サンディエゴは街が創設されて以來、最も大きな混を迎えていた。通路は人であふれかえり、怒號や悲鳴があちこちから聞こえ一歩もけない狀況となっている。

そんな中、陸軍のジープやトラックが町中を駆け巡り、市民に落ち著いての避難を呼びかけている。上空は戦闘機や撃機が今朝から何度も通過していき、沖では海軍の艦艇が展開している。駅ではひっきりなしにやってくる列車に人が我先にと乗り込み、大混だ。一部では陸軍が戦車隊を展開し治安維持に乗り出している。

おそらくはアメリカ史でもここまでの混は無かったであろうと思われるほどの大混だ。それもそうであろう。建國以來史上初の他國の侵攻をけているのが、ここサンディエゴなのだ。しかもここは大西洋沿岸でも有數の巨大都市だ。そこに暮らしている人口も多い。

そこに世界第三位の海軍大國である日本海軍の戦艦群が迫ってきているというのだ。この狀況も頷ける。

「止まりなさい！　ここは封鎖中だ！」

「駅はあちらです！　皆さん落ち著いて、ゆっくりと移してください！」

「押さないで！　子供や老人はいませんか！　優先して通してあげてください！」

陸軍兵士が拡聲を使って市民に呼びかけを行っている。所々に封鎖勢が敷かれ、完全武裝の陸軍兵士や戦車がいる。まるで街全が戦場と化したかのような狀況だ。

「こちら橋を閉鎖しました！　現在、避難民を駅に向けて導中です！」

「市民の一部が暴徒化して手がつけられません！　至急増援を！」

「避難民の導を60パーセントほど完了しております！　殘った民間人は駅の前にあふれており、整理するための兵士がもうし必要です！　増援をこちらにも回してください！」

無線は大混戦となっており司令部でも報が錯綜していた。

「一民間人の避難はいつ終わるのだ！　このままではサンディエゴの街と共に陸軍兵士、そして民間人は吹き飛ばされるぞ！」

導部隊の総指揮を執っていたカーク大佐は呟いた。

「陸軍航空隊より連絡です！」

「聞かんでも分かっておる！　我戦するとも敵に撤退の気配なし、避難急がれよ！だ」

通信兵の報告を遮る。今朝から陸軍、海軍の航空隊は必死の戦闘を繰り返しているが、痛手は與えているものの一向に撤退する気配は無かった。

「海岸や航空機からの報告は！」

「まもなく16インチに程圏にります！」

「もうだめだ！　避難民は全員徒歩で海岸から離れさせろ！　それから海岸方面に展開している部隊は直ちに撤退、海岸からしでも離れるのだ！」

ここに來てカーク大佐は撤退の決意をした。おそらく敵戦艦は14インチ砲の程圏にってから砲撃を開始する可能が高い。そうなってから撤退すれば確実に引く前に敵弾が到達する。それからでは多くの將兵の犠牲が出る。

カークは歯を食いしばり、床を思いっきり蹴った。

「36センチ砲の程圏にりました」

宇垣の言葉に古賀は目を開けた。度重なる空襲をけ數多くの艦艇を失いながらもついにここにたどり著くことに功した。ここからは力盡きた艦艇の分まで暴れ回ってくれる。そういう闘志が古賀の眼の中に浮かんでいた。その艦艇の中に武蔵がいたことは言うまでも無い。

つい一時間ほど前、五度目の空襲の時だ。命中した航空魚雷の數が二〇本を數えたところで武蔵は靜かに傾き始めた。既に注排水システムは限界を迎えており、この傾きを直す能力は武蔵には無い。その武蔵にたたみかけるようにさらに二本の魚雷が命中した。これが致命傷となり、武蔵はその巨を大きく傾けながら海中に沒した。

しかし、彼の意地なのであろう。乗組員が出できるだけの時間は浮かんでおり、その多くが周囲の軍艦に救助された。

この報告をけた大和は靜かに「そう」とだけ呟き、その場にたたずんでいたという。彼が果たしてどのようなを抱いたかを記す証言は殘っていない。

「各艦、観測機を飛ばし弾著観測に備えよ」

古賀は連合艦隊全艦に通達した。彼は市街地に極力被害を出さないために正確な撃を行わせる腹づもりなのだろう。大和の後部から観測機がすぐに出され、上空を通過していく。

「これが最後の戦闘になるであろうな……」

古賀は呟くように言った。

「ええ。おそらくこの戦闘を終えれば合衆國の世論は大きくきます。そうなれば講和の糸口をつかみ出せるでしょう」

宇垣は靜かに頷きながら言う。

前部の主砲がゆっくりとき出した。砲では撃準備を整えている頃合いであろう。主砲が指向する先にはいつの間にか陸地が見えていた。巨大な街が見え、日本の町並みとはまた違った雰囲気があった。

「各艦より通達。我撃準備完了」

古賀は宇垣を見て小さく頷いた。

「砲撃開始！」

大和の前部甲板に巨大な閃が走り、轟音が艦上に鳴り響いた。同時に大和の後方から數多くの閃が走り、遅れて砲聲が聞こえる。

ついに連合艦隊は艦砲撃を開始したのだ。