《歩くだけでレベルアップ!~駄神と一緒に異世界旅行~》第275歩目 「してる」と勝利の神!
前回までのあらすじ
あれー? 私もなのに優しくされてないようなーr(・ω・`;)
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人は酔うと様々な反応を見せる。
所謂、『~上戸』というのがそれだ。
たとえば、俺なんかは『空上戸』。酔ってもあまり顔に出ないことを指す。
當然、呑みすぎた場合はその限りではない。そういう経験はあまりないけど。
しかし、許容範囲を越えなければ、基本的に顔が赤くなることはほとんどない。
たとえば、アルテミス様なんかは『底抜け上戸』。大酒呑みのことを指す。
それに、今回の一件で『上戸』の気質もあることが判明した。潤っちゃうようだ。
男には並々ならぬ拘りがあるようだが、の場合は來るもの拒まずといったじらしい。
そして、ニケさんは───。
「......ぐす......あゆむしゃまはひどいでしゅ......すん」
スッキリしてしばらくした後、酔いが悪い方向に回ったのかもしれない。
突如、『機嫌上戸』から『泣き上戸』へとシフトしたニケさん。
たまに、こういう酔い方をする人を見掛けることがある。
始めは『笑い上戸』な面を見せていたのに、突如『怒り上戸』になってキレ出す人。
始めは『世話上戸』で気遣いできていたのに、突如『拗じ上戸』になって絡み出す人。
総じて、周囲からは「ウザい」・「面倒臭い」と煙たがられるタイプの人達だ。
「わたしは......ぐす......こんなにもあいしているんでしゅよ!!」
「おぅ。『拗じ上戸』の気質もあるのかな?」
ニケさんもどうやらそのタイプだったらしい。
泣いているのか怒っているのか定かではないが、拗ねているのは確実だ。
(泣いたり、怒ったり、大変だなぁ)
ただ、『幹事の舞日さん』とまで謳われた俺を舐めないでしい。
普通の人なら敬遠されるタイプでも、俺からしたら見慣れたものだ。
こんなもの全く嫌悪が沸かない。むしろ「微笑ましいな」とさえ思う。
ちなみに、良い上戸から悪い上戸への変化は多々見けられるが、その逆は滅多にない。
恐らく、深く酔っているのが原因で、それがこのタイプの厄介なところとも言える。
「どうしたんですか?」
俺は背を向けて拗ねているニケさんの頭を優しくでながら尋ねた。
基本的に酔っぱらいの対処は放置が賢明だが、相手はニケさん。そういう訳にもいかない。
「やめてくだしゃい!」
「いててて......」
「あ......」
手を払い除けられるが気にしない。痛いけどさ?
相手は酔っぱらいだ。その場の勢いというものもある。
「それがご希なら今すぐやめますが......本當にいいんですね?」
「......」
「分かりました。では、やめます」
「も、もっとしてくだしゃい!」
俺の前では甘えん坊なニケさんのこと、思った通りの答えだ。
そして、この甘えん坊な部分が確認出來たのなら、それはつまり聞く耳を持っているということ。このまま荒れている原因を聞き出すのは、そう難しいことではない。
「それで、どうしたんですか?」
「......」
「俺はバカなので言葉にしてくれないと分かりません。何が酷いのか、どうしてしいのかを教えてください」
「......」
しばらく沈黙が続いた後、ニケさんがその重い口を開いた。
「......ぐす......あゆむしゃまはひどいでしゅ......すん......だって───」
■■■■■ (side -ニケ-)
時は夕食時にまで遡ります。
そこで、アルテミス様から歩様へ「晩酌に付き合え」との命令おさそいが......。
この後はお風呂と就寢のみ。
歩様も斷るに斷れずといったじで了承されました。
そこまでは良かったのです。
當然ながら、私もご一緒させて頂くつもりでしたから。
いくら晩酌とはいえ、歩様とアルテミス様を二人きりになどできませんので。
(※インカローズを始め騎士団員達のことは眼中になし)
ですが、アルテミス様からはまさかの拒絶。言葉を失うどころか、「來なくていい」・「ニケちゃんが居ると酒が不味くなる」・「來られるものなら來てみなよw」という安い挑発に頭が沸騰、アルテミス様の思通り易々と挑発に乗ってしまいました。
後から冷靜になって考えてみると、なんというくだらない挑発であったかと。
アテナ様からはよく「ニケは豬武者だよねー(o゜ω゜o)」と注意されておりましたのに......。
歩様も苦笑されていましたし、己の未さに赤面してしまいそうです。
ただ、そんな私の落ち込む姿を見たせいでしょうか。
魔限酒造に向かう道すがら、歩様がソッと手を握ってくれました。
こういう歩様の何気ない優しさがとても嬉しかったりします。心暖まる思いです。
そして、同時に......いえ、何でもありません。
「そういえば、ニケさんとこうして一緒に呑むのは初めてですよね。呑めるんですか?」
「もちろんです。嗜む程度ですが」
「おぉ! でしたら、今度は二人きりで呑みましょう。楽しみです」
「はい! ご一緒させて頂きます!」
本當、歩様は私のしい言葉を、しいタイミングで仰ってくださいます。
もちろん、一番しい言葉は「してる」ですが張りません。時間の問題ですから。
(......)
ただ一つ、歩様には大変申し訳ないのですが、私はそこまでお酒が好きではありません。
どちらかと言うと嫌いなほうです。それでも、歩様からのおいならば斷りませんが。
そもそも、酒のどこがおいしいのか全く分からないのです。苦いだけでは?
それに水分補給をするのなら水で十分です。むしろ、お酒を呑むことで思考が鈍る恐れがある點を考慮すると、好きになれる要素が全くありません。アテナ様が好むジュースであっても、の渇きが早くなる點を鑑みると、やはり水が至高にして最適解に思えてならないのです。
それでも、お酒は歩様が好まれているものでもあります。
いつかは一緒にとのおいがあることを想定して、かに呑む訓練をしていました。
本日はその果をお見せしようと思います。『勝利』の力もあるので大丈夫でしょう。
「何だかやる気ですね、ニケさん。ニケさんも酒好きで嬉しいです」
「え? そ、そうですね。......こほん。歩様が潰れてしまわれたらお任せください」
「その時はお願いします。ですが、そう簡単には潰れませんよ!」
「......」
ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
何だか誤解させてしまったことに心を痛めながら、決戦の場へ向かいました。
■■■■■ (side -ニケ-)
いざ始まった深夜の晩酌會。
そこで、衝撃のルールを言い渡されてしまいました。
「あらかじめ言っておくけど、回復魔法も加護も使っちゃダメだよ」
「え?」
まるで私の考えなどお見通しだと言わんばかりのこのルール。
アルテミス様の底意地の悪さに腸が煮え繰り返そうな思いです。
ましてや、「そうそう、ニケちゃん。たとえアユムっちの目は誤魔化せても、あたしの目は誤魔化せないからね? こっそり『勝利』の力を使おうとしないことだね。あひゃひゃひゃひゃひゃw」と、わざわざ不必要な念を押してくる始末。
きっと、敢えて念を押してきたに違いありません。
歩様の前で恥を掻かせるおつもりだったのでしょう。
とても、あの清廉潔白なアテナ様の姉君様とは思えない悪辣な所業です。
「そもそもさ、回復魔法や加護を使うなんて邪道もいいところなんだよ。酒に対して失禮だと思わないかい?」
何が失禮なのかがさっぱり分かりません。
お酒などに敬意を払うこと自が意味不明です。
別にアルテミス様のご趣味やご意見に異を唱えるつもりなど頭ありません。
というか、興味そのものが全く無いのです。お好きにどうぞとしか。
ただ、敬意を払うべき対象ぐらいは真面目に選んだほうが良いと申します。
ですが───。
「まぁ、本來はそれが自然な狀態ですからね」
「!?」
歩様のまさかの賛同で、の奧がチクリ。
お優しい歩様のことですから、アルテミス様に気を遣われたのでしょう。
それは分かるのですが、それでもアルテミス様に賛同されたという事実がとてもショックです。
仮に私がこのルールに異を唱えれば、歩様は私を支持してくれるでしょうか?
「あ、あの───」
「お! さすがはアユムっち! 話が分かるねぇ!」
「ですが、ヤバいと思ったら引き上げさせてもらいますからね? 明日(のデート)もあることですし」
「構いやしないよ。何も今日だけに限った話じゃないからね。これから毎日が宴會さ。あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「さ、さすがに毎日はきついなぁ......ん? ニケさん、どうしました?」
「い、いえ。何でもございません」
既に遅かったようです。
テンポと言いますか、どうにもお二人のリズムになかなか馴染めません。
こんな時、よく思います。
アルテミス様の図々しさが恨めしいと同時に羨ましい、と。
(私も、もっと素直に甘えられたら......)
そこから先はまさに地獄の始まりでした。
しもおいしいとじないお酒を延々と呑む羽目になったこともそうですが───。
「それにしてもさ、アユムっちは回復魔法無しでも結構強いんだねぇ」
「アルテミス様ほどではないですけどね?」
「そんなに譽めるんじゃないよ。照れるじゃないか」
「え? 別に譽めた訳では───」
「あん? 何か言ったかい?」
「いやー。アルテミス様は凄いなー(棒)」
「そうだろ。そうだろ。あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「......」
歩様、とても楽しそうですね。
そういえば、ドワーフと呑んでいた時もそうでした。
(もしかしたら、私と一緒に居る時よりも楽しんでおられるのでは......)
いやいやいや。弱気になってはダメです。
今、歩様が見せられている笑顔は、私とのデート中にも向けられているものです。
アルテミス様やドワーフごときに、特別にお見せになられているものではありません。
ですから、これしきのことで弱音を吐いていては歩様にご迷をお掛けしてしまいます。
ただ、一つだけわがままを言わせて頂けるのならば、私にだけ見せる特別なものであってしかったです。
(ハァ..................。歩様は本當に罪なお方です)
その後も、私だけ會話に參加出來ずに晩酌會は続いていきました。
あまり言いたくはないのですが、私だけ存在を忘れられているような気がしてなりません。
その寂しさや怒りからか、杯を重ねるスピードが徐々に上がっていき───。
「何か酒に強いでもあるのかい?」
「ってほどではないですが、日本では幹事役を押し付けられてばかりでしたからね。それが原因でしょう」
「幹事役? なんだい、それは?」
「酒の場を用意したり、みんなが楽しく呑めるよう上手く取り計らう仕事のことです」
「ふーん。何だかつまらなそうな仕事だね。好き勝手に呑めないじゃないか」
「それはそうですが、無理矢理呑まされることもあるので、割と強い人でないと務まらないこともあるんですよね」
「なるほどねぇ。じゃあ、そいつらに謝しないと。最高神あたしからの悪戯おみちびきがありますようにってねw」
「謝、ですか?」
歩様が首を傾げたように、私も首を傾げてしまいました。
話の容からして、歩様に幹事役という厄介事を押し付けていた件について怒ることはあっても、謝しなければならない理由が全く思い當たりません。私がその場に居たら、そのような無禮者どもは泡沫の如く消し去ってしまうというのに。
(お酒の呑み過ぎで、遂に頭がおかしくなられたのでは?)
それに、明日は季節外れの大雪が振るかもしれません。
あのアルテミス様が謝をするとか、耳を疑うような信じられない言葉でした。
ただ、そこから続いた言葉は更に耳を疑うような容だったのです。
「だって、そうだろ? そいつらがアユムっちに幹事だっけか? それを押し付けていたからこそ、今のアユムっちがある訳だ」
「はぁ、それが何か?」
「相変わらず鈍い男だねぇ。つまりは、こうしてあたしと一緒に呑めるようにアユムっちを鍛えてくれたってことなのさ。分かったかい?」
「なるほど。ものは考えようですね」
「ぶッ!?」
あ、歩様!? そこはハッキリと否定してください!
仮にアルテミス様の前で否定しづらいのなら、せめて笑って誤魔化すとか!!
誰にでもお優しい歩様の心が、たまに恨めしくじます。
「だろ? もうちょい踏み込むとさ」
「まだあるんですか? アルテミス様はアテナ級の楽天的思考ポジティブさの持ち主ですね」
「うるさいんだよッ! というか、何気にバカにされた気がしたんだけどねぇ、アユムっち?」
「き、気のせいです。続けてどうぞ」
「ッたく。いいかい? アユムっちが幹事役を押し付けられていたのは、もしかしたらさ......(チラッ)」
「!?」
な、なんでしょうか? こののざわめきは......。
言葉の先が気になる一方、聞きたくないという思いもあります。
聞いてしまったら必ず後悔する、そんな気がしてならないのです。
それに、アルテミス様の意味深な一瞥も気になります。
あれは明らかに何かを企んでいる証拠。
しかも、そのターゲットが私であるという意味です。
(私を除け者にして歩様と楽しんでおられながら、更なる追い打ちを掛けてこられるとか......)
不思議なもので、一度のるつぼに嵌まってしまいますと、そう簡単には抜け出せなくなってしまいました。
(もしかしたら、もしかして......アルテミス様は私の歩様を奪おうとしている?)
イライラとともに、ドス黒いが芽生えてくるのが分かります。
何とも言い様のないが、抑えきれないが、中を駆け巡り始めました。
(殺す......殺す......絶対に殺す......私の歩様を奪おうとする愚か者は確実に殺す......)
ですが、相手は最高神様です。さすがの私も手が出せません。
それに、萬が一そんなことをすれば、アテナ様の名に瑕が付いてしまいます。
私は「下界でならアルテミス様であっても殺せる」という自分でも信じ難い願かんじょうを必死に抑え、ぶつけようのない怒りを杯を重ねることで我慢しました。
ただ、お酒が嫌いで『勝利』の力にも頼れない私はとても無力で───。
「あたしと出會うためだったのかもね。どうだい? こう考えると、ちょっとした運命をじないかい? あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「なッ!?」
アルテミス様のその言葉を最後に、私の意識はぷっつりと途切れてしまいました。
■■■■■
失敗した。ニケさんが拗ねている理由を聞いて、まずそう思った。
俺としては、ニケさんを除け者にしていたつもりは全くなかった。
というのも、人には様々な呑み方が存在する。
たとえば、アルテミス様のようにドンチャン騒ぎを好む人。
こういう人の場合は、俺もまた一緒になって酒宴を楽しむ。
たとえば、俺のように一人で靜かにしっぽりと呑むのを好む人。
こういう人の場合は、酒の空き狀況を確認しつつ、なるだけ一人にしておく。
たとえば、後輩の須藤さんのように酒がメインではなく會話に花を咲かせたい人。
こういう人の場合は、決して手持ち無沙汰にならないよう配慮を心掛ける。
などなど、『幹事の舞日さん』とかに恐れられて以降、その人の好むスタイルに合わせて上手く取り計らってきた自負がある。
當然、今回もそのつもりでいた。
まず、ニケさんはお酒が好きだと事前報を得ていた。
次に、黙々と杯を重ねていたことから、會話よりも酒が好きなのだと判斷した。
以上のことより、俺と同じで『一人でしっぽりと楽しむタイプ』だと確信したのだ。
しかし、蓋を開けてみれば───。
「え? 酒もあまり好きじゃなかったんですか?」
「......はい。申し訳ありません。つい見栄を張ってしまいまして......」
「そう、ですか」
「あッ! ですが、ご一緒させて頂きたいと申し上げたのは本當なんです! いつか歩様と二人きりで呑める日を楽しみにしていますね?」
俺の単なる勘違い。
同じ趣味を共有できる喜びに舞い上がってしまっていたようだ。
それはつまり、ニケさん一人だけ除け者にして寂しい思いをさせてしまったということ。
しかも、晩酌の間中ずっとだ。そりゃあ、ヤケ酒をあおりたくもなるってもんだろう。
(......そうだよな。酒が好きじゃない、會話も何もすることが無い酒の席ほどクソつまらないものはないもんな)
世の上司諸君。
事態が落ち著いた後に飲み會を企畫するのは大いに結構。
だが、上記のことをよくよく味して開催するようにしような。
幹事の舞日さんとの約束だぞッ☆
閑話休題。
俺はいまだ背を向けているニケさんの背後に寄り添い、ソッと抱き締めた。
しだけ酔いが覚めたのだろうニケさんのが、一瞬だけビクッと反応した。
「歩様?」
「ずっと寂しかったですよね?......本當にすいません」
「......」
今の俺にはこうすることしかできない。
寂しさで埋まった心のを、心に負ったダメージを、俺の溫もりで癒していく他には。
「......」
「......」
しばし無言で抱き合う俺とニケさん。
今、ニケさんは何を思っているのだろう。
怒り? 不満? 不安? 寂しさ?......分からない。
仮に寂しいのならば、こうして抱き合うことで幾分か紛らわせることができる。
となれば、そろそろいつものように甘えてきてもいいはずだ。
俺のの中に顔を埋めてスリスリとする、いつものように。
しかし、ニケさんはいまだ背を向けたまま。
いくら背後より抱き締めているからといって、振り向けないはずがない。
(まだ寂しいのか? いや、怒っている?)
だが、怒っている雰囲気は微塵もじない。
ソッと添えられたニケさんの手が、それを証明している。
「......」
「......」
俺の手を嬉しそうに包み込む、溫かくも優しい。
(......ん?)
しかし、それとは別のというか印象も......。
どこか必死さをじ得ない、キュッと摑まれた俺の手。
それはまるで、何かに怯えているような印象さえける。
(これは不安?......そうか。不安、なんだろうな)
抱き合うことで寂しさは解消出來ても、不安な気持ちまで紛れることはないのだろう。
アルテミス様が仰っていたように、今のニケさんは本當に脆い存在なのかもしれない。
普段は華麗にスルー出來ることでも、今は周囲の言その他で一喜一憂してしまう程に。
恐らく、何気ないちょっとしたことでも不安に駆られてしまうに違いない。
(ニケさんはいつだってそうだった。俺もそろそろ決斷する時だよな)
俺はとある決意を心にめ、改まってニケさんに尋ねた。
「ニケさん、俺に罪滅ぼしのチャンスを頂けませんか?」
「罪滅ぼし、ですか?」
「えぇ。ニケさんを、彼を放置して、アルテミス様と楽しんでいた罪への罪滅ぼしです」
「いえ、歩様が謝罪される必要はどこにもございません。元はアルテミス様が───失禮しました。今のはお聞き流しください。私に・も・落ち度がありましたので、歩様は一切お気になさらず」
思わず、笑いそうになってしまった。
酔いがし覚めた影響だろう。
俺への不満は完全に消え去っている。代わりにアルテミス様への不満が隨所に出ているが。
しかも、必死にそれを隠そうとはしているものの隠し切れていない辺り、相當ご立腹なようだ。
だが、そんないじらしい姿を見せられたからと言って、引き下がる訳にはいかない。
「まあまあ、そう言わずに。罪滅ぼしをしたいという俺の気持ちも汲み取ってくださいよ」
「いえ、本當に歩様が謝罪される必要は───」
「なんと! 今でしたら出大サービス!」
「!?」
「どんなお願い事も一つだけ必ず葉えてあげますよ? 俺に何かお願い事があるんですよね?」
「ほ、本當ですか!?」
驚きのあまり、ニケさんのがぐるんと反転。
ようやく、ニケさんのしい顔を拝むことが出來た。
「やっと俺の顔を見てくれましたね。嬉しいです」
「!?」
目と目が合った嬉しさから、無意識にニケさんのを軽くついばんだ。
しいも気にはなるが、今はそれ以上に面と向かって話せることが何よりも嬉しい。
「い、いきなりだなんて......嬉し過ぎます」
酒酔いで帯びた朱とは異なり、桜に頬を染めるニケさん。
かわいいこと言ってくれるなぁ。
おら、なんだか意地悪したくなってきたぞ。
「じゃあ、お願い事はもう葉った、そういうことでいいですね?」
「だ、だめです! それとこれとは話が違います!」
「分かっています。冗談ですから」
「もう、歩様ったら。そういう冗談は好きではありません」
と言いつつも、ニケさんの顔はどこか弛んでいる。
不安はまだ解消されてはいないだろうが、迫した空気は無くなったと見ていいだろう。
「では、お願い事をどうぞ」
「あ、あの、本當に何でもいいのですか?」
「えぇ、どうぞ」
既に覚悟は決めている。
ドンとこい! の神である。
そもそも、俺の考え方が間違っていたのかもしれない。
時間だなんだと言い訳をして、今の今までニケさんに明確な気持ちを伝えていなかった。
ニケさんは俺の理想のであり、彼であるのにだ。
一方、親はあってもなど全く無いアテナなんぞが婚約者(仮)になっている。
実際、ニケさんがそのことについてどう思っているのかは分からない。
だが、なくとも良いを抱いているとは到底思えない。いくらアテナに狂信的でもだ。
彼には気持ちを伝えず、他人が婚約者(仮)。
こんな訶不思議な狀況、誰だって不安にもなることだろう。
特に、一途過ぎるニケさんならば尚更のことだ。
俺はその點についても配慮してあげるべきだった。
だから、俺はもう躊躇わない。
ニケさんがむなら、ハッキリと伝えようと思う。
───している、と。
「うーん。どうしましょう」
「あれ?」
しかし、ニケさんからは思ったのとはし違う反応が返ってきた。
てっきり、ニケさんのお願い事とは、この言葉だと思っていただけに軽い衝撃をけた。
(うーん? ニケさんがしようとしていたお願い事は別にある? 他になんかあるか?)
ハグは済んだ。キスも済んだ。好きだとも伝えてある。
しているとはまだ伝えていないが、それとは違うようでもある。
(それ以上となると......まさか、な?)
ある事が頭を過るが、すぐにその雑念を振り払った。
とても嬉しいことだし、大歓迎したいところだが、さすがにそれはないだろう。
あのニケさんが、慎ましくておしとやかな、あのニケさんからは全然想像できない。
俺は有り得ない妄想で鼻の下をばしつつ、ニケさんからのお願い事を待った。
「で、では、ここはやはりの言葉を囁いてしいです」
まぁ、そうだよな。どうやら俺の考え過ぎだったようだ。
先程のは迷っていたのではなく、恐らく遠慮していたのだろう。
ニケさんは慎ましい格だからな。うんうん。
「の言葉ですか? それはつまり「好きです」と?」
「むぅ! 歩様? 分かっていて、わざと仰っていますよね?」
「あははは。冗談ですよ、冗談」
「歩様は意地悪です!」
こういうやりとりがとても幸せだ。
ニケさんも敢えて乗ってくれていることがよく分かる。
「......」
「......」
軽口を終えると、目と目が自然に重なり合う。
どちらともなく吸い寄せられるように求め合うと。
これはあくまで前菜のキスに過ぎない。メインはこの後。
「歩様、私のことしていますか?」
「しています。他の誰よりも深くずっと」
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後書き
今日のひとこま
~アテナ様と永遠に~
「ニケー、なーんかご機嫌だねー( ´∀` )」
「これはアテナ様。そのように見えますか?」
「うんー! 顔がにやけてるよー! なにかあったー(。´・ω・)?」
「そ、その、申し訳ありません。アテナ様であろうとです」
「え......r(・ω・`;)」
「大変申し訳ありません。私の心のに留めておきたいことですので」
「どーしてもダメー?(´;ω;`)」
「うッ......。ご、ご容赦頂けないでしょうか?」
「朝っぱらからうるさいぞ、アテナ。お前は靜かにしていられない構ってちゃんなのか?」
「こらー! 歩のせいでしょーヽ(`Д´#)ノ」
「はぁ? なにが?」
「私のニケがかくしごとしてるー! 歩のせいでしょーヽ(`Д´#)ノ」
「黙れ、駄神! 俺のニケさんだ! 勝手にお前のにするな!」
「歩様......嬉しいです」
「手放すつもりは全くないので當然です。というか、アテナはいい加減にニケさん離れをしろよ。將來的に必要だろ?」
「やーだよー! あーははははは( ´∀` )」
「あの、歩様」
「どうしました?」
「私としましても、アテナ様と離れるのは心配と言いますか、出來ますればまだお仕えしたく思います」
「そ、そうですか」
この主神にして、この付き神。
ニケさん、どんだけアテナのこと好きなんだよ!?
【書籍化決定】美少女にTS転生したから大女優を目指す!
『HJ小説大賞2021前期』入賞作。 舊題:39歳のおっさんがTS逆行して人生をやり直す話 病に倒れて既に5年以上寢たきりで過ごしている松田圭史、彼は病床でこれまでの人生を後悔と共に振り返っていた。 自分がこうなったのは家族のせいだ、そして女性に生まれていたらもっと楽しい人生が待っていたはずなのに。 そう考えた瞬間、どこからともなく聲が聞こえて松田の意識は闇に飲まれる。 次に目が覚めた瞬間、彼は昔住んでいた懐かしいアパートの一室にいた。その姿を女児の赤ん坊に変えて。 タイトルの先頭に☆が付いている回には、読者の方から頂いた挿絵が掲載されています。不要な方は設定から表示しない様にしてください。 ※殘酷な描寫ありとR15は保険です。 ※月に1回程度の更新を目指します。 ※カクヨムでも連載しています。
8 93負け組だった俺と制限されたチートスキル
「君は異世界で何がしたい?」 そんなこと決まっている――復讐だ。 毎日のように暴力を振るわれていた青年が居た。 青年はそれに耐えるしかなかった。変えられなかった。 変える勇気も力も無かった。 そんな彼の元にある好機が舞い降りる。 ――異世界転移。 道徳も法も全く違う世界。 世界が変わったのだ、今まで変えられなかった全てを変えることが出來る。 手元には使い勝手の悪いチートもある。 ならば成し遂げよう。 復讐を。 ※序盤はストレス展開多めとなっております
8 170最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔物の國再興記~
うっかりビルから落ちて死んだ男は、次に目を覚ますと、無限の魔力を持つ少年マオ・リンドブルムとして転生していた。 無限の魔力――それはどんな魔法でも詠唱せずに、頭でイメージするだけで使うことができる夢のような力。 この力さえあれば勝ち組人生は約束されたようなもの……と思いきや、マオはひょんなことから魔王と勘違いされ、人間の世界を追い出されてしまうことに。 マオは人間から逃げるうちに、かつて世界を恐怖に陥れた魔王の城へとたどり著く。 「お待ちしておりました、魔王さま」 そこで出會った魔物もまた、彼を魔王扱いしてくる。 開き直ったマオは自ら魔王となることを決め、無限の魔力を駆使して世界を支配することを決意した。 ただし、彼は戦爭もしなければ人間を滅ぼしたりもしない。 まずは汚い魔王城の掃除から、次はライフラインを復舊して、そのあとは畑を耕して―― こうして、変な魔導書や様々な魔物、可愛い女の子に囲まれながらの、新たな魔王による割と平和な世界征服は始まったのであった。
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8 73神籤世界の冒険記。~ギルドリーダーはじめました~
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