《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第一話・2
そこは家の敷地にある大きな別室だった。
香奈姉ちゃんが、言ってた“あの場所”というのは、ここの事だ。
よく兄貴のバンドメンバーたちが練習する場所として、利用されている。
その証拠に、音楽に使うがたくさん備えつけられていた。
僕は、彼たちを案するとすぐに明かりをつける。
「ここなら楽を弾いても騒音問題にならないから、練習にはピッタリだよ」
「ここが、香奈ちゃんが言ってた“あの場所”?」
「そうだよ。ここならミーティングするにも練習するにもうってつけだよ」
近隣の家からし離れた場所にある部屋のため、騒音問題はまず起きない。
「大丈夫なの? この部屋を使っても」
「騒音問題については、特に問題はないと思う。兄貴も、バンドメンバーを連れてきては、ここで練習とかしてたから」
「そうじゃなくて」
「どうかしたの?」
僕は、思案げな表を浮かべ奈緒に聞いていた。
奈緒は、神妙な面持ちで部屋の周囲を見やっている。
「ホントにあたしたちがこの部屋を使っても問題ない? あなたのお兄さんが使うってことはないの?」
「その事なら大丈夫だよ。兄貴は、別の場所で練習してるから。最近は、この部屋を使っていないんだ」
「そっか。それなら問題はなさそうだね」
「うん。だから兄貴もこの部屋を勧めたんだと思うよ」
「それじゃあさ。早速で悪いんだけど、君のベースの腕前を見せてくれないかな」
と、子校前から香奈姉ちゃんたちと一緒にいたツインテールのの子がそう言ってきた。
あまりに突然の事に僕は
「え?」
と、その場で呆然となってしまう。
香奈姉ちゃんも、ツインテールのの子の言葉にびっくりしたのか、思わず口を開いた。
「ちょっと沙ちゃん。…いきなりそれは──」
「だって、彼がどこまでできるのか確認したいじゃん。ここなら騒音で注意されることもないから、ちょうどいいし」
「だけど、いきなりは……」
「別に構わないよ」
香奈姉ちゃんの言葉を遮り、僕は言う。
「弟くん?」
「たしかにメンバーにったのは、香奈姉ちゃんだよ。だけど初めての人にしてみれば、『この人ホントにできるのか?』って言う話だと思うし、この際仕方ないと思う」
僕は、ベースを手に取ると一度かき鳴らし、音源調整を済ませる。
「それじゃ、弾いてみるから、よく聴いててね」
そう言って、僕は演奏をし始めた。
調律よく流れるベースのみの演奏は、みんなにはどう聞こえているんだろうか。
僕自は絶好調で弾いてるんだけど、こうも靜かだと逆に張してくる。
そうこうしてるうちに、弾き終える。
「…どうだったかな?」
ご靜聴していた四人のの子は、一様に顔を見合わせていた。
「…まぁ、いいんじゃないかな」
「私は、香奈に任せるよ」
「あたしもリーダーに任せるよ」
どうやら、僕の演奏に文句はないようだ。
香奈姉ちゃんは、どうするつもりなんだろうか。
しばらく香奈姉ちゃんの反応を見ることにする。
香奈姉ちゃんは、悩むこともなく、僕に笑顔を見せて抱きついてきた。
その拍子に、香奈姉ちゃんの膨よかなが、僕の顔に當たってしまう。
「…良かったね、弟くん。今日から、うちのバンドメンバーとしてやってもらうからね」
「わかったよ。こんな僕で良ければ力になるよ。みんな、改めてよろしくね」
抱きつかれた狀態のままだった僕は、ひきつった笑顔を浮かべる。
いつもの事だが、香奈姉ちゃんに抱きつかれると何もできなくなってしまう。
抵抗して引き離すわけにもいかないし……。
僕は、香奈姉ちゃん嫌われるような事をしたくはないのだ。
香奈姉ちゃんは、すぐに僕から離れる。
「よし。そういう事だから、さっそくみんなで合わせてみようか」
「うん、そうだね」
「新人君もった事だし、今日はそんなじでいいんじゃないかな」
「とりあえず、流しのところからやってみる? あたしは別にどっちでもいいんだけどさ」
そう言って彼たちは、各々楽を持って準備し始めた。
──さて、僕はどうすればいいんだろうか。
「さぁ、弟くん。私たちに合わせてついてきて」
「う、うん。わかった」
あ……。やっぱり、僕も參加するんだね。
さっそく合わせるなんて、すぐにでも練習したかったんだな。
三人の演奏が始まると、僕はベースを手にして曲に合わせて弾き始めた。
その合奏に合わせて、香奈姉ちゃんのき通るような歌聲が部屋の中に響く。
僕の演奏は、足を引っ張っていないだろうか。
僕の中でそれだけが気がかりとなってしまうが、問答無用で曲が流れていく。
曲は3曲あって、なかば流れ作業的に演奏していった。
みんな文句一つ言わず、自分のパートをこなしていく。
それにもかかわらず、みんなの合奏は不思議と合わさって獨特な曲を生み出していった。
いずれの曲も僕には初めてであり、僕はついていくのが一杯だ。
曲が終わると、みんな揃って息を吐く。
「ふぅ……。まぁ、こんなものかな」
「流しだったけど、いいんじゃない」
「香奈も調子良さそうだったから、問題ないんじゃないかな」
「初めての人がいたけど、ちゃんと合わせてくれたからね。なんとかうまくいったね。これなら本番に間に合うんじゃない?」
「本番って、何の事?」
ツインテールのの子──沙が気になることを言ったので、僕は思案げに首を傾げていた。
すると沙は、僕の顔を見て言う。
「今度、うちのバンドメンバーでライブを行うんだよ」
「ライブ ︎ そんな事聞いてないんだけど!」
「あ……。香奈ちゃん、言ってなかったの?」
「うん。言い忘れてた。…ごめんね」
「ううん。別にいいよ。これから説明すればいいだけだし」
「あたしたちは、ライブに出る為に練習してたんだけど、メンバーが足りなくてね。…でも君が加わってくれるなら、何の問題もなく本番に向けて練習できるってわけなんだ」
「それで、どこでライブをやるの?」
「うちらが通っている學校だよ。近々、うちの學校で文化祭があるんだよね。その時に、ライブをやるんだ」
「ちょっと待って! 香奈姉ちゃんたちが通っている學校って子校だよね?」
もはや錯狀態だった。
僕は、上ずったような聲で訊いていた。
香奈姉ちゃんが通っている學校は子校で、文化祭などのイベントがある時の男の場には、チケットが必要になる。
「うん、そうだよ。たしかその日は、弟くんの通っている學校は休みだったよね?」
「うん。その日はちょうど休みだよ」
たしかに子校の文化祭の日は、男子校は休みになっているけど、それは別にその日に合わせているからでは斷じてない。
現に、子校の文化祭の日はそちらには行かず、男子校の生徒たちは各々で休みを謳歌している。
「だったら何も問題ないじゃない。私たちと一緒にライブをやろう」
「いや……。やるのは構わないんだけど、男が子校にるには場チケットが必要になるんじゃなかったっけ?」
「あ……。そういえば……。必要だったんだっけ? 場チケット……」
どうやら場チケットの事をすっかり忘れていたらしい。
香奈姉ちゃんは、呆然とした表でそう言って頰をポリポリと掻いていた。
「そういえば、チケットが必要になるんだったね。彼…その……」
「…周防楓です」
「そうそう。楓くん。楓くんがる為には、子校が発行する場チケットが必要になるんだよね」
「そんなの當然でしょ。チケットが無ければ彼がることができないわよ。そうなったら、ライブどころじゃないわ」
「そんなの、どうやって手にれるの? 僕には、子校のの子の知り合いなんていないよ」
実際、僕にはの子の知り合いはない。
香奈姉ちゃんくらいしか、の子の知り合いはいないと言っても過言ではないし。
たしか場チケットは、生徒に1枚ずつ渡されるはずだし、香奈姉ちゃんもここにいる3人のの子たちもライブをやるんだったら、大切な人に見てもらいたいはずだ。
「それじゃ、私が學校側からもらうチケットをあげる。それなら何も問題ないでしょ?」
「え……。だけどそれは、兄貴に渡すはずのものなんじゃ……」
「もういいんだ。私が隆一さんのいを斷った時點で、もう答えはでてるの。…だから、そのチケットは弟くんにあげることにするね」
「だけど……」
「ああ、もう! 男の子でしょ! ここは素直に喜びなさいよ」
そうは言われても、素直には喜べないかも……。
たしか、子校ではあるジンクスがあったような気がしたけど。
詳しいことはよくわからないが。
「うん。ありがとう。すごく嬉しいよ」
「それでいいのよ」
香奈姉ちゃんは、そう言って笑顔を浮かべていた。
「──とりあえず話は決まったところでさ、文化祭までは後3週間くらいある。その間、バイトやら文化祭の準備やらで忙しくなると思う」
「そんな事わかっているわよ。要するに、文化祭の準備をこなしながらいつ練習するか──でしょ?」
「そう! 私も出來る限り練習するつもりだけど、みんなで練習となると、なかなか時間が取れないと思うんだ」
「それは、たしかにそうね」
「そこで、しばらくの間は個人練習にしない?」
突然の香奈姉ちゃんの提案に、3人のの子たちは
「個人練習かぁ~。それも悪くないんだけど……」
「まぁ、文化祭の準備ならしょうがないか」
「みんな、それぞれ忙しくなるしね」
と、神妙な面持ちになる。
まぁ、文化祭の準備ならしょうがないか。僕も、バイトがあるし。
「それじゃ、決まりね。しばらくの間は、バンド活は個人練習にしましょう。曲合わせするのは土日にしましょう」
「わかったわ。それじゃ、土日にここに集合すればいいのね?」
「うん。それで間違いないよ」
「それじゃ、話も決まった事だし、もう一度曲を合わせしてから解散しようか?」
「賛!」
「え……。ちょっと待って。まだチューニングが──」
僕の言葉を聞くよりはやく、彼たちはすでに準備を整えていた。
「ほら、早くして」
「そんな事言われても……」
「なんなら、私がリードしてあげるから」
そう言って香奈姉ちゃんは、僕にぴったりとくっついてくる。
「そんなのいいから! すぐに済ませるからちょっと待っててよ」
照れくさくなった僕は、すぐに香奈姉ちゃんから離れた。
──まったく。
油斷も隙もあったもんじゃない。
いつまで僕を子供扱いするつもりなんだ。
こう見えても、僕は高校一年生だっていうのに……。
香奈姉ちゃんより一つ年下ってだけでこの扱いなんだから、たまったものじゃない。
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