《の黒鉄》第41話 ノースカロライナの危機
ノースカロライナは第五を放つ。
現在のところ共に命中、挾叉弾は無しだ。著実に弾著は近づいていはいるもののなかなか命中弾を得られないことを歯がゆく思いながらノースカロライナは弾著の観測を行う。
しかし、その視界を塞ぐように何本もの水柱が上がった。
ノースカロライナはその水柱が今までのものとは違うのを何となくじ取り、半ば反的に後ろを向いた。
すると後ろ側にも一本、巨大な水柱が立っている。
「くっ! やられた!」
ついにイギリス艦隊の一隻がこちらを挾叉してきたのだ。
「さすがはロイヤルネイビー! 簡単には譲らないということね!」
その返答に答えるかのように一番艦が砲撃する。その砲煙が収まらぬうちに周囲に水柱が上がるが、その隙間から炎が上がる。
「命中した!」
初の命中弾に歓聲を上げるが、すぐに表を引き締める。一隻あたりに破壊力ではこちらが上とは言えど、敵は四隻もおり數はこちらの倍だ。さらに言えば、敵のうち一隻は挾叉弾を出し殘る三隻も挾叉ないしは命中弾を出すまでは時間の問題と思われていた。
決して不利な狀況が覆ったわけではない。
「まだなの!」
その狀況をもろに実しているノースカロライナは裝填の遅い主砲に苛立ちを隠せない。
そうこうしている間に敵は次から次へと砲弾を放っていく。先ほど挾叉したのは二番艦であったらしい。今までの倍以上の火柱と轟音を上げつつ砲弾を放つ。
「裝填完了!」
ついに主砲に砲弾が裝填される。
砲長が待っていたとばかりにブザーを鳴らし、手が引き金を握った。
「撃て!」
ついにノースカロライナが持つ最強の火力、16インチ砲が轟音と共に猛る。
火炎は竜のように主砲から噴き出し、敵めがけて音速以上の早さで砲弾を撃ち出した。
直後、敵弾がノースカロライナ周辺に降り注ぐ。そのうち二発が相次いで命中した。
一発が主要防區畫に命中。その裝甲に跳ね返された。もう一発は艦尾に被弾。舵機室や軸室といった重要な區畫は破壊されず、乗組員居住區で発し、私有を飲み込んで火柱を上げる。
続いて別の艦の弾著が來る。
これは全部手前側に落ち、事なきを得た。
しかし、続く著弾は命中弾が一発出る。これは艦の脇に設置されていた5インチ高角砲を砕し、中の砲員諸共焼き殺す。
吹き上がる水柱の間にちらと敵一番艦の周囲に水柱が上がるのが見えたが、今度はノースカロライナの周囲に水柱が上がり、視界を遮る。
次の艦の砲撃がノースカロライナを襲ったのだ。今度は命中弾こそないものの挾叉弾を出し、艦の周囲に水柱を吹き上げた。
ノースカロライナは四隻の敵艦を相手取りながら、次からは三隻のイギリス戦艦の砲撃をけることになる。
先ほどの砲撃で仕留められると良いが、そんな希的な思いを抱きながら、敵一番艦を見た。どこかで火災が起きているのか敵艦からは黒煙がたなびいている。しかし、速力や艦の主立った形狀に変化は見られない。
ノースカロライナが砲弾の裝填を待つ間に一番艦は斉を放つ。それに習うかのように後続の戦艦も相次いで主砲を発していく。
「このままでは……」
ノースカロライナは思わずうなる。
足や腕、頭のような戦闘航行に支障を來すような部位からの流はないが、痛みや傷の度合いは増している。敵艦隊は著実にアメリカ戦艦の力を削っていた。
妹のワシントンは、敵二番艦に狙いを付けているが今のところ、命中したとの報告はない。
「まあ、無理もないな」
ノースカロライナは自嘲気味に笑った。何せ妹のワシントンは訓練を終えたばかりどころか、今だ完全には終えていない。艦隊運がようやくできるようになったばかりだ。
そんな艦に命中弾をむなど稽な話だ。
周囲を木枯らしにも似た音が包む。
弾著の瞬間、首筋に剣を押しつけられた、そんな悪寒がじられた。
「ぐっ!」
今まで膝をつくようなことはなかったノースカロライナであったが、今回は耐えきれなかった。
前のめりに倒れ、一時的に視界が霞む。
今回の被害は今まで以上に大きいものであった。
砲弾は艦橋基部に命中。艦橋は倒れなかったもののその破壊力は艦橋を大地震のように大きく揺さぶった。
この振が撃指揮所から各主砲塔へと通じている電路を斷ち切り、各砲は一時的に撃が困難な狀況となったのだ。
こうなってしまっては後部の予備撃指揮所に切り替えるしかない。だが、それまでには時間が掛かる。三隻に狙い撃ちされている今の狀況で時間というのは一刻でも生死を分けることになる。ノースカロライナは追い詰められた。
そんな彼の元へさらなる斉弾が降り注ぐ。
一番艦の斉弾は主要防區畫に二発命中、事なきを得る。続く三番艦の第一斉弾は艦首と艦尾に命中。艦尾のものは先ほどの砲撃で空いたをさらに抉る。艦首は錨鎖庫で発し、碇が勢いよく海に落下する。
四番艦だけ斉に移行していなかったが、ここに來てついに挾叉弾を出し、ついにノースカロライナは四隻から斉弾を見舞われる最悪の狀況となったのだ。
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