしまったのだ。思わず重心を三日月に預けてしまったために、彼もまたもちをついて廊下に倒れてしまった。
なんだか、朝登校中に遅刻遅刻ーと言いながら曲がり角でバッタリぶつかってしまったような景かと當事者ながら思ったけれど。決定的に違うところがあった。
曲がり角でぶつかった場合、男子子の両サイドはそれぞれもちをある程度離れてついているのが定番だ。何より、その後「すみません、急いでたもので」と弁解できるし、その弁解が無い限り、再度學校で出會うというルートが導かれない結末になってしまう。
だが、今この場合はそれがまさに當てはまらないケースだったのだ。
僕は頭の中が真っ白になる。神的じゃない、これは理的にだ。よく言うだろう、酸素が頭へと運ばれなくなると脳の回転が遅くなるとか、まさにそれだ。
「っはあ、はあ……」
熱にうなされたような吐息が僕の顔にも屆く。今思えば目の前に三日月の、同年代の子の顔があるとは自分でも信じられない景だった。三日月は左手を床につけて僕に押され倒れんとするを支えていたが、何より僕がその彼の右腕を自分の方に引っ張ったんだ。
どうなるか、想像はつくはずだったのだけれど、後ろに倒れないように必死に止めようとするので手いっぱいだったのだ。
「ご………ごめん……」
僕は手の甲でを隠す三日月に謝る。
そう、僕は彼を押し倒したと同時に。
を奪ってしまったのだ。
「はあっ、はあっ。んっ、ふう……」
相変わらず廊下にれる聲。そしてその眼差しは僕の両目を捉えていた。ただひたすらに呼吸だけに集中するように全を小刻みにかしていて、言葉は何一つ口にしない。
ゆらめく視線、赤く染まる頬。純粋そうな顔つきが余計にあざとらしさを助長させる。
すると考えるのを止めたのか僕の右腕に視線を移した。
「……ちょっと……痛いんだけど」
それは僕が後ろから倒してしまったことも意図に含んでいるんだろうけれど、何より視線の先にあった彼の右腕を摑んでいる僕の手のことなのだろう。
ゆえに咄嗟に手を引くと、し怪訝そうな目をしてから僕に一言も言わず昇降口に向かっていってしまった。
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