《第一部『生存率1%の戦場』》

微細な砂粒が巻き上がる荒野。

その荒野の果ての上空でほんの一瞬、鋭い赤が閃いた。それから數秒後。

に染まったような醜い赤に輝く高エネルギー粒子砲線、その鉄槌が高速で荒野の大地に直撃した。巨大な弾が炸裂したかのように、強烈な風と衝撃が大地を無にめくり上げる。

膨大な熱量を持つ口徑十メートルを超える極大線は周囲に轟音を響かせ、その地震が全長二十キロを超える荒野――通稱『緩衝地帯』全域を激しく揺さぶる。

その一撃は、はからずも作戦開始の合図となった。

煙が立ち上る荒野、そこを超低空飛行にて突破する機影が多數。

薄灰の煙の幕を突き破って現れたのは、真っ黒な飛行の集団だ。軍事用輸送ヘリからローターを排除したような形狀の機はローターの代わりに機底部、後部からのジェット噴によって推力を得ている。

『――ブ、ブラックオメガ１、「緩衝地帯」Ａラインに侵！　て、敵指揮機械生ドレッドメタル「オール・プレス」のイグジア粒子主砲の程です。こ、ここここからはし運転が荒れますよ、指揮長っ』

張もあって普段よりも噛かみまくる、気弱そうな年縦手の聲がインカムから響く。

「荒れたって構わない。キミの役目は、ボクたち戦闘兵を一人も死なせずに現地へ送り屆けること、それだけだ。それ以外の要素は無視していい」

返事をしたのは、指揮長と呼ばれた黒髪の年だった。

彼を含め、戦闘服でを固めた年計六名は高速で猛進する機に搭乗し、開放された両舷の扉から、戦場と化した悲慘な荒野に目を向けている。

安定を捨てた高速の機の乗り心地は言うまでもなく最悪、吹きつける砂塵混じりの悪風が部に猛烈な勢いで吹き込んでくる。それに対処するために予め、防塵マスクを著用しているとはいえ、全員が顔をしかめていた。

『俺としては、余裕があれば運転にも気を遣ってほしいけどな。……ッ。おい、第二撃、來るぞッ！』

指揮長とは別の、茶髪の年が諦め混じりにため息をついた時、再び遠くの空に紅蓮の瞬き。

年たちの向かう荒野の果て、そこにそびえ立つは絶対にして全てを破壊する鉄の巨塔。天を目指すように高みへびる、全長三〇〇メートルの巨大な攻撃塔――『オール・プレス』。

それが現在、年たちが対峙している強大な敵の識別個名だった。攻撃塔の外観は白銀一だが、壁面からは無骨な黒鉄の粒子主砲やその他火が無數に突き出ていて、異様な威圧を放っている。

年たちの搭乗する機と同種の機は五十機で橫列陣形を形しながら、一斉に攻撃塔へと侵攻していた。

一撃目で角を合わせてきた『オール・プレス』の粒子砲第二撃は、味方陣形左翼を一瞬で吹き飛ばした。人間の目では追えない速度。気づいた時にはもう手の打ちようがない。

人類には生み出すことさえ難しい大熱量のエネルギー砲撃は著弾地點にいた機群を溶かし、巻き上げ、地面さえ穿つ。

兵士たちには最期のびも許されない。直徑一五〇メートルほどの範囲が一瞬にして焼失し、著弾時に広がった真紅の発は直撃を逃れた機さえ風圧で弾き飛ばした。

『ブ、ブラックオメガ23から32まで、シ、シシシグナルロストっ！　一撃で破壊されました！』

縦手から撃破報告がる。その馬鹿げた威力を橫目で見て、指揮長の年は嘆息した。

彼らが搭乗している機、正式名『機械都市侵攻用中型特殊機BO-60』――俗稱『デス・ボート』の裝甲は敵の粒子砲相手ではあまりにも無力だ。まず、設計の時點であの敵粒子主砲に対しての防は端から考慮されていない。

あの超高火力の前では対策するだけ無駄。それならば、「裝甲を極限まで薄くして最高速度を上げるべき」という捨ての設計思想のもとに、この忌まわしい『デス・ボート』は製造されていた。

戦略も戦も関係ない。生きるか死ぬかは運次第だ。

『て、敵粒子砲、今度は右翼を直撃っ……!?　ブ、ブラックオメガ40番臺、全滅を確認！』

気弱な縦手の年からさらなる狀況連絡がる。

すでに作戦開始時にいた五十機のうち、三十機以上が失われていた。

風によって地上に投げ出され、重傷を負った兵士たちは、死にたくない……死にたくない……と何度も連呼しながら、その願いとは反対に次々と死へ引きずりこまれていく。

『……本當は傷ついた人たち全員、助けてあげたいんですけどね』

地獄の様相を眺めて悲しげに呟くの聲。

だがそんな死の匂いが蔓延する戦場で、異質な高揚に包まれている者もいる。

『これだよ、これ！　私はッ！　この戦場の高揚を求めてたんだッ！　ああ、クソッタレ！　興が止まらねえよ、オイ！』

とても甘ったるい聲音で、その印象とは真逆の汚い言葉を使う。

『見ましたか、指揮長殿っ！　あの巨大なイグジア粒子砲、どんな部構造になってるんでしょうねえ！　ぜひとも分解してみたい！　解析してみたい！　ふああ、興するぅっ！』

まるで遊園地を訪れた無邪気な子供みたいに、ただただ好奇心に溢あふれた。

ブラックオメガ１のコールサインを與えられた『デス・ボート』、年指揮長率いる小隊メンバーは地獄のど真ん中でむしろ士気を上げていた。

『狂気の沙汰ですね……』

依然として、重傷を負った兵士たちを悲しげに眺めながら呟いたの言葉は対峙している鉄の巨人に向けてのものか、それとも狂戦士じみた仲間へ向けてのものか。

早くも陣形が崩れかかった『デス・ボート』の隊列に向けて、薄い赤を纏った砲を持つ、敵のエネルギー粒子主砲六門が次々と超高火力のエネルギー粒子砲線を放った。

砲撃は巨大な橫列陣形を取っていた『デス・ボード』群へ次々と直撃し、機を撃墜していく。

そして、年指揮兵たちが搭乗する『デス・ボート』に対しても真っ赤なエネルギー粒子砲線が撃ち込まれるが――。

その一撃が到達する直前、『デス・ボート』の機左舷下部から急用ブースターが激しく噴された。急激な負荷がかかり、機が弾かれたように數度スピンをして大きく右へ逸れていくのと同時、先ほどまでいた場所にエネルギー粒子砲線が著弾する。