《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第五話・11
まず先に立ち寄ったのは、専門の下著を扱うランジェリーショップだった。
香奈姉ちゃんはたどり著くなり、売りの下著をわざわざ僕に見せる。
「ねえ、楓。…これなんか、どうかな?」
「うん。いいんじゃないかな」
と、僕は微笑を浮かべて答えた。
ショッピングモールを歩くのは構わないんだけど、まっすぐにランジェリーショップに來るのは、もはや計畫的としか言いようがない。
ちなみに、香奈姉ちゃんとこの場所に來るのはこれで二回目だ。
さすがにの子が男の子を連れてランジェリーショップに來るのはめずらしいのか、の店員さんが僕に
「彼さんですか?」
そう訊いてくる。
もはや興味津々にだ。
僕は、苦笑いをして
「ええ。まぁ……」
と、そう答えていた。
すると店員さんは笑顔で僕に言う。
「ずいぶんと可い彼さんですね」
「ど、どうも……」
香奈姉ちゃんは、僕の自慢の彼なんだから、可いのは當然だ。
店員さんは、僕と香奈姉ちゃんのことを覚えていたのか、さらに訊いてきた。
「前にも、この店に來ましたよね?」
「あ、あの時は、彼に連れられてしまって……」
「なるほど。それじゃ、今回も例の彼さんに?」
「ええ、まぁ……。僕本人としては、ここに來るのはどうにも張するというか、なんというか……」
うーん……。
なんとも説明しづらい。
ランジェリーショップの店員さんと、こうして話をすること自、張する。
「張することはないと思いますよ。男の子に下著を選んでもらうっていう行為自は、の子にとってはとても重要なことなんですよ」
「そういうものなんですか?」
「君は、子校に伝わっているジンクスを知らないのかな?」
店員さんにそう言われ、僕は「う~ん……」と困ったような表を浮かべる。
「知らないことはないけど……」
「だったら、しっかりと応えてあげないと。彼さんに嫌われてしまうぞ」
店員さんは、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。
香奈姉ちゃんに嫌われるって言われても、いまいち信憑に欠けるっていうか。
それよりも、なぜ香奈姉ちゃんが通っている子校のジンクスを、この店員さんは知ってるんだろうか。
その辺が不思議だ。
子校を卒業生だった人なのかな。
「楓。これなんて、どうかな?」
無邪気なもので、香奈姉ちゃんはショーウィンドウのマネキンに飾られてるパンツを指さして、僕に聞いてきた。
本當は、そんなところ見たくないんだけどな。
の下著しかないようなところなんかさ。
僕は、仕方なく香奈姉ちゃんが見ていた飾られてたパンツを確認する。
やはりセンスが抜群にいいのか、その下著は子供っぽくもなく、かと言って大人っぽくもない、年頃のの子が選ぶような可らしい下著だった。
「うん。いいんじゃないかな」
やはり、そうとしか答えられない。
僕は、の子の下著について詳しいわけじゃないから、何が可くてセンスのいい下著なのかわからないけど、香奈姉ちゃんが気にっているんなら、それでいいんじゃないかと思う。
香奈姉ちゃんは、不満そうな表で
「適當に答えてない?」
と、そう言う。
さすがに、傍らにいた店員さんも、これには苦笑いを浮かべていた。
僕は、弁明するつもりもなく、こう答える。
「え、そんなことはないよ。ちゃんと、真剣に答えているよ」
「ホントかなぁ」
香奈姉ちゃんは、訝しげな表で僕を見る。
そんな目で見られても、僕は噓はついていません。
香奈姉ちゃんは、しばらく僕を見ていたが、他に気にった下著を見かけるとそれを手に取り、そのままレジへと向かう。
どうやら、その下著に決めたようだ。
「──お待たせ。次は、洋服を見に行こう」
買いを終えると、香奈姉ちゃんは僕の手を引いて歩き出す。
店員さんから、「ありがとうございました」と笑顔で聲をかけられるが、それはまるで、僕にかけられた言葉にじてしまった。
次に向かったのは、香奈姉ちゃんが言ったとおり洋服店だった。
やはりショーウィンドウにあるマネキンには、今、流行の服が著せられ、飾られている。
香奈姉ちゃんは、それには目もくれず、他の気にった洋服を複數手に取り、試著室に向かっていった。
「ちょっと待っててね」
「うん」
──數分後。
試著室のカーテンが開く。
「ねえ、楓。この服…どうかな?」
と言って出てきた香奈姉ちゃんは、気にった洋服を見事に著こなしていた。
上下のセットなのか、コーディネートはバッチリだ。
「うん。よく似合っているよ」
「そっか。似合っているか。もういくつかあるから、もうちょっと待ってて」
「わかった」
さらに數分後。
「それじゃ、この服はどう?」
次に著替えた洋服も、さっきのよりは地味なじだが、香奈姉ちゃんが著ると全然違う。
僕は、微笑を浮かべて答える。
「いいんじゃないかな」
「また適當に答えてない?」
「ちゃんと見て答えているよ。香奈姉ちゃんは、何を著ても似合うから、他に言葉が見つからなくて……」
「ホントに?」
「うん。香奈姉ちゃんが気にった服は、大抵ハズレなしだから、似合っているとしか言えないよ」
「そっか。そう言ってもらえると、なんだか嬉しい」
香奈姉ちゃんは、笑顔でそう言っていた。
本當なら、僕が香奈姉ちゃんの行きたい所に連れていってあげたりするのが、デートの基本なんだけど。
気弱な格のせいで、逆に香奈姉ちゃんにエスコートされちゃってる形だし。
まぁ、仮に僕がデートにっても、行き先のプランを立てる事なんてできないから、失敗するのが関の山なんだろうけど。
その後は、喫茶店で一緒にお茶を飲んだり、ゲームセンターに行ったりと、デートを楽しんだ。
一番まいったのは、途中でお手洗いに行った時のことだ。
デートも終わり、その帰りってこともあって、気が緩んだんだと思う。
「ごめん。ちょっと、お手洗いに行ってくるね」
「うん。…いってらっしゃい」
香奈姉ちゃんも、安心して僕をトイレに行かせてくれた。
今にして思えば、香奈姉ちゃんを一人にしたのが悪かったんだと思う。
何があったかなんて、言うまでもない。
──そう。ナンパだ。
僕がお手洗いから戻ると、複數人の男が香奈姉ちゃんの前に立ち、「君、今一人?」と、話しかけていた。
僕はすかさず
「香奈姉…いや、香奈さん」
と、聲をかける。
──おっと。いけないいけない。
他の人の前で香奈姉ちゃんと呼ぶのは、彼氏として失格だ。
「あ、楓」
香奈姉ちゃんは僕の姿に気がつくと、すぐに僕のところにやって來て、腕を組んできた。
「すみません。私、彼氏とデート中なんです。ね。楓?」
「うん、香奈さん」
僕は、そう頷いて話を合わせる。
香奈姉ちゃんのその言葉に、男たちは引き下がるしかなかったようだ。
男たちは、僕のことを一瞥すると「ちっ! 彼氏付きかよ」と言って一様に舌打ちし、そのまま去っていった。
男たちが去っていった後、香奈姉ちゃんは、安心したかのように大きく息を吐く。
「ふぅ~。なんとかやり過ごすことができたよ」
「間に合ってよかった」
「ホントにだよ。楓が來てくれて助かったよ」
「トイレから戻ってきたら、香奈姉ちゃんがナンパされてるんだもん。正直、びっくりしたよ」
「私もびっくりしたのよ。何気なくベンチに座っていたら、いきなり聲をかけられたんだもん」
どうやら、香奈姉ちゃんはホントに何気なくベンチに座っていたらしい。
まぁ、香奈姉ちゃんは黙っていても可いから、他の男たちからしたら、聲をかけたくなるのかもしれないが。
僕は、改めての子の大変さに気がついて
「そうなんだ。…の子って大変なんだね」
そう言っていた。
可いと周囲から聲をかけられる可能も高くなるみたいだ。
「そうだよ。…々と大変なんだから」
香奈姉ちゃんは、僕の顔を見てそう言った。
そこまで大変なら、今度からは、僕が守ってあげないとな。
「とりあえず、デートも無事に終わったことだし、家に帰ろうか?」
僕は、香奈姉ちゃんにそう言った。
香奈姉ちゃんも、「え? もうそんな時間?」と言ってスマホを見る。
気がつけば、もう午後の三時になっている。
今から帰れば、ちょうどいい時間だ。
ちなみに、今日の予定には、バンドの練習することは書かれていない。
「今から家に帰ったら、々と準備に間に合いそうだしさ」
「…そっか。楓がそう言うのなら、帰ろうか」
香奈姉ちゃんは、し殘念そうな顔をしていた。
まだ一緒に行きたい所でもあったのかな?
ショッピングモールは大回ったし……。
他にあるとすれば、場所は異なるけど楽店とかかな。
「他に行きたい場所でもあった?」
僕は、何気ないふりをして訊いていた。
「ううん。特にはないかな」
香奈姉ちゃんは、作り笑いをしてそう答える。
その言葉は、噓だというのはすぐにわかった。
香奈姉ちゃんが作り笑いをする時は、何かを我慢している証拠だ。
僕は、香奈姉ちゃんの手を取り
「ホントに、行きたい場所はないの?」
と、普段より強い口調で言う。
僕にそんなことをされるとは思わなかったのか、香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに顔を赤くする。
「え、いや……。ないって言えば噓になるけど。そんな──」
たぶん、僕が積極的な態度で香奈姉ちゃんの手を取ったのが、かなり効いたらしい。
だけど僕は、ここで引くつもりはない。
「どこなの? 僕も一緒に行くから、案してよ」
「…ホントにいいの?」
「もちろんだよ」
「私も、一人であそこに行くのは不安だったから、かえって助かるかな」
「ん? どこへ行くの?」
「著いてからのお楽しみだよ。早く行こう」
香奈姉ちゃんは、そう言うと摑んでいた僕の手を握り返してきて、有無を言わさず引っ張っていく。
予定していた夕飯の準備はし遅れそうだけど、この際仕方ない。
夕飯のための買い出しには、香奈姉ちゃんと別れてから行くことにしよう。
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