《ワールド・ワード・デスティネーション》12
いつ頃からだっただろうか、僕の中で海という存在はどこか変わったものになってしまっていた。
かつてあかりがそばにいた頃、僕の眼に映る瀬戸の景はもっと輝いていたはずだ。
遠くを一隻の渡船が進んでいるのが見える。
最後に船に乗ったのはいつだっただろう?
あかりと尾道を訪れた時、そういえば向島の渡船に乗った気がする。それが最後になるだろうか。
その日の、ちょうど晝のことだ。僕たちはこんな會話をした。
「お晝はどこへ食べに行こう?」
「私、お晝は食べないわ。」
「お腹空かないの?」
「えぇ。いつもお晝は食べてないの。」
ふむ。
「でもりんごは好き?」
「りんごは好き。」
「なるほど。」
僕が近くのお店でラーメンを食べている間、彼は近くの商店街でりんごを買った。
「心配なら、病院で診てもらったほうがいいんじゃないかな。」
帰りの電車の中で、僕は窓の外を流れる景に向かって問いかけた。
☝︎あかりは何も答えなかった。
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