《コンビニの重課金者になってコンビニ無雙する》5話 會社を潰そうと思った夜
我が家の風呂は、普通じゃない場所にある。
何処にあるかと言うと……
ズバリ―― "地下"だ。
両親に『何で地下に風呂を作ったのか』と、聞いた事がある。
両親の答えはこうだった。
『だって、その方がロマンあるじゃない?』
どうやら、普通じゃない事がロマンと繋がるらしい。
……わけ分からない。
っと、愚癡を言いたくなったが、先にやる事が有る。
廊下へ出ると、その端で困っていたヒトミに、聲を掛ける。
「そこは只の壁だぞ」
「えっと、お風呂が見當たらないので……こう、忍者屋敷みたいになっているのかと」
壁の一部がどんでん返しの様になる、"隠れ扉"を探していたらしい。
著眼點は良いのだが、調べる場所がし違う。
「こっちだ」
「えっ?」
「ここが風呂場なんだ……」
「でも、そこは……」
「まあ、見たじは"収納場所"だがな、ほら、こうして引けば……」
「……開きました!」
この家には、いくつかダミーの収納がある。
いや、正確にはダミーでは無い。
実際に、収納として使いつつも、その裏に何らかの空間があるのだ。
それこそ、トイレなんかもその形になっている。
おで、外から呼んだお客様が、トイレに行くために席を立って、危うくらしそうになる。なんてことは、結構ざらにあるのだ。
一先ず、風呂にって來るように言った。
地下への階段を下りて行きながら『あ、あれですね! 著替え持って來たと言いながら、お風呂を覗き込んでくる奴ですね!』等と言って來たが、生憎地下は部屋が幾つか別れていて、鍵もかけられる。
だから、『見られたかったら、鍵を開けておけばいいんじゃないか? あ、著替えは外に置いておくからな』と言って、著替えを両親の寢室へと取りに行った。
その後、母の著替えを持って行くと、風呂場の前に著替えを置いておいた。
風呂場の前には、一応カゴとイスが有る。
カゴをイスの上に置くと、著替えとタオルをれておいた。
ヒトミを待っている間に、にゃん太を洗う事にした。
――50分後。
……ヒトミの風呂は長かった。
うちの母は、風呂にっても10分経たずに出て來る。
その為、『の風呂は長い』という言葉を信じて無かった。
が―― 今日、確かにの風呂は長い事を実した。
風呂に50分は長い。
しかも、まだ出て來た訳では無い。
待っている間に、にゃん太の事を綺麗にしたのだが……想像したのと違った。
よく『犬は水浴びが好きだが、貓は嫌がる』と言う。
その為、多苦戦すると思っていたのだが……多手足をピーンとばして踏ん張る程度で、一向に暴れる様子が無かったのだ。
結局、すんなりと綺麗になってくれた。
にゃん太を綺麗にし終わった後、時間が有ったので夕食を用意しておいた。
……夕食とは言っても、大したものでは無い。
買い込んでいた冷凍チャーハン。それと、冷蔵庫に殘っていた卵で、厚焼き玉子を作った。何となく、黃の多い気がしたが……そこにフリーズドライの味噌を添えれば、もう立派な一食だ。
先ほど弁當を食べはしたのだが、その殆どをヒトミとにゃん太にあげてしまったので、お腹が空いていたのだ。
そんなこんなで、ご飯を作っていると、橫からにゃん太が『にゃーにゃー』と鳴いて來た。確か、貓も偶になら米を食べても大丈夫だったはずなので、しふやかしてから與えておいた。
にゃん太が『にゃんんにゃんにゃん』と鳴きながら食べている姿に、癒された。
そんなにゃん太を見ていると、ふと貓のトイレや寢床の事を思い出して、著なくなった古著と新聞紙を持って來た。古著の中でもモコモコしたモノは寢床、他の古著はトイレにした。
丁度良いモノが無かったので、倉庫に畳んであった段ボールを組み立てて、にゃん太の家にした。
……一先ずにゃん太に関しては、これで大丈夫だろう。
一仕事した気分になって戻ると、にゃん太が、食べ終わった皿の近くで丸まっていた。
そのままにしておくと、知らないに踏んでしまいそうで怖かったので、用意した段ボールの中へと早速れておいた。
にゃん太を寢かせた処で、ようやくヒトミが上がって來た。
「ふぁ~良いお湯でした~」
「……隨分かかったな」
結局一時間以上っていた。
見たじ、著替えのパジャマは問題なく著れたみたいだ。何となく、首元がゆるっとしているが……まあ、その原因については余り考えない方が良いだろう。
「の子には、々あるんです~それに、最初水が出て來て驚いちゃいましたよ!」
「ああ、ウチの風呂は、溫まるまで時間が掛かるからな」
地下に作ったせいなのか何なのかは分からないが、しばらく経たないとお湯が出てこない。その為、俺なんかは最初水を浴びてお湯に変化する、"変化"を楽しんでいたりするのだが……
「まったく、お様で今日二番目にびっくりしましたよ!」
どうやら、変化を楽しむまでの余裕が無かったらしい。
『二番目にびっくり』と言っているが、一番驚いたのは、恐らくクビになった事だろう。まあ、何と言うかそれは俺も同じなので、下手に弄るとブーメランになる気がする……弄らないでおこう。
「まあ、なんだ。腹減ってたら、機の上のご飯食べてくれて構わない。俺も風呂にって來るが、殘っていたらそれを食べるから、食べた後もそのままで大丈夫だ。 ……眠かったら、二階にあるベットで寢てくれ」
そう言いながら、著替えを片手に摑んだ。
「は、はい? ……あの、ご飯良いんですか?」
「ん? ああ、あんなんじゃ足りてないと思ってな、一応作っておいたんだ。にゃん太にも、あげておいたから心配しないで食べてくれ」
そう言うと、『分かりました』と返事が有ったので、それに頷いてから風呂場へと降りて行った。
――相変わらず、地下はし寒かった。
服をぎながら何となく橫を見ると、そこにはし変わった匂いのする服と、可らしい下著があった。……籠の中に置いていたらしい。
一応変えの下著も置ておいたのだが、結局母の下著を持ってくる事が出來ず、昔履いていたブリーフパンツを置いておいたのだ。上の方は、それこそ変えになるモノが無かったので、シャツを置いておいた。
結局、半分は俺の服を著せる事になった。
まあ、今は著ていない服だからセーフだろう。
セーフ……うん。
その後、いつも通りシャワーを浴びてから風呂に浸かったが……何となく、お湯が汚れていたので、お湯から出た後にもう一度シャワーを浴びておいた。
若いの子のった後のお湯……世の中には、飛び上がって喜ぶような変態も居るのだろうが、俺には只の汚れたお湯でしかなかった。
……あの娘の事だ、何やら変な勘違いが加速して、要らない気遣いをしている可能が有るが……というのも、先程の下著に関しても、わざわざ、畳んだ服の上・に、下著が置いてあった。それに、湯船に張られたお湯に関しても同じで、お湯を抜いておく位しても良い筈なのだが……
まあ、向こうから何か地雷を飛ばしてこない限りは、こちらから踏み込む気は無い。
しだけため息を付きそうになったが、息を吐くよりも、苦笑いの様なモノを浮かべる方が早かった。
「まったく、変わりもんだなありゃ……」
ほんのし前、この風呂を使っていた人が、『まったく、変態かも知れないわよね……』と口にしたとは知らずに、同じ様な事を呟いていた。
――似た者同士だった。
その後、10分程で風呂から上がった正巳は、綺麗に平らげられた夕食を見て驚いていた。
「……腹、減ってたんだな」
そこには、何一つ殘っていなかったが、殘す様に言っていなかった事を思い出した。洗面臺を見ると、皿やは綺麗に洗われていた。
……綺麗に洗われ、本人もいないところを見ると、どうやら相當早く食べ終えて、さっさと洗ってからベットへと向かったらしい。
もうし遠慮や戸いが有るかと思ったが、恐らくそれらのよりも"疲れ"や"食"が勝ったのだろう。まあ、話を聞いた所相當に大変だった様だし、それも仕方ないだろう。
「さて、俺はどうするか……」
何となく、直ぐに寢る気になれなかったので、棚にストックしておいている"週末お楽しみセット"を取り出した。
本來、仕事の後の楽しみなのだが、生憎仕事はクビになった。その為、今までのように"仕事終わりの週末"とは言わず、楽しんでも良いだろう。
――仕事が無い為、毎日が"週末"の様なモノなのだ。
「はぁっ……クビか……」
思い返すと、辛い事も多かった。
しかし、その分達から來る喜びもあった。
迫る納期と、理不盡な要求。
追加されて行く要と、削られて行く予算。
……正直碌なものでは無かったが、それら全てを含めて一つの"仕事"だった。
仕事に使う時間が多かった分、社會に出てからは、仕事が人生の大半を占めていた。
それなのに――……
このを、何処に向ければ良いか分からない。
落ちたから見上げるも、遙か遠くに見える。
――もう見えなくなった出口。
周りを見渡しても何も存在しない。
――何にもれる事の出來ない、この両手。
……誰もいない。
……取り殘された。
そんな事を考えて、耐えられなくなった。
『"ドンッツ!"』
……膝からくずれ落ちる。
そして、蹲うずくまりながらも拳を握る。
――もう、耐えられない。
びそうになった瞬間、握りしめた拳を包み込む覚があった。
……気のせいじゃない。
數秒間を置いて、しだけ顔を上げた。
――そこには母が居た。
いや、母の寢間著を著たが居た。
手の平から伝わる熱が、何となく心を癒してくれる気がした。
視界の端が滲にじんで行く。
「何でだよぉ、なんで俺が……」
これ迄積み上げてきた結果、努力、想いその全てが今日、否定された。
そもそも、仕事をする意味は何処に有ったのだろう。
俺は、社長を慕う思いと、仕事相手の喜ぶ顔を見るのがやりがいだった。
それ自は、寶くじが當たった後も変わらずに働き続けていた事で証明できる。
金が大切で単に金がしくて働いていたら、とっくに辭めている。
――それなのに。
……これ迄の人生、何のために生きて來たのだろうか。
多分、瞬間瞬間で其々意味はあったのだろう。
仕事も充実していた時もあった。
しかし――
「くそっ……」
再び思い出して、悔しい思いが心を満たして來た。
それと同時に、心の奧に黒いも生まれて來る。
『社長が大切にしている會社、あの會社を潰してやろうか』
それこそ、俺が持つ技と知識を使えば5年で潰せる。
會社の顧客を奪う事は簡単だろう。
……5年?
いや、今は資金がある。
手段を選ばなければ、1年以に潰せるだろう。
「……」
にれると溫をじる。
「もうね、良いんだよ? ……頑張ったんだよね。大丈夫、大丈夫だよ……」
「だいじょうぶ……」
「そう、大丈夫。もう大丈夫なの。だから、し休もう?」
「そう、か……」
「頑張ったね」
その言葉で、何かつっかえていたが、激流の様に流れ出して來た。
「頑張ったがんばっだっ、誰よりも一番いぢばん……ただ、ただ社長にしゃじょうに喜んでしくてよろごんでほしぐで」
嗚咽と共にが音になる。
……俺はただ、社長に『頑張ったな、ありがとうな』そう言って貰いたかっただけ。本當にそれだけだった。自覚してはいたが、本當にそれだけだった。
「うん、そうだね」
「なのに、社長はじゃちょうは、要らないいらないっで、出ていけってででいげっで」
「それじゃあ、もうその職場でやるべき仕事は終わったのかもよ。……私は、自分のミスでクビだったけど、お兄ちゃんは頑張ったんだもん。もう十分頑張ったし、やるべきことはやったの! 後は、好きに生きれば良いんだよ」
そっと寄り添うようにして言うヒトミに、最早を塞き止める事は出來なかった。
その言葉を噛みしめながら、涙が枯れるまで泣いた。
泣きつかれ、そのまま眠ってしまった。
そもそも泣いたのなど、十數年ぶりの事だった。
久しぶりに流した涙を、止める方法など分からなかった。
しかし、おでにため込んでいた"毒素"とも言うべきモノは、全て流れ消えていた。
――――
次の日、目が覚めた後で驚く事になるのだが、二人―― いや、二人と一匹・・・・・は、フローリングの上で、丸まる様にして寢ていた。
【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~
---------- 書籍化決定!第1巻【10月8日(土)】発売! TOブックス公式HP他にて予約受付中です。 詳しくは作者マイページから『活動報告』をご確認下さい。 ---------- 【あらすじ】 剣術や弓術が重要視されるシルベ村に住む主人公エインズは、ただ一人魔法の可能性に心を惹かれていた。しかしシルベ村には魔法に関する豊富な知識や文化がなく、「こんな魔法があったらいいのに」と想像する毎日だった。 そんな中、シルベ村を襲撃される。その時に初めて見た敵の『魔法』は、自らの上に崩れ落ちる瓦礫の中でエインズを魅了し、心を奪った。焼野原にされたシルベ村から、隣のタス村の住民にただ一人の生き殘りとして救い出された。瓦礫から引き上げられたエインズは右腕に左腳を失い、加えて右目も失明してしまっていた。しかし身體欠陥を持ったエインズの興味関心は魔法だけだった。 タス村で2年過ごした時、村である事件が起き魔獣が跋扈する森に入ることとなった。そんな森の中でエインズの知らない魔術的要素を多く含んだ小屋を見つける。事件を無事解決し、小屋で魔術の探求を初めて2000年。魔術の探求に行き詰まり、外の世界に觸れるため森を出ると、魔神として崇められる存在になっていた。そんなことに気づかずエインズは自分の好きなままに外の世界で魔術の探求に勤しむのであった。 2021.12.22現在 月間総合ランキング2位 2021.12.24現在 月間総合ランキング1位
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