「思った以上に修理期間が長いわね」

長門は呟いた。彼がいるのは橫須賀海軍工廠５號ドックだ。

彼は先のトラック沖海戦で、中破と判定される被害が出ている。４０センチ砲搭載艦と打ち合ったのだから當然の被害なのだが、思った以上に傷は深い。

主な被害は艦上構造の中でも特に脆弱なモノ、高角砲や副砲、機銃と言った裝備に大きな被害は出たが、これ自の修理はそれほど問題ではない。

長門と陸奧の被害の大きな違いは、至近弾による浸水が起きていたか否かだ。長門はこれが発生しており、かなり大規模な修理が必要と判斷されたのだ。

渠期間は三ヶ月とみられている。

先ほど技者達の話をこっそり盜み聞きしたのだ。無論、艦魂なので一切問題は無い。

戦爭という特殊な狀況において三ヶ月は長いとも短いとも取れる。なぜなら戦爭というのは戦線が一気にくときと直するときの二通りがあり、どちらなのかによってまるで変わってしまうからだ。

戦線が一気にくときの三ヶ月の戦線離というのは非常に大きい痛手だ。しかし、戦線が膠著時の戦線離というのはそれほど大きい影響はない。

この時、長門は改めてイギリスの技提供に謝させられた。従來の日本のドックであればこれほどの被害を修復するには半年はかかっていた。

しかし、イギリスとの技改良の結果、ドックのクレーンや修復方法などの大幅な改善が見られ、従來の日本のよりも遙かに早く修復を終わらせられるようになったのだ。

「この三ヶ月がはたしてどうくか……」

米艦隊にはなくとも半年は行不能にするほどの大被害を與えたはずだ。だからその期間はなくとも大規模な軍事行は取れないと判斷している。

しかし、あの國は國力が日本の比ではない。半年であると決めつけるのは危険だ。

「とにかく私は修理に専念しないとね」

そう言って長門は艦にっていった。

この時、長門は橫須賀第五、陸奧は呉第四、扶桑は呉第三、伊勢は佐世保第五船渠で修理をけることとなった。

魚雷を喰らった扶桑、伊勢は半年。陸奧は一ヶ月で十分と判斷された。

大和は長門達がいない間に普段は會う機會のなかった日向達とお茶會を開いていた。

開催者は大和だ。

「それにしても大和さんは流石ですわ。あれほどの敵を相手にしながら一歩も退かないばかりか、敵に痛打を與えるとは」

上品な言葉使いが特徴的な山城の艦魂は言った。彼は普段から明治時代の外人が著るようなドレスをにまとっており、日本海軍の艦魂の中でもかなり変わった存在として知られていた。

「まったくだ。大和ってさ、もっとガキっぽいと思っていたからな」

男勝りな口調の艦魂は日向だ。彼は扶桑とは打って変わって作業著のようなモノにを包み、一見海軍工廠からやってきた作業員かと見違えるような人だ。

「まあ、私もそう簡単に引き下がれる立場にはいませんからね」

大和は紅茶をれながら言う。

彼らがお茶會を開催している會場は大和の會議室だ。普段であれば連合艦隊司令部の幕僚が會議をしているのだが、彼らは現在陸上におり、使われていない。

その事から大和達が使っていたのだ。

部屋の中央には大きなテーブルが置いてあり、白いテーブルクロスが引いてある。そのテーブルは彫りまでったマホガニー製のしいモノで呉海軍工廠で作られたモノだ。

それに沿って置いてある椅子もフカフカで一目見て高価なことが分かる。

「さすがは最新鋭艦だな～！　椅子もフカフカだし！」

日向は呑気に言いながら椅子のを楽しむ。

「あら、そちらのティーポット、金剛様から頂いたものではなくて？」

「ええ。そうですよ。どうして分かったんですか？」

山城が一目で金剛からもらったモノだと見抜いた。

「その茶の底をご覧になって」

言われるがままに底を見ると何かのマークのようなモノがある。

「これは……？」

「ダイヤモンドをイメージして象ったレリーフですわ。それが金剛様が進呈したことを示すモノですのよ。人間でたとえるならブランドといったところかしら」

「へえ、ここまでこだわって作られているんですね！」

「ええ。金剛様の紅茶へのこだわりは凄いモノでしてよ」

そう言っている間にも紅茶がっていく。

ティーポットを溫め終わり、茶葉をれたところだ。

「熱湯の溫度も良し！」

熱湯の狀況を確認し終えた大和は熱湯をれるべく、ヤカンを高く上げ、勢いよくお湯をティーポットの中に流し込んでいく。

熱湯は重力に従ってティーポットへり、その勢いで中で対流を作り紅茶の茶葉を回転させていく。

一通り注ぎ終わると茶葉がゆっくりと浮き沈みを始めた。

「見事なジャンピングですわ」

山城はティーポットの中をのぞき込みながら、大和の紅茶をれる技を褒め稱えた。ジャンピングとは茶葉が熱湯の中で浮き沈みを繰り返していく現象のことを言う。これが紅茶の茶葉の出が均一になっている証拠なのだ。

「ありがとうございます！」

大和も誇らしげに答える。

「良い香りがしてきたな！　これは……ダージリンだな！」

日向は見た目こそ、それほど上品ではないようだが、紅茶などはかなり嗜んでおり、有名どころであれば香りだけで判斷が出來る。

「ええ。牛が調達できないのでストレートで飲めるダージリンを選びました」

「まあ！　確かにダージリンであれば苦手な人もないですからね」

「ええ。紅茶によっては香りが苦手な人もいますからね」

そう言いながら大和は懐中時計を見て出時間を正確に見る。

「それではれていきますね」

時間になり、徐々に分けながら紅茶を三つのティーカップに注いでいく。

「もしシーレーンが塞がれればこの紅茶も飲めなくなるんだよな……」

しみじみと日向は言った。

「ええ。そうさせないためにシーレーンは死守する必要があるのですよ」

扶桑は諭すように言う。

「まあ、今回のフィリピン攻略戦において金剛様が出撃されたのはその理由が強いかもしれませんわね、資源の確保という理由よりは」

扶桑はそう言うと三人は笑い出す。

そんな他もない話をしながら三人はお茶會を楽しんだ。