《コンビニの重課金者になってコンビニ無雙する》30話 一時停止

走り出した車両の中、機嫌良さ気に鼻歌を歌うヒトミに聞いた。

「今日は何か買って帰るか?」

今日はある意味特別な日、良い事の有った日なのだ。

デザートか何か買って帰ろうと思った。

しかし――

「いえ、大丈夫です!」

ヒトミは頭をふるふると振るって、『何も買わなくても大丈夫』と言った。

何となく、貰えるは貰うイメージがあった為意外だった。

「何でも良いぞ。ほら、シュークリームとか焼き芋とか」

「もうっ、何で食べばっかりなんですか~」

そう言って頬を膨らませるヒトミに、笑って答えようとした正巳だったが――

「ははは、それはヒトミが――うおっつ!」

突然車の自ブレーキが作して驚いた。

ヒトミの様子を確認しつつ、狀況を確認する。

……車が何かに當たった訳では無い様だ。

見ると、すぐ橫の道から飛び出して來た黒いバンが道を塞いでいる。どうやら、飛び出して來るのを早い段階で検知してブレーキが掛かったらしい。

両側にまだ取り壊されていない空き家の立っている道で、右からの合流がある道だ。ブレーキの勢いで橫のガラスに頭をぶつけたらしいヒトミが、額をりながら言った。

「ちょっと、何なんですかね! 文句言ってきます!」

咄嗟にドアのカギを閉めようとしたのだが、一瞬遅かった。

ヒトミがドアを開けてしまったのだ。

「おい、外には出るな!」

そう言ったのだが、既にヒトミは臨戦態勢だった。

未だに誰も降りてこないバンへと近づいて行く。

……どうしてこう向こう見ずなんだろうか、頭痛がして來る。

そもそも、ぶつけられた訳でも無いのだから、関わらない様にしてそのまま通り過ぎてしまえば良いのだ。不用意に関わって危ない奴らだった場合、の危険すらある。

「ちょっと、降りて來て下さい! ちゃんとそこに一時停止の――」

怒った様子で歩いて行くヒトミを(困った奴だな)と思いながら見ていた正巳だったが、不意に開いたドアから、男數人降りて來るのが見えた。

「ッツ、くそっ!」

その男達を見た瞬間、悪寒が走った。

降りて來た男は三人。

その全員が、ニット帽で顔を隠していた。

慌てて降りようとした正巳だったが、一人の男が、驚いてけずにいるヒトミの腕を強引に持ち上げるのを見て止まった。

このまま近づいて摑まったりすれば、"俺"と言う渉の手札が無くなってしまう。

を落ち著かせながら車の中に戻った正巳だったが、後ろからも車が近づいて來るのを確認していた。ミラーで確認する限り、前を塞いでいるバンと同じ車両に見える。

後ろからの"追突"に備えていた正巳だったが、軽く押された程度の衝撃しかなかった。

結局前も後ろも車に挾まれる形になった。

狀況を整理し始めた正巳だったが、可能としては二つしかないと思った。

一つ目は、正巳の持つ資産を狙った襲撃。

二つ目は、通りすがりを狙った拐若しくは強盜。

しかし、直後現れた人によって、その両方が間違っていたと気が付かされる事になった。

後ろの車両から出て來た男達に挾まれ、一人の男が歩いて來た。

その男は、他の男達と違い覆面を付けていなかった。

その顔には見覚えがあった。

この前ヒトミの家で會った不産屋の男"黒渕"だった。

「……何が目的だ?」

窓をし開けてそう言うと、黒渕はニヤっとした顔をして言った。

「何もクソも無いですよ。ただ、私は貴方の買った家を"お安く"譲って頂くだけですからねぇ~そうすれば、あの馬鹿な娘も無事に解放されますよ。そうですね、まぁ手間を掛けさせてくれた"お詫び"として、貴方の車でも貰いましょうかね。中々面白いカスタムですしね」

そう言って、ベタベタと車っている。

そんな黒渕に、頭にが上りそうになるのを抑えて言う。

「……そんな事出來ると思ってるのか?」

すると、面白そうに笑って言った。

「君も頭が悪いねぇ、まだ分からないのかなぁ。俺の後ろにはケツ持ちが居るんだよ! そっちに娘を流せば、そうだねぇ~まだ若いから々使い道があるのかもね~」

そう言って、後ろにいた覆面の男の肩に肘を乗せている。

「……クズだな」

冷靜じゃなかったのだろう、普段渉事では絶対に口にする事が無いのに、口にしてマイナスになる事しか言っていない。

案の定――

「自分の立場を分かっていないみたいだな……おい、こっちに連れて來い!」

黒渕がそう言うと、男がヒトミの腕を摑んで引き摺って來た。

「離して下さい!」

「……」

まだ元気は有るらしい。

腕を振り解こうとするヒトミに対して、黒渕が言う。

「うるせえぞ! てめぇが帰ってこなけりゃ、全て丸く収まってたんだよっ!」

言いながら持ち上げると、左手で腕を摑んで『こいつと換だ!』と言ってくる。

そんな黒渕を見て言った。

「……可笑しいのはお前だろ。丸く収まるも何も、お前みたいなクズは何処にでも居るんだな。全く、折角良い気分だったのに臺無しだよ」

すると、余程頭に來たのだろう……右で拳を作ってガラスを毆って來た。

狙い通りに右手で振りかぶっての大振りだった為、左手に摑んだヒトミが黒渕から若干離れている。何より、ドアの前からヒトミが離れた。

一瞬構えそうになったが(やる事・・・は同じだ)と思い直し、タイミングを合わせてドアを思いっきり開いた。

直後――

『"ガシャン!"』

音を立て、ドアのガラス面に蜘蛛の巣狀のひびがった。

「乗れ!」

ヒトミに手を差し出すと、ヒトミが手を握って飛び込んで來た。

丁寧に乗る暇など無いので、ヒトミを助手席に向けて引っ張り込んだ形だ。

一瞬驚いていた周囲の男達だったが、ヒトミが車に飛び込んだのを見て、こちらに走り寄って來た。それを見て、慌ててドアを閉め鍵を掛けた正巳は、アクセルを踏んだ。

「摑まってろよー!」

「ハィッツ!」

しかし――

前を塞いでいるバンに當たろうかと云う瞬間、車にブレーキが掛かった。

「――っつ?!」

「ま、正巳さん?」

バンに當たるどころか、手前で止まってしまった。

慌ててバックを始めたのだが……

「――おいおい、マジか」

後ろで構えていた男達が避ける中、バンに當たる瞬間に止まってしまった。

當然、正巳がブレーキを掛けている訳では無い。

「正巳さん?!」

「……安全過ぎるんだよ!」

「何言ってるんですかーそんな事言ってる場合じゃないです!」

ヒトミに反応している余裕が無かった為、再び前進させた。

しかし――結果は同じ、手前で止まってしまう。

「もう一回だ!」

それ迄し離れていた男達だったが、どうやらこちらの狀況が分かって來たらしかった。其々車に乗り込むと、前と後ろで挾むようにして距離を詰め始めた。

「ま、正巳さんー!」

慌てて腕を摑んで來るヒトミに『落ち著け!』と言うと、席に座らせた。

出來るだけエンジンを吹かしながら、音で威嚇しながら前進と後退を繰り返す。

同じ事を繰り返しながら、狀況の整理をした。

……まず問題なのは、ヒトミ側の窓では無く正巳側の既にヒビのった窓ガラスだろう。無理やり乗り込んで來るとしたら、正巳側の窓からだ。

何にしても、前と後ろを挾まれたらどうしようもない。

どうしたものかと思っていた正巳だったが、前方からもう一臺の車が近づいて來るのを見て、淡い期待を抱いた。こういうピンチの時にこそ、助けは來るものなのだ。

「おい! 助けが來たみたいだぞ!」

そう言った正巳だったが、ヒトミは意見が違うみたいだった。

目を細めてじっと見た後で言った。

「あれ、黒いバンでしかも運転手覆面してますよ?」

言われて改めてよく見ると、確かに黒いバンだった。思わず大聲を出したくなった正巳だったが、何となくその車の気配が可笑しい事に気が付いた。

……既に30メートルも距離が無くなっているにしては、スピードが速い気がする。

その様子をしばかり見ていた正巳だったが、距離が20メートル、10メートルと迫ってもスピードが落ちない事で異変に気が付いた。

「おい! 衝撃に備えろ!」

そうぶと、思いっきりバックした。

直後――

前の車が突っ込んで來た。

目をつむる瞬間、バンの向こうに青い目をした金髪の男が見えた気がした。

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