《コンビニの重課金者になってコンビニ無雙する》31話 面接と助手
數秒前、正巳達は車の追突をけていた。
二人の乗る車の前方、バンを挾んだ向こうから車が突っ込んで來たのだ。
ぼうっとする中、車のフロントがそれ程傷付いていないのを確認してホッとしていた。
……どうやら、車が壊れるほどの衝撃では無かったらしい――とは言っても、全力で壁にぶつかった位の衝撃はあったが。
あのスピードで突っ込んで來られたら、怪我をしても可笑しくはなかったと思うのだが……どうやら、一つの車を挾んでの衝突だった為、衝撃が和らいだらしい。
目の前がくらくらとする中、ヒトミの様子を確認する。
……頭を抱えてプルプルと震えているが、どうやら無事だったらしい。頭を振っているのは、衝撃で眩暈がしているのだろう。
「……無茶するなぁ」
誰が突っ込んで來たかは分からないが、狀況から考えるとこちらの味方だと思う。千に一つ、いや萬に一つの確率でタダの"事故"と言う可能もあるにはあるが……
「ふぇ~クラクラシマスネ~」
……何故かエセ外國人みたいな口調になっている。
「何本に見える?」
指を二本折って前に出す。三本と答えが有れば大丈夫だと思ったのだが――
「えっと、指です?」
「……もういい、取り敢えず何か問題が有ったら言ってくれ」
そう言った正巳はドアを開いた。
「正巳さん?!」
驚いて聲を掛けて來るヒトミに『カギ閉めて乗ってろ!』と言った正巳は、そのまま前で潰れているバンへと近づいて行った。
いくら脅して來た相手とは言っても、怪我をしていたら助けない訳には行かないだろう……そんな事を考えていた正巳だったが――
「正巳さん!」
車の中からヒトミの聲がして、そちらを振り返った。
「――ッツ!」
危機一髪だった。
振り返った瞬間、鈍を振りかぶった男が見えて、咄嗟に屈んだ。
しかし――
『"ドンッ!"』
屈んだのと同時に蹴られた。
「いっつ……」
蹴られた衝撃で倒れ、地面に顔がれた。
顔に意識を向けると、"痛み"と言うよりは"熱"をじた。
……顔が熱かった。
どうなっているのかと思い手を當てると、ぬるっとした覚があり、見ると指にが付いていた。どうやら、顔をった時に切ったらしい。
「マジかっ――」
再び蹴ろうとするきが視界に見えた為、頭を守ろうと両手をかしたのだが――想像していたような衝撃は來なかった。
代わりに……
「ぐあぁぁぁあ、足ぐぁ」
……蹲うずくまる男の姿が有った。
見ると、橫に"鉄の棒"を持った覆面の男が居た。
その男は右手に鉄の棒を持ち、左手に拘束バンドを持っていた。
「大丈夫ですか?」
正巳の視線に気が付いた男が、こちらを気遣って心配そうにして來た。
二度見して気が付いたが、男は蝶ネクタイにスーツ姿だった。
「ああ、大丈夫だ。若干熱いが、痛みはまだないな。意識もはっきりしてるし顔をっただけだろう。それより、車に乗って居た男達は――」
そう言って、男が歩いて來たであろう方に視線をやった。
すると、男は一瞬驚いた様子をみせたが、直ぐに答えて來た。
「既に拘束、収容済みです。殘るは後ろの車両の者達ですが……どうやら、この男以外は逃げた様ですね……」
淡々と報告してくる男に対して、言った。
「確認するが――」
「ええ、大丈夫です!」
確認をる筈が、何を察したのか男が頭を下げながら言う。
「當然ですが、逃げた者共らは殘らず拘束します」
そう言ってから、『必ず大元も含めて"処理"しますのでご安心を!』と続けた男に対して、(聞きたかったのはその事じゃないんだが……)と思った正巳は、一度呼吸を整えてから言った。
「お前はコンシェルジュ――いや、"ファースト"で間違いないんだな?」
正巳がそう言うと、男は即座にひざを屈めて言った。
「ハッ! 専屬で擔當させて頂きますので、よろしくお願いします!」
聞きたい事は沢山あったが、今そんな事をして居る暇はないだろう。
「ああ、これからよろしく頼む。それで……こいつらはどうするんだ?」
蹲って足を抑えている男に目をやりながら聞いた。
すると、手元から端末を取り出し確認しながら言って來た。
「あと三分程で到著するようです。ここは殘りの者に任せておけば大丈夫ですので、正巳様の手當を行い、泊まられている宿へ向かうのは如何でしょうか」
そう提案して來た男に対して反的に頷くと、男は『それでは失禮して』と言ってから、懐から出した布で正巳の顔を拭いた。
……若干染みたが、それ程痛くは無かったので黙っていた。
気付くと消毒が終わり顔には薄くクリームが塗られていた。
「これは?」
「それは保護クリームでして、やがて半明のとなり傷口が保護されます」
……なるほど、便利なクリームらしい。
心してペタペタと顔をっていると、ファーストは音もなく歩いて行き、男を引きづって來た。どうやら気付かぬに、足を引きずって男が逃げ出していたらしい。
逃げていた男を捕まえ、拘束したファーストが戻って來た。
片手で引き摺っている事を見る限り、中々な剛腕のようだ。
「々お待ちください」
そう言った男に頷くと、一禮したファーストはそのまま追突したバンの後部へと男を引き摺って行った。恐らく、バンの後部には同じように拘束された男達が沢山乗って居るのだろう。
その後、男を待っている間にヒトミが車から降りて來た。
「正巳さん、あの覆面の男は大丈夫なんですか?」
「……ああ、一応味方だぞ」
正巳がそう言うのとほぼ同じタイミングで男――ファーストが戻って來た。
そして、ヒトミを見て言った。
「ご挨拶が遅れました。正巳様専屬・・コンシェルジュの"ファースト"と言います。お見知りおきを」
そう言って、綺麗なお辭儀をしたファーストに対して、ヒトミは『え? 専屬コンシェルジャーですか……?』と訳の分からない事を言っていたが、『サポートしてくれる人だよ、コンビニとか』と言うと、やっと理解したみたいだった。
「私は、ヒトミ――神楽坂ヒトミです。私は……正巳さんのコンビニの店員で、正巳さんには借金をしています! えっと、後は……そうだ、私は正巳さんと同じ宿に泊まっていて、この前は正巳さんにおふ――ンゥ……?!」
これ以上好きにしゃべらせていると、変な事を口走りそうだったので慌てて口を塞いだ。
「――まぁ、自己紹介はこれ位で良いだろう……ほら、來たみたいだしな」
正巳がそう言うと、こちらに向かって來ていたヘリを見てファーストが言った。
「そうですね、私も正巳様の事は々と聞きたいですが、先を急ぎましょう」
何故か急いでいる様子のファーストを見て、何となく察した正巳は、一言だけ言った。
「面倒毎は先に済ませた方が良いぞ?」
すると、申し訳なさそうに一禮したので、『先に車に乗っている』と言った。
男が『謝します』と言った言葉と、そのホッとした表を見て(どうやら男が"置いて行かれる"
と思っていたらしい)と気が付いた正巳は、何となく男の事を(嫌いになれなそうだなぁ)と思っていた。
車両に戻った正巳とヒトミだったが、ヒトミが不思議そうな顔をしていたので聞いてみた。
「どうした?」
するとヒトミは、『あのですね……』と前置きをしてから言った。
「どうしてあの人は、顔を隠したままだったんでしょうか」
珍しく真っ當な疑問を抱いていたヒトミに心した正巳だったが、ヒトミが首を傾けながら『……恥ずかしがり屋なのでしょうかね』と言ったのを聞いて『それはお前だろ』と突っ込んでいた。
「恐らくはその仕事の関係上、安易に顔を出せないんじゃないか?」
正巳がそう言うと、ヒトミは『まさかぁ、そんな探偵とかじゃないんですから』と言って笑っていた。しかし、そんなヒトミを見た正巳は、心の中で(いや、実際に俺は何から何まで探偵真っ青な監視をされていたらしいんだがな……)と呟いていた。
その後、他ない話をしていた正巳達だったが、前後を塞いでいたバンが撤去された事で、話題は再びコンシェルジュへと移っていた。
「それじゃあ、正巳さんがコンビニの件で雇ったんですか?」
「まぁ、そう言っても間違いじゃないな……」
何度説明しても、いまいちちゃんと理解しなかったヒトミにため息を付きながら、取り敢えずは何でも良いか、と言う気分になっていた。
……それに、ある意味間違えではない。
「そうなんですね! それじゃあ、コンビニのプロですね!」
何やら変な方向に飛躍し始めたヒトミに対して、『そうだなー』と適當に返事をしていると、バンをレッカーして行った向こうから、男が歩いて來るのが見えた。
「……取り合えず、俺とあいつが話してる間は質問しないでくれよ?」
「え、何でですか? あ、仲間外れですか?」
し哀しそうな顔をして、見當外れな事を言い出したヒトミに対して、『お前が口を挾むと盛大に線しそうだからだ』とは言えなかったので、當たり障りなく説明した。
「そう云う事じゃなくてな……あれだ、俺が面接をするからヒトミはそれを聞いていて、全て話が終わってからヒトミも気になった事を聞いてしいんだ」
すると、し考えてからこう言って來た。
「なるほど、面接の"助手"ですね!」
ニコニコとしている顔を見て、答えた。
「あぁ、そうだな」
ヒトミは相変わらずし"天然"だった。
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