真夏の風が吹く橫浜港を、荷を持たない一人の長の外國人男が歩く。金髪のスポーツ刈りに白なが特徴的な男、ジョニー・アンダーソンの背後に金髪ショートカットのが現れたのは、彼が船を降りてから數分後のことだった。

用のスーツを著たは、何の前れもなく、ナイフを取り出し凄い速さで外國人に突進する。

涼しい風を忘れさせるような殺気をじ取った男は、後ろを振り向くことなく右へ飛ぶ。

完全に避けられた金髪は、軽く舌打ちして、再びナイフを握った。それよりも早く、ジョニーは、偶然転がっていた鉄パイプを手にして、の目の前に姿を曬す。

白い歯を見せ笑うジョニーは、の右手の甲を鉄パイプで毆り、ナイフを落とさせた。

ナイフを遠くまで蹴飛ばした時、彼は港のコンビナートの屋上から、もう一つの殺気をじ取る。

その場所では、うつ伏せの狀態で黒のライダースーツを著た、茶のショートカットの若いがライフルのスコープ越しに、標的の顔を捉えている。引き金が引かれようとした時、突然鉄パイプが中を舞い、ライフルに命中した。

「もう猿芝居は沢山だ。ラグエル」

聲を荒げる外國人へ視線を向けたは、自分の頬を引っ張り、変裝用のマスクを剝がす。それによって、テロ組織、退屈な天使たちのメンバー、ラグエルの素顔が浮かんだ。

「久しぶりです。レミエル。見事でしたよ。たまたま落ちていた鉄パイプを武にして応戦する姿は。暗殺者の勘は鈍っているのではないかと思ったけれど、そんなことはなかったようですね」

ジョニーは自分のコードネームを呼ばれ、鼻で笑う。

「この変態。に変裝する必要はないんじゃないか？」

ジョニーの最もな意見にラグエルこと澤春樹は苦笑いする。

「ごめんなさいね。そういう気分だったので。一応いつものスーツは、車の中にありますから」

「遂にあっちの世界に目覚めたのかと思った。ところで、コンビナートの屋上にを潛めているスナイパーは、ラジエルか？　あの殺気の消し方は彼特有のだ。まさか本當に殺す気で襲ったのか？」

「はい。暗殺者の勘が鈍っていたら殺しても構わないという、あのお方からの命令です」

ラグエルの微笑みとは裏腹に、レミエルは舌打ちをした。

「相変わらず悪趣味な野郎だ。それで七年ぶりに組織を復活させた理由を教えてもらおうか？」

「それが分かったら苦労しませんよ。あの方からの命令で、あなたを日本に呼び戻したんです」

「そうか」

短くレミエルが答え、ラグエルは前方に停車する車に向かって歩く。丁度その時、ラジエルは、ライフルを片付けていた。

遅れてレミエルは、仲間が運転する白のランボルギーニ・ガヤンドの助手席のドアを開け、乗り込む。

一方のラグエルは、車外で男のスーツに著替えた後で、運転席に乗り込んだ。

「ラジエルはいいのか？」

助手席に座るレミエルが尋ねると、運転席のラグエルは首を縦に振った。

「この車は二人乗りですし、彼はバイクでアジトに向かいますから。それでは向かいましょうか？　アジトに」

「そうだな」

ラグエルは自車のキーを回し、発進させる。

走行開始から數十分が経過した頃、二人を乗せた車は首都高速を走っていた。カーステレオからはラジオのニュースが流れる。

『次のニュースです。平二十一年、橫浜で起きたショピングモール無差別殺傷事件の被疑者、村上浩一のやりなおし裁判が、昨日行われました。この事件は、無差別で買い客九人をナイフで切りつけた事件で、巡回中の警察一名が取り押さえようとして死亡。八人が重軽傷を負いました』

「注目のニュースですね」

運転中の澤の呟きを聞き、ジョニーは首を傾げる。

「どういうことだ？」

「三年前、現行犯逮捕された村上浩一のからは、覚せい剤の分が検出されたんです。その覚せい剤の出処が、法廷で明らかになるかもしれません」

「お前が下らないことに注目するとはなぁ」

「その裁判の擔當弁護士が、僕の馴染でしたので。そうじゃなかったら、こんなニュースには注目しませんよ」

高速道路を走行中する自車は、サービスエリアに停車する。適當な駐車場に車を停め、二人は自車から降り、トイレに向かい足を進めた。

トイレの前には、多くの人々が集まっている。特に子トイレは、平日にも関わらず行列になっていた。その様子を橫眼で見ながら、二人は男子トイレにろうとする。丁度その時、トイレと併設する、お土産の販売店の自ドアが開き、黒の帽子を深く被った、黒のジャージを著た小太りの男が姿を現した。

その男の瞳が、子トイレの行列を捉えると、彼は白い歯を見せ、ジャージのポケットの中からサバイバルナイフを取り出す。

その男は、左手でナイフを握り、行列に向かい走る。突然の出來事に、達は悲鳴を出す。

その様子は、男子トイレにろうとした二人の目にもしっかりと映った。白晝に現れた通り魔は、他のには目も暮れず、一人のツインテールのの腹を、サバイバルナイフで刺す。

腹からが飛び散り、の悲鳴も強くなる。通り魔は、柄が三つ連なった球で覆われている刃を地面に落とし、何事もなかったように、自車に乗り込み逃走した。

その一部始終を、列の最後尾で見ていた黒髪を肩の長さまでばした、二重瞼のは周囲にいる人々に呼びかける。

「救急車と警察を呼んでください」

そのは、塗れで橫たわるに近づき、鞄から使い捨ての手袋を取り出し、それを裝著する。その後で彼は、慣れた手つきでハンドタオルを取り出して、被害者のの腹部を圧迫する。

「救急車が來るのは十分後です」

攜帯電話を手にした中年は、応急手當をするに伝えた。それを聞き、は安堵した表を見せる。

その様子を男子トイレの前で見せられた澤は、彼の行に心する。一方でジョニーは、地面に殘された兇を、瞳に焼き付けた。が付著したナイフの柄は三つ連なった球で覆われている。特徴的な柄は金に輝き、球にはケルト文字のような模様が施してある。この特徴的なナイフに、ジョニーは心當たりがあった。