《の黒鉄》第23話 日米戦艦の激戦⑥
ペンシルバニアが吹き飛ぶのを見た瞬間に大和艦では歓聲が上がった。
被害らしい被害をけずに敵艦を沈めることの功した大和は流石世界最強の戦艦だと誰もが喜んだのだ。
しかし、こんなかでも厳しい表を変えない人が數名いた。
連合艦隊司令長の古賀と參謀長の宇垣、艦長の宮里だ。
彼らはいずれも、大和が現狀危険な狀況にあることに変わりないことは良く理解しており、決して喜ぶには早いと思っていたのだ。
彼らの様子に気付いたのか喧噪はやがて収まり、艦橋には再び張が戻ってきた。
「本艦目標、十時方向二番艦!」
宮里は撃指揮所に繋がる伝聲管に次なる指示を出した。
「本艦目標、十時方向二番艦、了解!」
砲長から返答が來た直後、周囲に水柱が上がり艦橋が揺れた。
「皆、今ので分かったとおり米軍は本艦を狙い撃ちにしており既に命中弾も出した。本艦にとっては不利な狀況であることに変わりは無いことを忘れるな!」
古賀の斷固たる口調に皆が大きな返事をした。
現在、大和は四発被弾をしている。二発は主要防區畫に命中し弾かれたが、殘りの二発はそれぞれ前部と後部を襲った。前部を襲ったものは艦に突し兵員室で発。船員の私を巻き込みながら火柱を上げるに留まった。
後部を襲ったものは観測機をかすために運転軌盤を破壊しつつ航空機の格納庫で発。格納されてあった航空機を鉄くずに変えながら火柱を上げた。この火は航空機の引火し激しく燃えた。
すぐに副長を筆頭とする応急処理班が出。鎮火を図っている。
「他の艦は命中段を得ているのか?」
古賀は近くにいた宇垣に聞いた。
「はっ! 現狀としては扶桑、山城は命中段を得ましたが、伊勢、日向の両艦はまだであります!」
「ふむ」
険しい表をいっそう強めながら古賀はまぶたを閉じた。
「副長より艦長! 先ほどの被弾、主要防區畫に命中! 目立った損傷確認できず!」
不意に後部艦橋と繋がる伝聲管から聲が聞こえ、艦長が答えた。
「了解した! 引き続き被弾時に備えよ!」
今度は機関室に向けた伝聲管で機関長を呼び出す。
「機関長! 浸水は確認できるか?」
先ほどの砲撃で艦上に被害がないとしてもかなりの至近距離に敵弾は著弾している。艦の底部は繰り返し痛めつけられ、時には浸水を招いていることもありそれを心配したのだ。
「浸水確認できず! 機関全力運転が可能!」
「ご苦労! 何かあればすぐ報告せよ!」
何もないことに安堵しつつ宮里は、雙眼鏡を敵六番艦に見據えた。
その直後、測敵が完了したのか前部と後部から振が來た。先ほどの斉より幾分か衝撃が小さい。
目標を変更したことから互撃ち方に戻ったのだ。
(敵艦を仕留めきれるまで大和は持ちこたえられるか?)
宮里は心、冷や汗をかきながら心配した。
いくら大和が四十六センチ砲弾に対応した裝甲を施していると言っても何発も35.6センチ砲弾を喰らえば無事では済まない。
その限界がいつ來るのか、宮里は心配であったのだ。
この時、大和は最初の時と変わらず、第一砲塔の上で琴を弾いていた。先ほどとは違うのが腹部からし出をしていることだ。しかし、特にじた様子も見せず、大和は敵二番艦を見據える。
「ふう、やっぱり艦が沈む瞬間は見たくはないわね」
先ほどペンシルバニアが沈む瞬間、上げた火柱はしくも不気味なものであった。あのようなものは二度とは見たくはないのが正直な想であるが、敵艦隊が退かない以上はこちらも退くわけにはいかない。
ぐっと堪えて主砲を撃っているのだ。
大和が主砲の裝填を待っているとき、周囲に敵弾の飛翔音が聞こえ始めた。
「來た!」
凄まじい水柱が上がり艦上に何度か振が起きる。
「くっ!」
思わず苦悶の表が出た。
今度の被弾は左舷の高角砲群を襲い、艦橋に近い高角砲を一基、砕したのだ。
「だけど、まだ……」
続いて別の二隻の艦の砲撃が同時に著弾する。
今度のは二発が命中したが、二発とも主要防區畫に命中し跳ね返した。
「でも、いつまで持つのかしら……」
大和は不安に思いながらも目線を敵六番艦に変える。
すると先ほどの砲弾が敵艦の周囲に著弾。水柱を上げた。
「全弾遠か……」
狀況を確認すると不意に頭の中で敵艦の報が流れ込んでくる。その報は先ほどの弾著から計算を行い砲科の人間が観測データを計算機に打ち込んでいるのだ。
これらのデータは艦橋真下にある九八式撃盤で演算され、各砲塔に旋回角や仰角のデータが送られているのだ。
各砲塔の砲員は送られてきたデータが赤い針で示されるため、これに合わせるようハンドルを回す。これに合わせ各砲塔は盤式水力原機がき、仰角、旋回角を微調整する。
赤い針と白い針が一致したところで各砲塔から砲長に連絡がいく。
「主砲撃準備良し!」
「発用意!」
砲長が言って艦にブザーを鳴らす。
「撃て!」
敵六番艦に向け第二が発された。
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