《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第三話・5
──翌日。
普段通りに登校しようと家を出て街の方まで行くと、そこに思わぬ人が待っていた。短い髪のの子だ。彼は僕の姿を見かけるとフレンドリーに話しかけてきた。
「やぁ、楓君。おはよう。そろそろ來る頃だと思っていたよ」
誰なのかはもはや言うまでもない。北川奈緒先輩だ。
奈緒さんは、微笑を浮かべ僕の方に近づいてくる。
その姿の可憐さと言ったら、なんとも言えないほどだ。
それだけに、周りにいる他の男子生徒たちを見惚れさせるには十分なほどだった。
「おはようございます、奈緒さん。今日は一人ですか?」
と、僕は挨拶をする。
それにしても、なんでこんな場所に奈緒さんが? と、そんな疑問が頭に浮かんだが、奈緒さんの笑顔を見てすぐに理解した。奈緒さんが一人で待っていたことに。
「うん、一人だよ。楓君と一緒に登校したくてね」
「わざわざ待っててくれたんですか? この場所で」
僕は、周囲を見回してそう聞いていた。
「そうだよ。途中までだけどよろしくね」
「はい。僕で良ければ」
とりあえず昨日の約束もあったので、僕はそれに応じる。
普通に通學するんだったら、まずここで奈緒さんと出會うことはない。
なぜなら、男子校と子校では通學路が異なるからだ。
異なる通學路に、わざわざ奈緒さんが一人で待っていたってことは、答えは一つである。
奈緒さんは、ある男子生徒に僕と一緒に登下校している姿を見せびらかして諦めさせたいのだ。あの時は、香奈姉ちゃんに邪魔されたみたいだが、今日は香奈姉ちゃんはいない。
通學の途中で僕は昨日のメールのやり取りを思い出し、奈緒さんに訊いてみる。
「──それで、奈緒さんが言ってた男子生徒っていますか?」
「あたしが楓君を待ってた時には、まだいなかったよ」
「そうですか。このまま現れないなんてことは──」
「それはないと思うよ。現に──」
奈緒さんは、そう言ってを向かい側をみる。
「え?」
僕は、奈緒さんに続くように向かい側を見た。すると僕よりし背の高い男の人が、チラチラとこちらを見て舌打ちしている。どちらかというと、さわやかなイメージなイケメンなほうだ。奈緒さんと歩いている僕のことが気になるのか、なんとなく不機嫌そうだ。よく見れば僕と同じ男子校の制服を著ていた。僕と同い年なのは、言うまでもない。
「あの人…ですか? 例の男子生徒っていうのは……」
「うん……。あの男子生徒がそうなんだ。あたしなんか、何度も言い寄られてさ。どうしたものかと悩んでるんだ」
「はっきり斷らなかったんですか?」
「もちろん、はっきり斷ったよ。だけど諦めが悪くて……」
奈緒さんは、めずらしく困った様子で僕の腕に手を回して組んでくる。
するとチラチラと見ていた男子生徒は、奈緒さんの行が気にらなかったのか、こちらに近づいてきて
「北川奈緒先輩。この間の告白の返事──今日こそ、いい返事を聞かせてもらいますよ」
そんなことを言ってきた。隣に僕がいることなんてお構いなしにだ。
奈緒さんは、眉をひそめ言葉を返す。
「しつこいね、君も。前にも言ったと思うけど、あたしは他の男の子とのなんかに興味がないんだよ。だから、あたしのことは諦めてくれるかな?」
「だったら、隣にいる男は誰ですか! まさか彼氏なんじゃ……」
イケメンの男子生徒は、そう言って僕を指差す。
彼氏っていうか、“人同士”のフリを頼まれただけなんだけど、改めてそう言われるとそんな風に見えなくもない。
奈緒さんは、僕の腕をがっしりと摑んではっきりと言った。
「そうだよ、あたしの彼氏だよ。…だから、あんたと付き合うことはできない。これでわかってくれたかな?」
「そんな……」
それを見たイケメンの男子生徒は、しばらく呆然となる。
通常なら、これで諦めもつくんだけど、このイケメンの男子生徒はそうじゃなかった。
「そういうことだから、もう奈緒さんのことをしつこくつきまとうのはやめてくれるかな?」
僕がそう言うと、男子生徒は
「…いいや。俺は諦めないぞ。諦めてたまるか! …俺は、絶対に北川先輩を振り向かせてみせる! 見てろよ!」
捨て臺詞のようにそう言って、そのまま走り去っていった。
「──良かったんですか? あれで……」
しばらく呆然としていた僕は、奈緒さんの方を見て口を開く。
「ん? まぁ、とりあえずはね」
奈緒さんは、そう答える。
「また言い寄ってくるんじゃないんですか?」
「だから楓君がいるんじゃない」
「あ……。そっか。それで僕と“人同士”のフリを頼んできたんですね?」
「そういうことだよ。なかなか察しがいいじゃない」
「誰でも気づくと思うけど……」
「まぁ、とにかくそういう事だから、しばらくの間頼むよ」
これは、頼まれた方は大変だな。
やれやれ……。仕方ない。
「わかりました。…できる限りのことはさせてもらいますね」
僕は、辟易してそう言っていた。
それにしても、誰なんだろう。
自己紹介もなかったし。
まぁ、同じ男子校の生徒だから、そこで出會う可能は高いとは思うけど。
「うん。頼りにしてるよ。“弟くん”」
奈緒さんは、そう言って微笑を浮かべる。
そんな頼りにされても、この僕がどこまでできるかわからないのに……。
頼りにしてくる以上は、それなりのことはしなければいけないんだろうな。
僕は、「はい」と笑顔で返していた。
「──それじゃ、あたしこっちだから。學校帰りも、よろしくね」
「わかりました。それじゃ學校帰りにまた──」
そう言って奈緒さんと途中で別れ、しばらく歩いていると通い慣れた道に差し掛かる。ここを歩いていくと男子校にたどり著くのだが。
相手は僕が一人になった時を狙ってきたかのようだった。
「──おい」
言うまでもなく例の男子生徒が僕に近づいてきて、不機嫌そうな態度で聲をかけてきたのだ。
「何?」
「お前。北川先輩と付き合っているって本當なのか?」
「誰から聞いたの?」
僕は、わざと思案げな表で聞き返す。
どうやら、奈緒さんにしつこく際を迫っているのは彼のようだ。
「北川先輩がそう言っていたんじゃないか! どこまでシラをとおすつもりだ!」
「そうなんだ。まぁ、北川先輩がそう言うんなら、間違いはないんじゃないかな」
「君はなんていう名前なんだい?」
と、男子生徒から名前を聞かれると、僕は
「人に名前をたずねるときは、まず先に名乗るのが禮儀だと思うけど」
そう言葉を返す。
同じ學年だとは思うけど、クラスが違うから名前はわからない。
奈緒さんに告白した時も名乗らなかったらしいから、ここで名前を知っておくのも悪くないと思ったのだ。
すると男子生徒は、めんどくさそうな表を浮かべる。
「どうしてお前なんかに名前を教えなければならないんだよ。俺が名前を聞いてるんだから、素直に名乗れよ」
「いやいや。そっちが名乗るまでは、僕は名乗る気はないよ」
僕は、辟易した様子で言う。
男子生徒は、僕のその態度が気に食わなかったのか
「図に乗りやがって、この──」
そう言って、僕に摑みかかろうとする。だが──
「──おはよう、周防。何やってるんだ?」
と、親友の風見慎吾が後ろから話しかけてきた。それは男子生徒からしたら急な出來事だったのかもしれない。
男子生徒は慎吾を一瞥するとギョッとしたような表を浮かべ、サッと僕から離れる。
僕は後ろを振り返り、そこにいた慎吾に挨拶した。
「おはよう、慎吾。彼が、僕に話があるらしくてさ。何の用なのか聞いていたんだよ」
「そうなのか。それで、何の用なんだ?」
慎吾は、微笑を浮かべ男子生徒を見る。
男子生徒は、引きつった表を浮かべると
「…何でもない。話はこれで終わりだ」
そう言って、先に學校にっていく。
慎吾と僕は、無言でその男子生徒を見送る。
しばらくして
「何だったんだ、あいつ?」
と、慎吾は思案げな表で僕に訊いてきた。
慎吾の姿を見た途端に、相を変えたのだから答えは明白なんだけど、僕はわざとらしい笑みを浮かべ
「さぁ……。何なんだろうね」
と答える。
慎吾は僕よりも背が高く、格もいい。だから実力行使では歯が立たないと思ったんだろう。
それに比べて僕は、気弱でけなくて──
「──とにかく中にろうぜ。はやくしないと遅刻になってしまうぞ」
「うん、そうだね」
僕は、促されるまま慎吾と一緒に學校にる。
とりあえず、あの男子生徒は男子校の生徒だというのはわかった。
あとは、あの男子生徒の名前をどうやって知るかだけど……。まぁ、どうでもいいか。
奈緒さんと登下校をしてれば、いずれは知ることなのだから。
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