《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》第五話・12
香奈姉ちゃんとやって來た場所は、以前に一緒にったライブハウスだった。
あの時は奈緒さんを見かけ、追いかけるようにしてったが、今回は違う。奈緒さんがいるかどうかもわからない。
香奈姉ちゃんが來たかった場所って、ライブハウスなのか。
「香奈姉ちゃん。ここって──」
「うん。ここに來たら奈緒ちゃんに會えるかなって思って」
「やっぱり、奈緒さんに會いたかったんだね」
「當然だよ。奈緒ちゃんは、私たちの大切なメンバーなんだから──」
香奈姉ちゃんは、そう言ってライブハウスの看板を見上げる。
僕は、不安そうに言う。
「今、いるのかな?」
「いるといいんだけど……」
香奈姉ちゃんも、不安そうだった。
この時間にいるかどうかもわからないんだから、不安になるのも當然だろうな。
そうしてろうかどうか迷っていると、後ろから誰かに聲をかけられる。
「こんなところで何してるの?」
「え?」
僕と香奈姉ちゃんは、本能的に聲がした方を振り返る。
聲をかけてきたのは、香奈姉ちゃんと変わらないくらいの年齢のロングヘアのの子だった。
一眼見た印象では、優しいじというよりも、気の強そうなじだろうか。
ギターがったケースを肩に擔ぎ、ライブハウスにろうとしていたみたいである。
聲をかけてきた瞬間に、奈緒さんが聲をかけてきたかと思ったんだけど、理想とは違ったみたいだ。
僕と香奈姉ちゃんは、聲をかけられた相手が奈緒さんじゃなかったから、しばし呆然となってしまう。
ロングヘアのの子は、呆然となってしまった僕たちを見て、呆れた様子で言う。
「ここ…ライブハウスなんだけど……」
いや、そんなことはわかってるんだけど。
香奈姉ちゃんは、周囲を見て奈緒さんがいないことに気がつくと、大のことを理解したのかロングヘアのの子に言った。
「知ってるよ。私たちもお世話になってるし」
「だったら、何の用件で?」
「私たちは、知り合いがいないかどうかを確認しにきただけだよ」
「知り合い? バンドメンバーに知り合いでもいるの?」
「う~ん……。なんて言ったらいいのかな。々と事が複雑でね。まぁ、今回はいないみたいだから、もう帰ることにするよ」
「ちょっと待って。あなたの言う『知り合い』ってまさか周防隆一さんのことじゃ──」
ロングヘアのの子はそう言うが、香奈姉ちゃんは取り合わず、僕の手を摑み
「行こう。楓」
と言って、僕を引っ張っていく。
「あ、ちょっと待っ──」
僕が慌てた様子でそう言って制止しても、香奈姉ちゃんは問答無用だった。
他のの子と話をさせたくないのかもしれないが、まったく挨拶をしないのも無禮だ。
そう思った僕は、ロングヘアのの子に軽く會釈をする。
するとロングヘアのの子は、びっくりした様子で僕を見てきたが、微笑を浮かべ會釈で返してきた。
一見すると無想なじをけたが、そうではないみたいだ。
こう言うのもなんだが、結構可かったりもする。
香奈姉ちゃんは、余計に不機嫌な顔になり僕の手をし強めに引っ張った。
「ほら、行くよ」
「う、うん」
僕たちのやりとりを見て呆然となるロングヘアのの子。
僕は、なすなく香奈姉ちゃんに引っ張られていった。
こういう時ほど香奈姉ちゃんは強引だからなぁ。
見知らぬの子と話をさせたくないのが見え見えだ。
今度から、こういう所には僕一人で來ようかな。
家に帰ると僕はすぐに夕飯の準備を始める。
「今日の獻立は何かな?」
傍にいた香奈姉ちゃんは、そう聞いてきた。
一度家に帰ってから僕の家に來たので、いつもの服に著替えは済ませている。
それにしても、その服裝は普段から見てるけど、ミニスカートはどうにかならないんだろうか。いくら著やすい服裝だからって、無防備にもほどがある。
ソファーに座る時に下著が丸見えになるんだけど……。
僕は、今日買ってきた食材を確かめて、答える。
「ん~。特には考えていないけど……。秋刀魚を買ったから、今日は焼き魚かな」
「今日は、主に魚類の方を見ていたもんね」
「うん。なんとなく食べたくなって」
「楓はそういうところがわかりやすいから、いいんだよね」
「そういうものなの?」
「そういうものなんだよ。楓は、いつもの楓でいいの」
香奈姉ちゃんは、笑顔で言う。
その笑顔を見て、申し訳ない気持ちになる。
──今から一時間前。
香奈姉ちゃんとのデートのその帰りに、夕飯の食材を買いに行った。デートの帰りに夕飯の食材を買いに行くなんてのは、おそらく前代未聞だろう。だけど家の冷蔵庫に食材がほとんどなかったので、誰かが買いに行く必要があったのだ。
兄が夕飯の食材を買いに行くってことはまずないから、必然的に僕が買いに行かなきゃいけないのである。
その結果として、香奈姉ちゃんを付き合わせてしまった。
普通のの子なら、たぶん夕飯の食材を買いに行くって言った時點で不満そうな顔になるだろう。
だけど香奈姉ちゃんは、それすらも楽しんでいる様子でわざわざついてきてくれたのだ。
「無事に家に帰るまでがデートだよ」
と言って──。
香奈姉ちゃんは、兄には厳しい事を言うが、僕にはなにかと優しい。
僕の彼になると言ってきた時は、正直、僕なんかでいいのかなって思ったが、香奈姉ちゃんがそれでいいのなら、僕は敢えては言わないつもりだ。
僕も、香奈姉ちゃんのことは好きだし。
夕飯を食べ終え、お皿などの洗いをしていると香奈姉ちゃんは、背後から僕に抱きついて話しかけてきた。
「ねえ、楓。今日は、何するの?」
そんな甘えたような顔で聞いてきても、特にすることはないんだけど……。
今日は別室が使えないので、個人練習はできない。だから、自分の部屋で漫畫の本でも読もうかとも思っていたのだが。
「何するのって聞かれても……。今日は、特にすることないから、漫畫の本でも読んでゆっくりしようかなって思って」
「それじゃ、私がつまんないよ。二人で楽しめるようなものってないの?」
「うーん……。カードゲームとかがあるけど、僕が知ってるカードゲームって、多人數向けだしなぁ」
「そんなものよりも、もっと楽しめる遊びがあるよ」
そういうと香奈姉ちゃんは、苺味のポッキーを僕に見せた。
ちなみに、その苺味のポッキーは買いの時に一緒に買ったものだ。
「どんな遊びなの?」
「今から、やってあげるよ」
僕が聞くと、香奈姉ちゃんはポッキーを一本取り出して僕の口にくわえさせる。
「っ…… ︎」
洗いの最中なので、僕の両手は完全に塞がってしまっている。そのため、香奈姉ちゃんが何をしようとしても抵抗ができない。
香奈姉ちゃんは、悪戯っぽく笑い
「ちょっと、ジッとしていてね」
そう言うと、僕がくわえているポッキーの反対側の部分をくわえてきた。
──香奈姉ちゃん。顔が近いよ ︎
そんな心のびも、たぶん香奈姉ちゃんには聞こえていないだろう。
香奈姉ちゃんは、苺味のポッキーをポリポリと食べながら僕に近づいていく。
だんだんと食べるところが無くなり、僕のにれる直前でポキッと折れる。
「あん、もう! …もうしだったのになぁ」
香奈姉ちゃんは、しだけ悔しげな表を浮かべそう言った。
なんで、そこで悔しそうな顔をするのかよくわからないんだけど……。
「香奈姉ちゃんは、何をしようとしているの?」
僕は思案げにそう聞いていた。
まさか、これが香奈姉ちゃんの言う、遊びなのか。
一つ間違えたら、このままキスしてしまうような気がするんだけど……。
「もう一度やるよ。──はい。あーんして」
香奈姉ちゃんは、もう一本ポッキーを取り出し、再び僕の口元にくわえさせようとする。
「いや、香奈姉ちゃん。それは、さすがに──」
「いいから、やるの」
「んぐっ……」
僕の言葉を遮るように、香奈姉ちゃんはポッキーを僕の口に押し付けてきた。
僕に有無を言わせないつもりだ。それ以前に洗いの最中で無防備だし。
これが何の遊びなのかよくわからないが、男の子とやる遊びではないことはよくわかる。
「よし。もう一度」
香奈姉ちゃんは、再びポッキーの反対側をくわえ、ポリポリと食べ始めていく。
だんだんと香奈姉ちゃんの顔が近くにきて、またもキスするその直前でポキッと折れた。
香奈姉ちゃんは、悲しそうに僕を見て言う。
「私と、……するのは嫌なの?」
「え……」
そう言われても、今は洗いの最中で手が離せないし。
「私と、キスするのは嫌なのかな?」
「キスって……。いつの間にそんなことに? 僕は、てっきり何かの遊びかと思ってたけど」
「うん。遊びだよ。──しの弟くんにキスする遊び」
「いや、それって遊びじゃないでしょ。完全に狙ってきてるよね?」
「私たち、付き合ってるんだよね?」
「う、うん。表面的には、付き合っていると思うけど」
「だったら、何も問題ないじゃない」
香奈姉ちゃんはそう言って、再度ポッキーを差し向けてくる。
まだ洗いが終わったわけじゃないけど、僕は差し向けられたポッキーを見て、思わず一歩下がってしまう。
「たしかに問題はないけど……。それって、洗いの最中にすることなの?」
「キスをするタイミングって、とてもむずかしいんだよ。心の準備やきっかけが必要になるし」
「そういうものなの?」
「そうだよ。いつでもできるわけじゃないんだよ」
その言葉と同時に香奈姉ちゃんは、差し向けたポッキーを、そのまま僕の口に押し込んだ。
「むぐっ……」
「──というわけだから、ちょっとだけ我慢してね」
僕の都合なんてお構いなしに、香奈姉ちゃんはまたもポッキーの反対側を食べ始めた。ちなみに、これで三度目だ。
これは遊びもあるかもしれないが、香奈姉ちゃんが僕にキスをしたいっていう態度の表れなんだろう。
香奈姉ちゃんがしたいと思うことは僕には止められないのだから、どうしようもない。
そうこうしているうちに、ポッキーはポリポリと食べ進められていき、香奈姉ちゃんのは、僕のにれる。
「ん……」
僕は、香奈姉ちゃんののらかさにしだけ驚き、を引いてしまう。
「ダメ……」
香奈姉ちゃんは、僕を離すまいと思ったのか強引に抱きしめ、改めてキスをしてきた。
──ちょっと、香奈姉ちゃん ︎
洗いがまだ終わってないんだけど……。
そう思って抵抗して香奈姉ちゃんから離れようとしても、香奈姉ちゃんは僕を離そうとはしないし。
「もうしだけこのままで……」
このままだと、いつまで経っても洗いが終わらない。
「気持ちはわかるんだけど、まだ洗いが終わってないからさ。まだしたいのなら、僕の部屋でいいかな?」
「楓の部屋で?」
「こんなところで、その…キスされても、恥ずかしいだけだし」
「私だって、恥ずかしいよ」
香奈姉ちゃんは、頬を染めて言う。
恥ずかしいのなら、なぜキスをしてくるんだろう。
そうツッコミたい気持ちになったけど、ここはグッと我慢する。
「それなら、なんで僕にキスするの?」
「ん~。なんとなくかな。楓を見ていると雰囲気でしたくなっちゃうんだよね」
香奈姉ちゃんは、をもじもじさせながらそう答えた。
僕って、そんなにキスしたいような雰囲気を出してるんだろうか。よくわからない。
「雰囲気…かぁ。香奈姉ちゃんは、いつも突然だから、ドキドキしちゃうよ」
「それが、逆にいいんじゃない。知っててされるより、いきなりする方が刺激的でしょ?」
「刺激的って……。まぁ、には多の刺激が必要なのは理解できるけど、遊びには……」
遊びでやることじゃないような気がするんだけどな。
「遊びでもだよ。楓は、私のこと好きじゃないの?」
「香奈姉ちゃんのことは、好きだよ」
「それなら、遠慮することないじゃない」
「うん。だから、僕の部屋で続きをしようよ。…それなら、恥ずかしいことだって、きっとできると思うんだ」
「む~。ちょっと納得がいかないけど、洗いがあるならしょうがないか。…それじゃ、続きは楓の部屋でしよう」
香奈姉ちゃんは、しだけ不満そうな顔になるが、そう言ってポッキーを食べ始めた。まるで、今もっているみたいに。
そんな顔して強請ってきても、ダメなものはダメだ。
もし、この狀況を兄や母に見られでもしたら、なんて説明していいのかわからないし。香奈姉ちゃんは、何を考えているんだろうか。
僕には、よくわからない。
とりあえず僕は、洗いをさっさと終わらせてしまおうと思い、手をかす。
何もない夜くらいは、僕の部屋に行ってのんびりしたいし。
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