《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第四話・9
香奈姉ちゃんが泊まっていくんだったら、部屋を一つ空けておかないといけないか。
僕は、風呂を沸かし終えて香奈姉ちゃんを先にお風呂にれると、すぐに僕の部屋の隣にある空室へと向かう。急いで掃除するためだ。
普段は空室だが、親族やお客さんが來た時のために使われる寢室でもある。
僕のベッドで一緒に寢ると香奈姉ちゃんは言ったが、さすがに間違いが起こったらまずいと思い、丁重に斷った。
だから香奈姉ちゃんには、僕の部屋の隣にあるこの空室を使ってもらおうと判斷したのだ。香奈姉ちゃんが泊まりにくるのは一度や二度のことじゃないから、使い慣れてると思うし。
「──さて、掃除は終わったことだし、香奈姉ちゃんがお風呂にっている間に、皿洗いでもやっておくかな」
部屋の掃除を終えると、僕は再び臺所に向かい皿洗いをし始める。
さすがに香奈姉ちゃんの浴中にするっていう行為はするつもりはない。
「覗きたかったら、遠慮なく覗いてきていいからね。私は、心の準備ができてるから」
と、香奈姉ちゃんがお風呂にる前にそう言われたが、覗く気は起きなかった。
別に香奈姉ちゃんが嫌いだからというわけじゃない。
ただ、浴中くらいゆっくりしてほしいと思っているだけなのだ。小さい頃から一緒にお風呂にった仲でもあるので、単に見慣れてしまっただけなのかもしれないけれど。
浴室からは今も、香奈姉ちゃんの「ふんふーん」というリズムに乗った鼻歌が聞こえてきてる。
「ねぇ、弟くん」
皿洗いが終わり、しばらくしないうちに、浴室の方から香奈姉ちゃんの聲が聞こえてきた。僕が近くにいると思ったんだろう。案の定、僕は浴室のある部屋の近くにいたから、すぐに返事を返した。
「どうしたの、香奈姉ちゃん?」
「ものは相談なんだけどさ。私と一緒にお風呂にらない?」
「ごめん。さすがに無理かな……」
僕は、そう答える。
そりゃ、小さい頃は一緒にお風呂にったものだが、今は小さい頃と事がまったく異なる。一緒にお風呂にるってことは、つまりはそういう事だ。
そんなことは僕にはできない。
「どうして? この間は、一緒にってくれたじゃない」
「あの時は、香奈姉ちゃんが強引にってきたから仕方なくだったんだよ」
「そうなの?」
香奈姉ちゃんは、思案げな様子で言う。その様子だと、あの時の浴室のは無自覚でやったみたいだ。
「そうだよ」
「それじゃ、今回はダメなのかな?」
「香奈姉ちゃんと一緒にお風呂にるのは、さすがに恥ずかしいというかなんというか……」
「そんな恥ずかしがらなくてもいいのに。──小さい頃は、よく一緒にったじゃない」
「昔は恥ずかしくなかったかもしれないけど、今は十分に恥ずかしいんだよ」
「そんなものかなぁ。私にとっては、普通に弟くんと一緒にお風呂にるってだけのことなんだけどな……」
「全で?」
「お風呂なんだし、なのは當たり前だと思うけどなぁ。むしろお風呂にるのに水著って話もないと思うんだけど」
「まぁ、そうだよね……」
僕は、そう言っていた。
香奈姉ちゃんとお風呂にるのには、さすがに抵抗がある。そういうのは人同士がるものだと思うんだけど、違うのかな?
「ところで、弟くんはいつお風呂場にってくるのかな?」
「僕は、香奈姉ちゃんが風呂から上がってくるまで、るつもりはないよ。後片付けもあるし」
「それだと一緒にれないじゃない。せっかく二人っきりなんだから、しくらいハメを外したっていいと思うんだけどな」
それは、品行方正な香奈姉ちゃんの言葉とは思えないくらい、甘えたような様子だった。
「とにかく。僕は、香奈姉ちゃんがった後でいいから」
「それって、まさか」
「ん? どうしたの?」
「私がった後の殘り湯に浸かって堪能するつもりなのかな?」
「………」
一、どこからそんな想像力が出てくるんだろう。
僕は、大きくため息を吐いて言う。
「香奈姉ちゃんがった後のお湯をどうこうしようなんて、最初から考えてないよ。お湯がもったいないから、溫かいうちにりたいだけだよ」
「そうなの?」
「うん。別にやましい事なんて考えてないから、安心していいよ」
「そっかぁ。し殘念だな」
「なんで?」
「弟くんに、私の今のありのままの姿を見てほしいなって思ってたんだけど……。弟くんの態度からして無理っぽいかな」
「香奈姉ちゃん?」
僕は、そう言って浴室の前まで行く。
僕の姿に気がついたのか、香奈姉ちゃんは浴室の戸を開ける。
香奈姉ちゃんは、タオルを元にあてた狀態で立っていた。
「やっぱり來てくれたんだね」
と、いつもの笑顔を浮かべてそう言う。
何故ここに來たんだろうかと思いながらも、僕は笑顔で返していた。
見たところ風呂から上がったばっかりだ。香奈姉ちゃんは、近くにあったバスタオルを手に取り、そのままに巻いた。
僕はすぐに香奈姉ちゃんから視線を逸らし、後ろを向く。
香奈姉ちゃんは、怒った様子もなく笑顔を浮かべたまま僕に言う。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいのに」
「そんなこと言われても……」
「せっかく一緒にお風呂にろうと思ったのに……。最近の弟くんは冷たいなぁ」
そう言われても、香奈姉ちゃんとお風呂にるだなんてことできるわけがないし。兄貴になんて言われるかわかったもんじゃない。そもそも香奈姉ちゃんと一緒に浴なんてした日には、僕の理がどこまで保つかわからないよ。
「──まぁ、先にお風呂にはらせてもらったから、次どうぞ」
「うん」
香奈姉ちゃんのバスタオル姿を眺めるわけにはいかないと思い、僕はとりあえず浴室を後にした。
しばらくして香奈姉ちゃんが浴室から出てきた。そのタイミングを見計らって、僕は浴室にる。この間みたいに、僕が浴中に香奈姉ちゃんがいきなりしてくるってことがないように、しっかりと髪を乾かしたところを確認したのだ。
香奈姉ちゃんがった後にるっていうのも気が引けるが、この際しょうがない。
しばらく経っても、香奈姉ちゃんがってくる気配はない。それはそれで安心なんだけど、し寂しいものがある。
さすがに、二度も風呂にる理由がないから香奈姉ちゃんも來られないんだろう。しかし──
「ねぇ、弟くん」
その聲は、ガラス戸の向こう側の方から聞こえてきた。
僕は、ふいにそちらへと視線を向ける。
浴室の間のガラス戸の向こう側には、たしかに香奈姉ちゃんの姿があった。
湯気ではっきりとは見えないが、香奈姉ちゃんであることには間違いない。
「どうしたの、香奈姉ちゃん?」
「もし良かったら、背中を流してあげようか?」
うーん……。
やはりそうきたか。
香奈姉ちゃんは、なにかと僕の世話を焼きたがる。
今は兄貴はいないから、頼めば喜んでやってくれるんだろうけど……。
「いや。遠慮しておくよ」
と、僕はそう答える。
そう言われてもまったく聞かないのが香奈姉ちゃんだ。
──ガラガラガラ。
それは浴室のガラス戸が開く音だ。
何が起こったのかなんて確認するまでもない。
香奈姉ちゃんが、浴室にってきたのだ。しかもバスタオルを巻いた狀態でである。先程、服を著て部屋を出たのを確認したはずなんだけどなぁ。いつの間にいだんだろうか。
「遠慮するなんて弟くんらしくないぞ。人の好意には素直に甘えないとダメだよ」
ちなみに僕は、一度を洗った後、浴槽の中に浸かっていたのだが。
「え、でも……」
「ほら。私がしっかりと背中を流してあげるから──」
そう言うと、香奈姉ちゃんは僕の腕を摑み、そのまま浴槽から引っ張りあげる。
もちろん抵抗しようと思ったが、相手は香奈姉ちゃんだ。
嫌がったりしたら、香奈姉ちゃんは泣き出すに違いない。
僕は、なされるがままにその場に座らされ、香奈姉ちゃんに背中を向ける。
香奈姉ちゃんは、ボディスポンジにボディソープを含ませ、僕の背中を流し始めた。
「どうかな? 気持ちいい? いところとかないよね?」
「うん。特にいところはないよ」
僕は、香奈姉ちゃんに気を遣い笑顔で返す。
「そっか。それならよかったよ」
香奈姉ちゃんは、そう言うと背中を流す作業を進める。
あれ? なんかあったのかな?
この間、浴室にした時と違い、今回は大人しい様子だ。
ただでさえ香奈姉ちゃんは、れ合うことに対するスキンシップが激しい方だから、今回のように大人しいのはとてもめずらしい。
無事に背中を流し終え、再び浴槽の中にろうとした時、事件が起こった。なんと香奈姉ちゃんがに巻いていたバスタオルをぎ出したのだ。
當然のことだけど、バスタオルを外したらである。
僕は、になった香奈姉ちゃんの姿をジーっと見て、口を開く。
「あの……。香奈姉ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「になって、何しようとしてるの?」
「うん。湯冷めしちゃったから、一緒にろうかと思って」
「いや。それはちょっと困るよ」
「どうして?」
香奈姉ちゃんは思案げな表で、そう聞いてくる。
どうやら本人には、そうした自覚がないようだ。いくら家族ぐるみの付き合いがあるからといって、さすがにそれはない。
「いくら馴染でも、一緒にお風呂にるっていうのは、さすがに……」
「そうかな? わりと普通だと思うんだけど」
「いやいやいや。普通にないって。…小さい頃ならまだわかるけど、高校生になって一緒にるのはさすがにどうかと……」
そう言って僕は、普段通りに浴槽にろうとする香奈姉ちゃんを阻止する。
「人同士なら文句はないでしょ?」
「僕たちは、まだ人同士じゃないと思うんだけど……」
「それならさ。どうやったら、私が弟くんの人になれると思う?」
「僕にそう言われても……。香奈姉ちゃんなら、何かわかるんじゃないかな。…兄貴にも告白されたわけだしさ」
「私なんか、隆一さんにはもったいないくらいだよ」
「そんなこと──」
「そんなことあるよ。──私にはね。弟くんくらいの人の方がちょうど良いんだよ。だから、どうやったら弟くんの人になれるかな?」
そう聞いてくる香奈姉ちゃんの表は、真面目そのものだった。微笑を浮かべてはいたものの、その顔を見たら、僕も真面目に答えないわけにはいかない。
「例えば、好きな人にキスするとか……かな」
そう答えたものの、やっぱり曖昧な態度になってしまう。
「そっか。キスか……。そうだよね」
香奈姉ちゃんは、ボソリとそう言うと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「ちょっ……。香奈姉ちゃん ︎ …近い近い! 顔が近いよ ︎」
「うん。そうだね」
僕の言葉にも耳を傾けることなく、香奈姉ちゃんは微笑を浮かべたまま目を閉じてキスをしてきた。
これで何度目になるだろう。
香奈姉ちゃんからのキスは……。
しかも今回は、僕の浴中にしてくるのか。
香奈姉ちゃんは、僕の行を遮るかのように手を握ってくる。
「あの……。香奈姉ちゃん」
あまりにいきなりの香奈姉ちゃんの行に、僕は呆然となってしまう。
「これは、今の私の気持ちだよ。弟くんなら、よくわかるでしょ?」
「えっと……。香奈姉ちゃん?」
「お風呂場でこんな事するのは、すごく恥ずかしいんだからね。…ちゃんと責任とってよ」
「責任って言われても……。僕、浴中なんだけど……」
「わかってるよ、そんなこと。だから弟くんからも、私に対する誠意がほしいんだよ」
香奈姉ちゃんは、僕がってるにもかかわらず浴槽の中にってくる。
「うわっ! …ちょっと待ってよ、香奈姉ちゃん」
僕は、慌てた様子ですぐさま浴槽から出た。
ただでさえ、お風呂のお湯は満タンの狀態だから、香奈姉ちゃんがってきたらお湯が溢れて無くなってしまう。
「どうしたの? 一緒にらないの?」
香奈姉ちゃんは、思案げな様子でそう言ってくる。
正直に言わせてもらうと、僕は香奈姉ちゃんと一線を越える勇気はまだない。
「僕は十分に溫まったから、もういいよ。香奈姉ちゃんは、湯冷めしちゃったみたいだし、ゆっくりとってくるといいよ」
僕は、そう言うとそのまま浴室を後にする。
香奈姉ちゃんは、意外そうな表で僕を見て
「え、あ、うん。それじゃ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」
そう言っていた。
いくら小さい頃にの付き合いがあっても、高校生にもなれば、それがなくなるのは當然のことだ。ヘタをしたらエッチなことをしかねないし……。
さすがにが冷えたんだろう。香奈姉ちゃんは、しばらくの間湯船に浸かっていた。
──まったく。
香奈姉ちゃんがいると、ちっとも気が休まらないよ。
母さんは何を考えてるんだか。
僕は、盛大にため息を吐いていた。
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