《問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『霊使いで再起しました。』》
エレーナとハルナは、町に向かって歩いていく。
始まりの場所からは、ゆっくり歩いて一時間弱程の距離だという。
ハルナは移の間、ここぞとばかりエレーナに質問を繰り返した。
エレーナも同じくらいの歳のハルナとは気が合うようで、ハルナの好奇心に付き合ってくれていた。
一番関心があるのは、やはりハルナの世界には存在していなかったが、こちらの世界では普通に存在している霊のことだった。
エレーナは、ここでしだけ霊についてレクチャーしてくれた。
その容は次の通り。
・霊の力は、霊と契約することにより、契約者主導で能力が使えるようになる。
・力は霊と介して発生させるため、霊の意志下で行われる。
・元素は無から生み出すのではなく、その場にある元素を使って発現する。(元素の消費量はレベルに応じて効率が良くなる)
・力は元素を作することにより効果が発現する。
  ・本來、各屬間での相生相克の関係はない。ただ同じくらいのレベルだとその関係が影響することもある。(例:水は火を消す)
・霊は最初から獲得している屬に加え稀に他の屬を覚えることもある。
これにはハルナはともかくフウカも勉強になった。
今まで霊を扱っている人間の方が経験があるため、力の使い方については人間の方が霊自よりも知識があったということだろう。
「その霊は人型だけど、普通の霊は形がないの」
エレーナの杖の先の石から、青白いが現れた。
あの森の白いよりもふた回り程大きい。
「これが、あたしの契約した霊。一緒に過ごしてもう2年くらいになるかな」
青い霊はエレーナの周りを挨拶するかの様に、數回周りを回ってエレーナの手のひらの上に乗った。
普段は石の外に出て、一緒に暮らしているらしい。
通常は姿を隠しているが、エレーナに呼ばれたり、外出するときに杖の石の中にるときにはその姿を現す。
そして、もし霊を使うもの同士が戦う場合には、相手の屬やレベルをなるべく知っておいた方がいいとのこと。
レベル差、屬差をどのように考慮すべきかが必要となってくることが理由らしい。
「さっきの私の場合だったら、どうしてたの?」
「そうね…… さっきの場合だと、既に竜巻が見えてたから“風”っていうのは想定してたの。でも、本當にそうかどうか、その場所に一人なのか複數人なのかは、実際この目で確認しないと分からないから報を手にれることも重要ね。それに――」
「それに?」
「普通、理由もなくあんな神聖な場所で大きな竜巻起こすことなんてないのよ!  あれは力が暴走してるかよっぽどのことが起きてるんだって思ったの!」
「いやー、お恥ずかしい……」
エレーナは、普通の人にはそんな力は容易に出せるものではないという事実は、なんとなく悔しかったので黙っておくことにした。
ガサッ
前方から、自分達以外の何かが枯葉を踏む音がした。
エレーナは急に足を止め、ハルナに靜かにするよう促した。
気配を伺い、あたりを見回す。
張り詰めた張と、どこからか狙われている視線をじる。
エレーナとハルナは思考と息を止め、小さな音がしでもしないか、気配を探った。
グガルルルルル……ッ!
奇襲を掛けるつもりだったらしいが、獲が警戒し始めたため音の正は姿を現した。
――野生の狼だった。
ハルナはエレーナの顔をみる。
エレーナは獲を見つめたまま、ハルナにかないように合図した。
エレーナの杖の先は、狼の方へ向いている。
だが、こちらからは仕掛けるつもりはなさそうだ。
狼は牙を剝き出しにしたまま、低い勢を保ちながら周回してこちらを威嚇する。
と、その時やや右斜め後方から、もう一匹の狼がこちらに向かって草むらから飛び出して襲い掛かってきた!
ギャン!
エレーナは一瞬にして、その方向に水の壁を作った。
その壁は下から上に吹き出しているため、狼は水壁を貫くことはできず、その勢いによって弾かれてしまった。
ハルナは、驚いた。
狼が飛び出したことよりも、見えない方向からの襲撃に対応したことを。
エレーナは構えていた杖をの正面、正中線上に構え直す。
目を瞑ると2つの回転する、水のが現れた。
「――行きなさい」
エレーナは杖を地面にコツンと付けると、そのは何とか避けようとする狼の口を縛った。
口を塞がれた二匹の狼。
これではメインの武となる牙で、獲に襲いかかることもできない。
後ろ足で口元を蹴り出したり、頭を素早く左右に振って落とそうとしてみる。
最終的には、を地面にり付けるなど意味のない行でなんとか必死に外そうとする。
もはや、狼からは威嚇の聲は聞こえず、自のが自由にできない悲痛なびしか聞こえない。
エレーナは、その様子を犬を躾けるかのような厳しい目線を送る。
どちらが生態系の順位が上なのかを、明確に理解させるために。
ハルナは、悲痛な狼の訴えを聞いているのが辛くなってきた。
エレーナは、分かったかと言わんばかりにふんっと軽く息を鼻から出すと再度杖で地面を叩く。
同時に水のは空気中に消え、狼の口は自由になった。
そんな狼に向かい、足を一歩踏み出すエレーナ。
狼は言葉通りに尾を巻いて、森の中へ全力疾走した。
周囲の警戒を解き、二人は落ち著きを取り戻す。
「ああいうのもいるんだ…… 一人で歩いてたらどうなっていたことか」
「対抗するがなければ危険ね。 武か霊が扱えるなら……あんなものよ」
エレーナはにっこりと笑った。
「逃してしまって大丈夫なの?」
「狼だって、森の生きなのよ。無闇に殺生したりしないわ。それに向こうにだって襲う理由があるはずよ。例えば、ナワバリにってきたとか……ね」
ハルナは関心した。
森の生きを人間の益か害か勝手に判斷するのは、おかしな事なのだ。
「ただ脅威になるなら、こちらも容赦はしないけどね」
そこは弱強食の理論なのだろう。
だからこそ無用な殺生しないために、圧倒的な力の差を見せつける必要があったのだ。
「大丈夫? そろそろ出発しましょうか」
座り込んでいたハルナは後ろの砂を手で払い、先に歩くエレーナの後ろを追って歩き出す。
そして、先程の騒を思い返してみる。
一匹と思っていた狼が二匹いたこと。
相手の狀態を把握する必要。
これは先ほどのレクチャーをけていた注意點だ。
次にどのように2つのをそれぞれの方向に移させて、く小さな的に向かって正確に口を塞ぐことができたのか。
(慣れれば、できるのかなぁ……)
この世界で生きていくならば、そういうことまでできるようにならなければならないのだ。
場所は変わり、とある屋敷の中。
「エレーナ! エレーナ!  まだ戻ってないの!?」
「アーテリア様、エレーナ様はまだお戻りになられておりません」
「――もう!  戻ってきたらすぐにわたくしのところへ!」
「畏まりました。 アーテリア様……」
メイドは、この屋敷の主の姿が扉の奧に消えるまでスカートの両裾をつまみ上げ、頭を垂れていた。
この屋敷は町の中でも、一際目立ち、普通ではない豪華な様相を呈していた。
――ここは、風の町を治める大臣、フリーマス家の屋敷。
東の王國の領土にあり、四つの城下町のうちの一つ。
風の町【ラヴィーネ】、人口は約3000人。
特にこれといった産業はないが、始まりの場所の森のり口の近くということもあり、主に國での霊に関する祭事はこの町を中心に行われていた。
そのため、森の管理費などが王國の公費からこの町に付されていた。
そして一般的な町の財源や付金の管理、祭事の管理、森へ立ちる許可など、今は全てフリーマス家が請け負っていた。
他の大臣から見れば、自分より特権を持つということは面白い話しではない。
だが、何ができるということもなくただただ狀況の変化を待つのみであった。
「みて、町はすぐそこよ」
山の上にそびえる城。その麓には城を中心とし扇狀に四つの城下町が並ぶ。
エレーナの町は森に一番近い場所にある。
あとは道に従いさえすれば、迷うことなく町にたどり著ける。
「う、うーん…… やっと著いたねー」
ハルナの元の中でずっと寢ていたフウカが背びをしながら顔を出す。
「何言ってんの。歩いてたのは、私なのよ!」
町についた喜びで、笑顔で怒るハルナ。
「え? その霊、お話しができるの???」
「ん……っと? 話してなかったっけ?」
確かに顔を出しはしたが、話してなかった気がする。
通常、霊は話さないらしい。
渉や契約の際にも、失敗すればその姿がただ消滅するだけなので、消滅しなければ功という判斷になっていたようだ。
あとは霊使いのトレーニングをする過程の中で、自分が契約した霊がどの屬かを確認していくのが通常であったため、特に霊と會話ができなくとも困ることはなかった。
(そういえば、ハルナは霊のことも知らなかったし、力の使い方も知らなかったはず。誰かが教えたと考えるなら霊から直接教えてもらったって考えれば話が通るわね……)
エレーナのはハルナの元のフウカに向き、元に手を當ててお辭儀し挨拶をした。
「改めてご挨拶させて頂きます、霊様。わたくしエレーナと申します」
「あ… え…  」
フウカは泣きそうな顔をしている。
?
エレーナは不思議そうにみる。
「……フーちゃん、もしかして人見知りなの?」
フウカは再び元へ潛り込む。
「こちらこそ、いきなり話しかけてごめんなさい……」
エレーナはフウカに詫びた。
「……大丈夫。 もうちょっとで落ち著くから、それまで待ってて」
フウカは顔を出さずに元から返事をした。
「エレーナさん、ごめんなさいね……」
ハルナとエレーナはお互い顔を見合わせた。
そして二人は可らしいこの出來事を笑った。
森が終わる手前で道幅も大きくなり舗裝された道に変わっていき、森を抜けるとその周囲は公園のように整備されていた。
エレーナは立ち止まり、上に著ていたローブをいで、それをハルナに手渡した。
「町の間を住人が移するには証明書があるから問題ないんだけど、登録されていない町からるには紹介狀か多額のお金を預けなきゃいけないの」
そしてエレーナは著ていたローブをいで、ハルナに手渡す。
「あと、その服はどこのものかわからないけど、目立つからこのローブ著てフードを被っててくれない?問題なっても面倒だし 」
「う、うん。わかった」
ハルナは余所者的な扱いに、やや疎外をじた。
だが、この世界の人にとって自分は見知らぬ人であることを理解し、それに従うことにした。
「フウカ様も聲を出したり、しの間ですが姿を見せないで下さいましね」
「わかった!」
さっきより落ち著いた聲で返事をするフウカ。
慣れてきた様子でハルナも安心した。
もうしだけ歩いて行き、町と森を隔てている関所の前までやってきた。
「ちょっと話しをつけてくるから、しここで待ってて」
ハルナは、了解した。
エレーナは関所前の二人の門番の前に近づいていく。
敬禮して、門番の一人が話しかけてきた。
「これはエレーナ様、お帰りなさいませ。いつもより遅いお戻りですね」
「ご苦労様。 し不審な點があったので、調べていたら遅くなってしまったの。どうやら問題はなかったわ」
「そうでしたか。エレーナ様であれば問題ないと思いますが、不審なものがありましたら警備隊にお任せ下さい!」
「ありがとう、その時はよろしくお願いします。ところでいま、隊長はいますか?」
「は! 只今呼んでまいります、々お待ち下さい」
二人いた門番のもう一人が、隊長を呼びに行く。
その前にチラッとハルナの方に目線を移させたがハルナはフードを被っているため、顔貌は見えない。
ハルナの位置からはエレーナ達の會話は聞こえてこない。
一応短い時間の中で仲良くなったと思っているので信頼はしているが、心の中に不安が募る。
関所では、門番が呼んできた関所警備隊の隊長が姿を現した。
「お待たせしました。お帰りなさいませ、エレーナ様。どうなされましたか?」
エレーナは大幅に音量を落として、隊長と呼ばれる人に告げた。
「捜索依頼のあった“例”の件で、町に人をれたいの……」
――!
隊長の顔に張が走る。
「畏まりました!お屋敷の方へは私から連絡を出しておきます!」
「お願い、では。」
門番達にも會話の容は聞こえなかったようだが、部下は隊長の行うことには疑問を抱かない。
隊長は門番にエレーナ達を通す様に指示し、自分の仕事を遂行するために詰所奧へ別の指示を出しに戻っていった。
エレーナはハルナの元に戻り、何事もなかった様に告げた。
「さ、行きましょ。関所を超えたら馬車で町まで移よ!」
関所の門は大人が一人ずつしか通れる幅しかない。
まずはエレーナが先に門を通り、振り返ってハルナに通ってくるように手招きした。
ハルナは通る際に門番の視線が気になったが、フードで顔も見えないためそのまま足早に通り抜けた。
門の中にると、じがガラッと変わった。
小さなバスステーションのようなスペースに、馬車が數臺停まっている。
都心からは離れたじの駅前のターミナルのような景観だった。
馬車は普通の馬車が二臺と豪華な馬車が一臺停まっている。
町との距離を離したのは、外から攻められた場合に、町中に被害が出ることを極力防ぐためとのこと。
そのため、森から離れた町へ行くために通常は定期運行する馬車が使われている。
エレーナは一般用の馬車ではなく、豪華な方へ當たり前のように向かっていく。
馬車の前では者がおり、踏み臺を設置しり口を開き、迎えれる準備をする。
ハルナはり口の前で立ち止まり、戸う。
(こういう場合、どこに座るんだっけ?)
お店の中では、冬さんたちがお客様を導する場所を指示してくれてたし、お客も偉い方なんだろうけど気さくに接してくれていたので一般的なマナーに関しては殆ど知識がない。
(くっ…… ちゃんと勉強しておけばよかった!)
ハルナがそんな事を考えているとは知っているかは分からないが、中々らないハルナに聲を掛けるエレーナ。
「どうしたの?  乗っていいのよ? 」
(失敗したらゴメンなさい……)
そう心で呟いて、ハルナは乗り込み奧の座席に座る。
――!
座席が至極のふわふわであり、誰かこの前に座っていたかの様な暖かさ。
一瞬でかなり豪華なものだと分かった。
そして、ハルナはもう一つ分かったことがある。
(エレーナは、お金持ちだったのね……)
『本當はこんなに気軽に話しかけてはいけない人』なのではないか。
ハルナの背中に冷たい汗が伝う。
続いて、エレーナが優雅に乗り込みハルナの隣に座る。
するとり口は靜かに閉められ、踏み臺を回収した者は前面の臺に座る。
手綱を握り、二頭の馬に合図を送ると馬車はきだす。
よく訓練された馬なのだろう、出足の衝撃もなく自車の様に靜かに走り出した。
馬車がターミナルを出ていく際、進行方向を変えた時に窓の外に森の景が見えた。
ほんの數時間前まで居た場所。
今でも信じられない様な出來事が起きた場所。
まだ、半日も経っていない間に自分が死んでしまった事さえも忘れてしまいそうな怒濤の出來事で不安が塗り替えられていく。
二人は馬車に揺られながら町中へ向かった。
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